レティーシャと杖 一
杖に付いている宝玉は見た感じの大きさが野球のボール位だと思う。
かなり濃いピンク色をしていて、光の屈折か何かの影響か近くで見ると白い星みたいな物が見える。
杖の木材は何かは分からないがかなり黒っぽくて艶がある。
宝玉を含めた全体の長さはレティさんとの対比で120cm位だろうか。
先端の宝玉を杖との接続部から伸びた金属製の四本の爪というかが四隅から包むように固定している。
杖の反対側にもおそらく同じ金属であろう素材で何かがくっついている。なんだっけこれ?石打とか石突呼ぶんだっけ?
普通こういうのって歩行する時に地面を突いて補助とかに使うんだろうけど、多分そういう用途じゃない気がする。
まぁ、なんだ。俗っぽい話、お高そうだ。
「あの〜レティさんちょっと良いですか?」
「ん?なにかな?」
杖を突き出してリルさんに渡そうとしているレティさんに少し横槍を入れてみる、興味本位で。
「俺には全く知識がないんですけど、雰囲気なんかでなんとなく分かります。その杖、凄く高額なものじゃないんですか?」
「そんな事もないよ?えっといくらだったかな……金貨三百枚?多分そんなものだったかな」
「ひぇっ!?」
軽く言ったレティさんに対してその額を聞いたリルさんが変な声を出して驚いている。
えーと金貨一枚約十万円だったから?三千万円か。
三千万かよ。
「ね?それほど額じゃないでしょ?」
「こんな高価な物、私何もできません!!失敗なんてしたら責任が取れないです!!」
高くないと軽く言ってしまうレティさんと驚愕して加工を拒絶したリルさん。
拒絶するその反応は正しい、俺だって嫌だよ。
「なんで?君達家族の身請けとそんなに違わないよ?この一本で一家族しか救えない、その程度の品だよ」
「レティさんの感覚がおかしいんですよ」
三千万円で買える命。
確かに安いのかもしれない、だが今この場でそんな風に言ってしまうのはあまり良くない。
逆説的にリルさん達の命がレティさんの感覚では安いと言ってしまっているようなものだ。
それは良くない、例えそんな意図がないとしても。
「さぁ、困ったなぁ。別に失敗して使い物にならなくなっても私は構わないんだけど」
突き出していた杖を自身の方に寄せてレティさんは宝玉を覗き込んでいる。
白い星模様が印象的だ。
「そこは、なんと説得してもリルさんには抵抗がありますよ。レティさんが気にしなくても人様の高額な所有物なんですから」
「う〜ん……」
宝玉を覗き込んだまま、唸り声を始めた。
「このままじゃ話が進まないんだよねぇ。まぁ、失敗した想定でこれからの事を考えれば良いんだけど」
それだと自分の不在時の不安要素が大き過ぎる。
レティさんはそう言う。
杖を加工する事でどうその不安要素が小さくなるというのだろうか?
「…………あぁそうか、私の所有物だから気が引けるのか。じゃあこれリルにあげるよ。それならどう?やってくれる?」
「受け取れません」
直ぐに受け取りを拒否された。
当然だよね、それはそうだよ。
「えぇ~?なんでさ?リルの所有物なら良いでしょう?」
「レティさんそういう問題というか、話じゃないですよ」
ここは少し理解してもらわないとダメかな?
「常識的に考えて金貨三百枚もする高価な物を、なんの理由や対価もなく受け取れる人なんていませんよ」
「そんなものかなぁ?気にしなくて良いのに」
価値観の違いなのは分かるけど流石になぁ。ズレ過ぎって程じゃないぞ、これは。
「それならモビーにあげるよ。モビーは対価としてここでは高額な水が出せるんだから気にする程じゃないでしょ?」
今度は矛先をこちらに向けてきた。
なんでそんな発想になるんだ。
「俺がその譲渡を受け入れたとして、それでもリルさんは嫌がると思いますよ」
見ればリルさんは頷いて俺の発言を肯定しているようだ。
今更だけど肯定はここでも首を縦に振る頷きで良いみたいだ。
「そっかぁ~それは仕方ないかぁ〜流石に無理強いは出来ないよねぇ〜」
なんともやる気のなさそうな間延びした言い方をするレティさん。
そのまま杖の宝玉を撫でていたが、目を瞑って天を仰いだ。
「う〜〜ん…………」
宝玉を撫で回しながら小さく唸り始めたぞ。
「納得して頂けたのでしょうか?」
小声でリルさんが俺に話し掛けてきた。
「どう、でしょうね……。納得はしてくれると思いますが、だからと言って諦める人だと思えませんし」
これまでの言動や行動から考えると結構物事を力技で押し通す所がある人だからなぁ。
思い通りに進めない時は諦めずにやり方を変えてくるように思える。
「あ」
目を開いて一言だけ呟くと両手で杖を持ち直して歩き出し、そのまま厩舎の壁まで進んでいった。
なんだろうと俺達が見ている中、なんの躊躇いもなく杖の宝玉部分を壁に叩きつけた。
なんとも言えない、鈍い嫌な音とガラスが軋むような音がした。
「ちょっと!?レティさんなにを……!!」
「ひぃっ!!」
小さく悲鳴を上げるリルさんと大声を出す俺。
「あぁ……うっかり。やっちゃったなぁ」
壁を向いていたレティさんは呟きながら少し向き直って横顔を見せながら宝玉を右手の人差し指で触って確認をし、俺達に向き直り宝玉を覗き込みながら歩いてくる。
「見てよ、これ」
見せられた宝玉の部分には壁に叩きつけられた衝撃でヒビが入ってしまっている。
流石に砕け散ったりはしていなかったが明らかに破損してしまっている。
「これじゃあもう本来の力が出ないからなぁ、なんの価値もないよ」
白々しく語りかけてくるその表情はどこか楽しそうでもあった。
「これで気にする必要はなくなったね。リル、心配しないでやっちゃって」




