王都へ向けて 九
とりあえず突き出されていた杖は俺が受け取る事にした。
その後、レティさんは俺へ施した変なダンスをするみたいなポーズからの一連の行動をしてリルさんも無事にライターみたいな火が出せるようになった。
「こんな、こんな事……。嘘、夢みたいです!」
リルさんはずっと興奮している。
指先に火を灯したり消したりを続けている。なんか見た目もあって子供を見ているようで微笑ましく可愛い。
「300年前に教えたドワーフの子供達の魔力で20秒位が出していられる限界だったから、リルも最低でもそれ位は出せるはずだよ」
喜んでいるリルさんにレティさんが使用可能な時間の目安を教える。
「ニジュウビョウ?…………あぁ!はい!二十秒ですね、分かりました!それなりに長いんですね」
あ、一瞬困ったぞ。
そういえばこの世界の時間を計る単位とか基準ってなんなんだろう?
しかし、嬉しそうだなリルさん。
そんなリルさんにレティさんが説明を続ける。
「あくまでも目安だよ?実際はもっと長い間出していられると私は考えているよ」
「本当ですか!?凄いですね!でも、例え二十秒でも十分嬉しいです!」
リルさんは相変わらず喜び続けている。
自分の時が異質過ぎて嬉しいとかの実感が湧かなかったからなんとも言えないが、これって実は凄い事なんだな。
「さて、普通なら今からどれ位の間実際に火が出し続けれるのか試したいけどそうもいかない。本題はここからなんだ」
本題?これから何が待っているというんだ?
「本題って、リルさんにも魔法を使えるようにして終わりじゃないんですか?」
俺の発言で喜び続けていたリルさんがピタリと止まり静かになった。
そして俺と一緒にレティさんを見つめる。次の本題の説明を待って。
「実際の所、説明が必要だから一旦厩舎から出ようか。そこまで危なくないと思うけど一応念の為にね」
そう言うとレティさんが先立って厩舎の外へ歩き出し、俺とリルさんはそれに着いて行き厩舎を出た。
厩舎の外はもうすっかり暗くなっている。
この厩舎や宿場の建物から離れればそこはもう、魔物が闊歩する場所になっている時間か。
厩舎を出て直ぐにレティさんが俺に声を掛けてくる。
「モビー、杖を一度私に返してくれるかな?」
「え?あぁ……はい」
なんだろう?リルさんに訓練やお手本でも見せるのかな?
「ん、ありがとう。リル、私の姿を見ていて」
そう言って右手に杖を持ち、前方に突き出すように構えた。
ここから何かの魔法を使うのか?
「はい、リル。杖を持って今私が取った態勢に構えて」
え?それだけ?それだけを真似するのか?
「分かりました!……こう!ですか?」
「そんな力を入れてくれなくていいんだよ?」
先程からの流れなのか、リルさんに力が入りまくっている。
余程嬉しくかったんだな。更にはレティさが何かを教えてくれるようなこの流れだ。
普通の魔法が使える状態なら俺も今のリルさんみたいな感じだったかもしれない。
「まぁいいや。そのまま指先に灯す感覚を杖の先、宝玉から灯すように想像して意識を集中するんだ」
「……はい」
見ているこちらからは良く分からないが、おそらく集中しているはずだ。
「よし。そのまま同じように火を灯してみて」
ボッと、宝玉の前に火が出現した。その火が暗闇に小さな明るさをもたらす。
ボッと思ったがポッて音の大きさ位が正しい気がする。
宝玉の先に出現した火は確かに指先から出すものよりも大きいがマッチに火を着ける時に、最初大きく燃えた時位しかない。
「出来ました!出来ましたよね、これ?」
少し不安そうにリルさんはレティさんに問う。
「上出来だよ、今度はをその火を杖を振って目の前の暗闇に投げるんだ。杖から火が離れて飛んでいく光景を想像しながら」
説明を受け、リルさんは杖を持つ右腕を曲げて一度身体の方へ引いてから杖を前方に振る。
振り切られた杖の先から火が放物線を描いて飛んでいき、暗闇の中何かに燃え移ることもなく霧散した。
「それでいいよ。十分だ、リルはなかなかいい素質を持っているね」
レティさんは話し掛けながらリルさんに近付いていく。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
本当にこういったはしゃぐような反応や感情の動きだけ見ているとこちらまで楽しいような気持ちになってくる。
「杖を一度渡して貰えるかな?私の場合を見せるから。でもお手本じゃないからね?」
「あ、はい!」
杖を渡されたレティさんはリルさんにさせたものと同じ姿勢になって前方へ杖を向ける。
「いくよ?」
その一言で杖の宝玉の前に焚き火を起こした時位の炎が出現する。火ではない、炎だ。
周囲はかなりの明るさで照らし出されて、それは松明のようだ。
「これはリルやモビーに教えたものと同じ魔法だよ」
同じ魔法だよ、レティさんはそう言ったが俺にはとても同じ物には思えない。
それはリルさんも同じようで、先程まで褒められてはしゃいでいたような勢いは消え失せている。
「そして、ここから……」
そう言葉の後、出現していた炎がより大きくなったり、そう思うと今度はリルさんが出した火より小さい、指先に灯す大きさになったり変化した。
「杖の宝玉を使う者のやり方次第で意識して小さい火種から大きな炎にまで変化させて使う事も出来るようになるんだ」
そして、と、レティさんが言った直後。
大きな炎は暗闇の中へかなりの速度で直進してから霧散した。
「いいかい?これは鍛錬とか練習の結果だ」
照明の為に杖の先の宝玉に魔力を流し込んだのだろう、宝玉が明るく光って周囲を照らしている。
横で並んで見ていた俺達二人にレティさんは向き直って続ける。
「自分の意思で火から炎へ、強弱を変えられる。更に実際の動作がなくてもこうしたいという想像で動作もなく炎を飛ばしたりも出来るようになるんだ」
未だに一言も発せずに俺達はレティさんを見つめる。
「これはこの杖の先の宝玉の特性なんだ。宝玉は行使された魔法の魔力を増幅して、更に操作を容易にしてくれる。指向性とかがそれだね」
こちらにレティさんが歩いてくる。
「気を落とさないでね?リルも練習すればこれ位は出来るようになるさ」
リルさんの頭を軽く撫でてからレティさんは諭すように言う。
「さぁ、一度厩舎に戻ろうか?本題の説明は外じゃ出来ないんだ」
厩舎へとレティさんは戻っていく。
呆気に取られていた俺達もまたレティさんの後を追って厩舎へ戻った。




