王都に向けて 六
厩舎で馬の世話をして時間を潰していると気が休まる。
あの後今回の一行と兵士が建物に入ってきた結果、自分の理解出来ない言葉の騒がしさに耐えられなくなりここに来てしまった。
どうせ言葉が通じないならそもそも喋れない馬といる方が心が疲れなくて良い。
外で待たせていた間に火照ったであろう身体に湯呑みで水を掛けながら素手で勢いよく水を切ってブラッシングの真似事をしてあげる。
まだ二頭しか終わっていないが、みんな大人しく受けて入れてくれる良い子だ。
頭数が多く、そもそもが不慣れな真似事だから雑になっているとは思うが暴れないので気持ちが良い、と思ってもらえていたら嬉しい。
こうしているとやはり暑い。
ここに来て初日から数日は夜になっても対して気温が下がらなかったが実はあれは日本で言う熱帯夜みたいなもので、普通は夜は急激に温度が下がる。
おそらく今日の夜はそうだろうからそれまでの辛抱だ。
俺はもうここから移動する事はないが明日この子達は朝と夕方に移動して中継地点の都市まで行かなければいけない。
少しでも体力を回復しておいてもらわないとな。
そういえば、あのパインバーンという騎乗型の大型トカゲは大丈夫なんだろうか?
感覚的には羽毛がないあの馬みたいに走る鳥っぽい見た目だったが。
騎乗機動なんとか、騎乗偵察って言ったかな?偵察任務に使うから馬よりもこの環境に強いんだよな?
パインバーンならもっと速く安全に移動していけそうだけれどなぁ。
手を止めて考えていると足音が聞こえてきた。
音がする方を見るとリルさんがこちらに歩いてくる。その後ろをレティさんが一緒に歩いてくる。くるんだけど。
なんだ?なんだか歩調は一緒なのにリルさんに比べてレティさんは足取りが重いというか。
あまりこちらに来たくないような雰囲気、か?
「ここにいらしたんですね、モビーさん」
「リルさん、はい。馬が可哀想だなって思って、少しでも疲れを取ってあげようかなと」
声を掛けながら歩み寄ってきた二人だが、レティさんはまるでリルさんの背後に隠れるような雰囲気がある。
一体どうしたんだろうか?
「あの。リルさん、レティさんに何かあったんですか?何と言うか態度が……」
「いや、まぁ、ね?何かあったと言うか、なんて言ったらいいかというか……」
とてもレティさんの歯切れが悪い。
兵士を助けた時の印象が今はまるでない。
何かをやったのか?この人は。
「はぁ……。レティーシャ様からはお伝えしにくいようですので私がご説明します」
溜息を一つ吐いてからリルさんは語りだした。
曰く、あの偵察兵の三人の熱中症になった人は新人でまだ身体が暑さに慣れておらず今回の件に至った。
そもそもは治安維持等の偵察の巡回と言ってもこの宿場方面には普段は来ない。
だが、「今から数十日前に突然失踪した国の重役を探す事を兼務していた為」本来では来ないこちら側まで移動距離を延ばしてしまった。
結果、暑さに強いパインバーンのペースで移動をして休憩や水分補給の配分を誤ってあの兵士は熱中症で死にかけた、という事らしい。
「それは、それはあの新人の兵士さんは災難でしたね」
俺はリルさんの後ろで俯き加減で顔を逸らしてこちらを見ようとしないレティさんを見ながら言った。
「なんでしたっけ?自らの誤った判断と行動で個人や全体の命を危険にさらすのがどうとか言ってませんでした?レティさん」
「ひぇっ?」
変な声を出したがこちらを見ようともしない。
リルさんはまた一つ溜息を吐いて肩を落とした後俯いてしまった。
「遠因だとしても、あの人が死にかけたのはレティさんに責任があるじゃないですか。勿論、レティさんにそうさせる理由を作った俺にも」
「そんな!モビーさんには!?」
何かを言いかけたリルさんにストップとばかりに右手を前に出し制止した。
俺には原因や責任はないと言ってくれようとしたんだろうけど、ありがたいけどそれでは意味がない。
「あの兵士やその仲間の二人にも何も請求しないし、本当に体調が改善されたか確認されるまでは俺達で、責任を、持ちますからね。いいですね?」
「……はい」
「それと!どうせ行くつもりであったとしても国には出頭する事、良いですね?」
「出頭するって、そんな……私は別に罪を犯したとかそういうんじゃ……」
「良いですよね?」
「………………はい」
全く、やれやれだぜ……。




