王都に向けて 四
アレからとりあえず話は落ち着き、俺達の乗るレティさんの馬車の他にゴーダンを乗せた馬車とアラダリさんが乗った随伴の馬車で計3台の馬車で移動。
現在は宿場に戻ってきている。
道中も特に何もなかった。
個人的はゴーダンがもしかしたら逃げるのかとも思ったがそんな事もなく、大人しいとの事。
死にたいなら逃げてもいい、この状況自体がもう天然の牢獄みたいなものなのか。
「まさかなぁ。どうなってんの?なんだこの生き物」
道中には問題がなかった。あったのは宿場の方だった。
「高速移動用のパインバーンだ」
レティさんがパインバーンと呼んだそれが宿場の前に3頭いた。
大きさは馬より少し大きい位。くちばしがあってなんか丸みのあるパイナップルの皮みたいな鱗がびっしり全身を覆っている。
こう言ってはなんだけど、どこかのファンタジーゲームの馬みたいに走る鳥がトカゲに置き換わったような生き物だ。
「あの、このパインバーンってまさかパイナップルのパインですか?」
俺の間抜けな質問をどう受け取るんだろうか?そもそもパイナップルって分かるのか?
「お?そうだよ。パイナップルみたいな形状の鱗を持っていて砂漠の熱や乾燥にとても強くてね」
マジか?パインバーンよりもパイナップルに驚くんだけど?
「馬よりちょっと速くて休憩なしで走り続けるから、結果として馬より断然速く安全に目的地まで着けるんだ」
「パインバーンがここにいるという事は、国の兵士が宿場にいると思った方がいいですね」
パインバーンの説明をするレティさんとそれを受けていた俺にリルさんが後ろから声を掛けてきた。
国の兵士、言われてみればなんかそう言った感じの武装っぽいような物を鞍以外に装備させられているな。
「そうだね、まず間違いないね。厩舎にも入れずにこれ見よがしに入り口前にっていうのがどうにも」
この宿場で今日は全員一泊する予定だったのだが、こうなるとそれは難しいのか?
俺とリルさん一家はここでしばらく生活するつもりでもあったからそういった意味でもこれは困った。
「なんの為にここに兵士がいるか、それ次第だ。このまま外にいたらみんな暑さでやられちゃう、接触を試みるなら早い方がいい」
レティさんは躊躇いもなく歩いて行くと正面からドアを叩き出した。
「(おーい、ここにいるのは国の機動兵隊の兵士かい?それとも偵察騎兵かい?私は以前財務大臣っぽい事をしていたレティーシャという者だ」
「あれはなんて言ってるんでしょう?」
「中にいるはずの兵士にその所属を聞いています。レティーシャ様ご自身の身分も伝えています」
おいおい、良いのかそれ?別にお尋ね者ではないだろうけどさ。
貴女手紙1枚でいなくなった重要な役職の人でしょ?何かしら問題とか不都合があるんじゃないの?
「(おーい、おーーい。聞こえないのかい?ここは現状誰も管理していない公共の宿場だろう?私達も今晩一泊するつもりなんだ独占は困る)」
……。
宿場の宿泊利用を訴えているそうだが、中からの反応はまだない。
「中に、本当に誰かいるんですかね?もしかしたら誰もいないとか?」
少し疑問に思いリルさんに話し掛ける。
レティさんは入り口前にいるパインバーンをこれ見よがしと言ったが、もしかして厩舎にも入れる事が出来なかった何かがあったとか?
「この辺って日中に人を襲う魔物とか獣っているんですか?」
一番先に思い付いたのがそれだった。
「いえ、夜間には魔物が出ますが日中には出ません。獣の類も基本は夜行性です」
「じゃ野盗とかは?」
「それも、ないとは言い切れませんが。野盗でしたらパインバーンを奪って逃げるかと」
「それもそうですねぇ」
馬が一般的な普通車なら性能を聞いた限りではパインバーンはオフロード対応の高級車って所か。
それで考えれば下手な物よりパインバーンを優先して盗んで逃げるよな。
なんて事をリルさんと話しながら、時折後ろの一団に目を向ける。
ここで休めると思っていたみんなが疲弊の色を出し始めているのが俺にも分かる位だ。
「(静かにしてくれ。病人がいるんだ)」
正面、宿場へと向き直すと同じタイミングで中にいた誰かが何事かを言いながら入り口のドアが開かれた。
「(やぁ、病人がいるの?様態は?何か入り用な物はあるかな?)」
ドアを開けた人間を兵士とみんなは思ったようだったが、俺の中でイメージしていた見た目の兵士とかではなかった。
甲冑みたいな鎧ではなく、多分革の鎧を身に着け頭にはターバンみたいなものを巻いているが顔や首まで隠れる物だ。
ゆったりとしたズボン的な物を着用している。
見るからに軽装な感じが分かる。
「どうも中に病人がいるみたいですね」
病人。なんだ、本当に風邪とかウィルス性の類か?それとも熱中症か?
熱中症なら俺の水で何とか出来る感じか?あ、変な火の魔法で部屋も冷やせるんだった。
「(すまないが、エルフお前や……後ろにいる連中は何者だ?私達は王国の騎獣偵察兵隊所属の兵士だ)」
ドアの男がレティさんに何かネックレスみたいな物を見せている。
兵士という事はドックタグ的な物か?
「(時間がないと思うから手短に言う。私はレティーシャ、この国で先月位まで財務大臣みたいな事をしていた、後ろはこの先の町で悪事を働いていた罪人を王都に運ぶ一行だ)」
「(!貴女が!?失礼だが、髪を見せて頂けるか?本当に閣下であれば燃えるような赤髪が特長とお伺いしておりますので)」
レティさんがゴソゴソと被っているターバンを外し出した。
外した髪を見るなり兵士は跪いてしまった。
「(失礼致しました、閣下!)」
「(そんなのいらないよ。病人って?)」
「(はい、こちらです)」
レティさんが兵士の案内されて入っていった。
「あの兵士の方はレティーシャ様が本人か確認したみたいです」
「あぁ、それで被っている物を外したんですね」
ん?あれ、待てよ?今まで意識していなかったけど。
「リルさん、もしかしてレティさんの赤い髪の毛ってこの辺りだと珍しかったりしますか?」
「はい。私達、私もそうですがこの髪の色でも珍しいというか少数です。祖先が移り住んできたからですが、特にレティーシャ様は長い旅でこちらにご自身が流れてきた方ですから」
「滅多にいないんですね?赤髪のエルフの人って」
「はい。エルフの方でも肌が褐色でしたり髪が黒い方はそれなりにいらっしゃいますが肌が色白な赤髪の方は私が知る限りではレティーシャ様以外は今でも知りません」
今でも知らない、というのは前回の人生を通して今。という事で受け取って良いんだろうか?
そうだと仮定すると確かに髪の色を見ただけでも確認になる。
ただ、染めたりするとかって事はないんだろうか?
「モビーー!!急いで来て!!兵士が暑さにやられたー!!」
どうやら本当に熱中症っぽいな。
身体を冷やしてどうにか出来る感じの程度なら良いんだけどな。




