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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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7/31

砂漠で歌舞伎揚を齧る 七

「やぁお寝坊さん。もう夜だよ?そろそろ起きなさい」


 穏やかで優しい感じの声が聞こえる。ぼんやりとした意識が緩やかに覚醒していく感覚。そうだ、俺は寝ていたんだ。

 誰だろう?俺を起こしているこの声の人は。


「余程疲れていたんだね?私より先に起きていると思ったんだけど。私の方が起こす役目になっちゃったよ」


 視界が開けていく。しかし視界に入ってくる世界は暗く、ぼんやりとオレンジ色に明るい程度。LEDライトの常夜灯よりは明るい程度だ。


「あれ……ここは?どこでしたっけ?」


「おやおや?お寝坊さんな上に寝ぼけてもいるんだねぇ?まぁ無理もないか、君にとっては辛い現実だもんね。オネーサン同情で涙が出そうだよ」


「それ絶対に嘘ですよね?」


 寝ぼけながらも彼女にツッコミを入れる。

 彼女は俺が反応をすると思っていなかったのか、ちょっとビックリしたような顔で止まった。少しの間が空く。心なしか何だか彼女が悲しそうな表情をしたような、そんな気がしてしまった。


「そもそも、もう夜だよって……そう言うのはもう朝だよ、みたいに言うのが普通でしょうに」


 寝床から身体を起こしながら言うと、俺の視界にこの常夜灯のような光源が目に入った。

 壁に立て掛けてあった杖のような、いやこれは杖で良いんだろう。杖の先に野球ボールサイズの水晶みたいな物が付いている、それが光っているんだ。


「すごいだろう?この杖に付いている石は夜になるとこうして光るんだよ。流してあげる魔力量によって光る色や明るさもある程度調整出来るんだよ?」


 ではこの間接照明みたい明るさは意図して彼女が光らせている明るさと色のようだ。


「あの、灯りもすごいんですけど。疑問があるんですがいいですか?」


「何かなー?オネーサン大体の事は答えて上げられるから言ってご覧よ」


 彼女は自分の使っていたベッドをベッドメイキングしながら背中で俺の声を受ける。終わると俺の方を向き、歩み寄ってきて俺を顎でクイッと動かして見せてベッドから退けと言っているようだったので取りあえず立ち上がってみた。


「疑問だったり質問に答えてあげるのはこのベッドを直した後だね。取りあえず先に直した私が使っていたベッドにでも腰掛けてて」


 促されて向かいにある彼女が寝ていたベッドに腰を落とす。


「すぐ終わるからちょっとだけ待っててくれるとオネーサンうれしいよ」


 そう言って自分のベッドの時のようにテキパキとベッドを直していく。なんでだろう?見た目自分よりも年下に見えているレティさんに初めて年上感を覚えた。面倒見の良い姉や母親の感覚ではあるが。

 長い年月を生きてきた彼女だ、もしかしたら伴侶や子供がいたのかもしれない。いても不思議な話じゃない。

 そんな事を思いながら彼女を目でぼーっと追っているとベッドメイキングが終わった。そのまま彼女はさも当たり前のように俺が腰掛けているベッドに自分も座り、俺の右隣にピッタリと身を寄せてきた。


「さて、何が訊きたいのかな?」


 いや、おかしいでしょう?これ面と向かって色々話したりするのに不向きだよね。ていうか、近い、近過ぎる。もっとこう、お互いの間に箱座りした猫1匹分位の空間が欲しい!


「あの、なんでこんなに近付いてくるんです?何というか話し辛いんですけど」


 俺の質問はこれじゃない、これじゃないぞ。でも流石に例え何百年生きているエルフでも見た目が可愛い少女だとそういった事に免疫のない俺には非常に堪える。やめて欲しい。


「オネーサンの魅力が強すぎたのかな?ドキドキしてくれてる?」


「そういうのは良いですから。質問したい話が進みませんよ」


 所々この人は距離感がおかしい。俺を孫程度かそれ位にしか思っていないからこうだというならある程度仕方がないのは、受け入れよう。でもやっぱり辛い。


「仕方ないねー」


 そう言って肩をすくめると向かい側に座ってくれた。


「じゃ、これでいいかな。改めて、何を訊きたいの。」


「素朴な疑問から。この部屋って凄く涼しいって程ではないですけど最初に話していた場所より快適じゃないですか?なんで最初からここで話さなかったんですか?」


「あぁそれか。別に意地悪とか出し惜しみじゃないよ?単純に私の魔力を供給しだしてから部屋の中が安定するまでに時間が掛かっただけだよ?」


「魔力を流し込んだりして室温を調整できるんですか?」


 そんなエアコンみたいな便利な魔法あるのだろうか。


「うん、どこにでもあるわけじゃないけどこの宿場にはそれ用の魔法陣が最初に話してた場所の床に有ったんだよ。で、あまり力も使いたくなかったから効果をこの部屋に限定して発動してたんだ」


「だとすると、この宿場全体も冷やしたり出来るんですか?」


「出来るけど現実的じゃないね。多分全部冷やすなんてしたら私だって別に強い魔法使いじゃないからね、力が尽きて命が危ないかも。そもそもこの部屋の規模だからこれ位であって全体ならやっても変わらないかな?」


「あぁ、規模が大きくて効率が悪いと。え、でもそれじゃなんで全体規模で作用する程度の魔法陣なんてあったんですか?」


「君、結構疑問に思う事が面白いね。教える側も甲斐があるよ。単純だよ、雪は降らないけど冬があるからさ」


「え、ここって一年中こんなに暑いんじゃないんですか?」


「違うよ?後60日も過ぎたら日中の温度は今日の半分位になって凄く過ごし易くなるよ。でもその分夜が寒いのさ、氷が張ったりはしないけど寒いは寒い。そこから90日間もっと寒くなる日が続くよ」


 氷は張らないけど寒い、5℃位だろうか?それだと確かに暖房が欲しい位の気温だ。

 

「そんな時に私みたいなので良いからエルフとか魔法に長けた人が魔法陣の上で座ってたり寝てたりするとジワジワと力を吸われるけど建物を暖めるんだよ」


 なるほど。でもそれって言い方があれだとその魔法陣で力を供給する人って生体バッテリーみたいな扱いじゃないのか?


「ほら、暖炉とかあったでしょ?でも薪も消耗品だからね。こんな場所じゃ薪になる木なんて満足にないから運んでこなきゃいけない貴重な燃料だから、こういった手段で効率良く暖を得るんだよ。魔法使いが2人もいたら1日交代でやれば問題ない程度だよ」


 なんか凄く面白い。こんな事を知るつもりで訊いた訳じゃなかったけど異文化、異世界の生活に関する技術が知れて好奇心とかが刺激されるぞ。



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