王都へ向けて 八
あれから色々と話を聞いているがなかなか面白い事が分かってきた。
この世界には地球と同じ生物がいっぱいいるようだ。
馬はもう分かりきっているが俺の知っている馬そのものだったが、牛もいるらしい。
レティさんが持っていた牛の革製の袋、牛って言っていたのは本当に牛みたいだ。
更には羊、その羊に対して用いられる牧羊犬。そう、犬だ。
更に更にはここにはいないが、牛でも馬でも羊でも厩舎がある場所ではネズミを駆除するための猫もいるらしい。
俺にはあまり絵心はないが、描いてみた猫とかの絵を見てもらったら全部それだと言ってもらえた。
この時点で馬、牛、羊、犬、猫、ネズミがいる事が判明した。
流石にパインバーンみたいな大型で騎乗が出来る爬虫類なんてのは俺のいた世界にはいない。しかし、問題はそこじゃない。
パインバーンのパイン、パイナップル状の鱗。パイナップルがある。
ここはもしかすると並行世界、どこかで文化、文明、生態系が変わっていった地球なんじゃないかと思えてきた。
そんな事を考えながらリルさんの話を聞いているが、まぁよく喋るよく喋る。
動物が好きな人なんだろうな。
相槌を打ちつつ時に質問を混ぜたりして聞いていたが正直疲れてきた。
そんなに動物の話がしたいんだろうか?俺も動物、猫とか好きだから構わないけど、熱量がすごい。
馬の世話をしながらの会話だったので馬の扱いが更に雑っぽくなったかと思いもした。
だが、どの馬も特に苦情めいた動きや拒絶をするでもなく大人しくブラッシングを受けてくれた。
リルさんが言うのはこれも結構珍しい、らしい。
馬って性格はあるけど慣れていない人間には身体を触らせないどころか噛み付いたり蹴ってくるらしい。
蹴られず、噛まれなくて良かった。
多分、仲間を見て自分にもマッサージ的な施しをしてくれると認識したからなのかな?話せないから分からないけど。
「お〜い」
そんなこんなでリルさんと会話をしているとレティさんが声を掛けてきた。
酔っている、とまでは言わないがなんだか間延びしたような声だったな。
そのままこちらに歩いてくる。
右手には使っている杖を持っていた。
「なんだい?私はのけ者で二人でお楽しみかな?」
なんだ、その嫌な言い方は?ケンカ売ってるのか?
自分の中に、酔っ払いに対して自然に出してしまう嫌悪の念が湧き上がってきている。
いけない、流されては。これだから酒は嫌いだ。
「はい!動物の話が盛り上がってしまって!レティーシャ様のお好きな動物はなんですか?」
おぉ……。リルさんが屈託なく楽しそうに話題を振っている。
お蔭で少し落ち着けた、ありがとうリルさん。
「えぇ〜?特にこれって言うのはないけどなぁ」
「そうですか?ここにいるお馬さん達もみんな個性があって可愛いと思いませんか?」
「馬はあんまり。馬だなぁ位にしか気持ちはないよ」
いつもみたいな思考のキレを感じない。
やはり少しは酒を飲んだ影響が出ているんだな。
「酔ってませんか?無理はだめですよレティさん」
「酔ってないよ?」
左手を顔の横でひらひら振って見せている。
こういう事をする人間って大概酔ってるんだよなぁ、経験上では。
「まぁそれより」
そう言うと持っていた杖をリルさんに突き出してきた。
「リル、この杖を二人に譲るよ。使って欲しい」
呆気に取られてしまった。
何の脈絡もなくなんで杖を譲るなんて言い出したんだこの人は。
「レティーシャ様、あの、この杖って高価な物ですよね?頂けません」
「値段がどうだとかそんな事気にしなくていいよ。良いから、ほら」
そう言って更にずいっと杖をリルさんに突き出す。
「ちょっと、待ってください。そもそも一本しかないじゃないですか。二人で共有しろって事ですか?」
「そもそも、私は魔法なんて使えませんよ?レティーシャ様」
俺の言葉の後にリルさんの言葉が続く。
酒を飲んでいるせいなのか、なんだかひどく鬱陶しそうな雰囲気を醸し出すレティさん。
「魔法なら、直ぐに使えるようにしてあげるよ。モビーはもう体験して分かってるでしょ?」
レティさんの言葉を聞くと少し間があり、リルさんが俺の方を見つめてきた。
「え?」
「あの、まぁ、先日レティさんに教わって使えるようにはなったんです。俺も」
リルさんが目を見開いて俺を見た。
直ぐにレティさんの方を向く、横顔からもその驚きぶりがよく分かる表情をしている。
「魔法って実は凄く簡単なんだよ、秘匿されているだけなの」
事も無げに言い放つが、実際そうだったんだから仕方がない。
俺の場合ちょっと特殊だったけど。いや、かなり特殊だ。
「それでさぁ、もうどっちでも良いから杖を受け取ってくれない?結構疲れるの」
どんな意図があってこんな事を提案してきたんだ、この人は。




