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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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王都に向けて 七

 レティさんに圧を掛けた後、俺はまた馬の世話を続けた。

 今、偵察兵の人達が乗ってきたパインバーンもリルさん達が厩舎に連れて来た。

 他の連れてきた人達が去っていく中でリルさんはこの場に残り色々話をしてくれた。

 なんでも話が変わったそうで、俺達一行の乗ってきた三台の荷馬車をこのパインバーンに引かせて王都に帰るらしい。

 パインバーン一頭でこの荒野では馬よりも引っ張る力が強く暑さにも強い。

 馬との比較では圧倒的に水の消費量が少なく、休憩時間も少なく済んで走らなくても馬車の三倍位は速くなるらしい。

 人を一人乗せただけのパインバーンはもっと速いらしく、なんとあの偵察兵達は今日の朝に王都を出発してきて昼にはもうここに到着していたんだとか。

 そう考えるととんでもなく早いなパインバーン。

 馬より四倍五倍の値段でもそりゃ買うな。

 あぁ、でもここの金銭感覚が分からないから一概にそうも言えないかな。

 なんにせよ、今日ここまで来た見張り役と同行者の計四名が明日の朝にはそれぞれ四頭の馬に乗って鉱山町へ帰るらしい。

 明日から九日掛けて移動する予定だった時間が一日か遅くとも更に半日延びる程度になるとかどうとか。

 この話で廃棄都市が栄えていた頃に魔法の水袋を高速移動で運用して給水していた人達の存在がイメージしやすくなった。


「それでなんですが、モビーさん」


 色々と考えているとリルさんから声を掛けられた。

 少し困ったような雰囲気だけど、うん、なんだろう?


「多分嫌がられるだろうという話でしたが、レティーシャ様がやはり私とモビーさんも王都まで同行しないかと」


「なんでまた?移動時間が大幅に短縮出来る事になったからで……いや、それをリルさんに尋ねるのはちょっと違いますね」


 言ってて自分で気付いた。

 リルさんは伝えに来てくれただけでレティさんの真意等を聞いている訳でもない。


「やれやれ、それを伝えるはずの本人はどうしたんです?」


 俺の問いに少々話しにくそうにな素振りを見せてからリルさんが口を開いた。


「あちらで皆様とお酒を……」


「酒?まだ日が沈みきってもいないのに?」


 呆れた。

 そうかレティさんは酒が好きな人間の部類か。

 個人の嗜好だから何とも言えないけど、流石に夕暮れ時からってどうだよ。


「モビーさんは、お酒が嫌いでしたね……」


 リルさんの口振り、やはり違う世界で俺のそういった面も知っているんだな。

 なら、イチイチそういった話題を振って以前の話を思い返すような事はするべきじゃない、か。


「まぁ、俺に強制して酒を飲めって話じゃないなら良いですよ」


「あれでいてレティーシャ様もお辛い所があると思いますから、少しのお酒は仕方ない面もあると思います」


 なんだろう?レティさんはリルさんをキツい性格だと話していたのに今はレティさんの肩を持ったり、そういった印象を受けないんだが。


「日中死にかけた兵士の人もいたのに、人類ってどこの世界も一定数どうしようもない部分がありますね」


「そう、ですね」


 マズイ、気不味い。ちょっと言い方が悪かったかな?

 話題でも変えるか?

 俺が一番使える有効的な話題、それは質問をしたり意見を言う事だ。


「そんな事は良いです、それよりパインバーンって凄いですね。荷馬車を引かせずに乗って走らせると一日で王都に着いちゃう位速いんですよね?」


「え?あ、はい。そうですね、夏場の陸路の移動では物凄く速いんですよ」


 良い感じだな。このまま飲酒している人達の話から離れよう。


「そうであれば、やっぱり馬よりも相場が高くなるのは当然ですよね」


「はい、それに凄く長生きなんですよ?60年位は平均的に生きますね」


「そんなに長く生きるんですか!?」


 思わず大きな声を出してしまった。

 60年って凄いだろ。もう一生物の財産というか相棒じゃないか。


「はい。もっと長生きな子だと80年ほども生きますね。ただ、冬の間は冬眠してしまうんですよ」


「冬眠?冬眠をするんですか?変温動物、トカゲの仲間だからですか?」


 変温動物という言葉や概念があるか分からないので大まかにトカゲと言い換えてみた。


「見た目通りの大きなトカゲなので寒さに弱くて。冬の間の三ヶ月ほどは専用の地下厩舎に預けるか、個人宅にある地下室などで冬眠させるんです」


 面白いなぁ異世界。

 こんなのがもしかしたら地球にもいたのだろうか?

 ん?待てよ?冬に冬眠するって事は。


「すみません、俺はあまりこういった知識がないので馬鹿な質問になるかも知れないんですが」


「うん?はい、なんですか?」


「今は馬が暑さであんまり速くない分、冬になると寒いから逆に体の熱が逃げやすくて元気に速く動けるんですか?」


「そうです!」


 あれ?なんだ?なんでちょっと嬉しそうなんだ?


「今が季節が悪いだけで、馬も大切な移動や輸送の要なんですよ!冬場ですと今回の移動も過酷な中で十日掛かりますが五日程で済んでしまうんです」


 そうか、この場所には冬があって今は夏。

 一番悪い時にこの場所に現れたのかもしれないな、俺って。

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