いつも話が逸れていく、それはおそらくはバグ 三 終
どれ位の間火を灯していたかというのは正直分からない。
あのBGMを歌い続けて数えた訳でもない。
だから結果だけの話、すっごく快適だ。宿場でレティさんに冷やしてもらっていた部屋も良かったけどそれ以上だ。
「もう消してもいいですか?火」
「うーん……もう止めてもいいかなぁ……任せるよ」
俺座っているソファーと対面のソファーに座って、と言うよりは背もたれに完全にその身を委ねきって天上を仰ぐように上半身を仰け反らせてレティさんが言う。
「これは快適だねぇ〜良いねぇ〜」
「でも、魔法が使える人達って宿場みたいな設備というか、あの手の物があれば出来ますよね?そんなに凄い気もしないんですが、コレ」
指先の火を消して彼女を見ながら言う。
「魔力の消費がねぇ。並の魔力量では長く冷やし続けるとか無理があるよ」
今の時点ではノーコストと言っても差し支えがないこの冷却。
もっと色んな視点から調べれば何かがあるんだろうか?
「で、これからの話だけどね」
ぐったりとしたそのままの姿でレティさんが何事か伝えてくるが、なんともまぁ緊張感がない。
「やっぱり王都まで一緒に行かないかな?」
「行かないです」
「即答する事は、ないんじゃないかな?」
俺がこんな返しをしてくるなんて思っていなかったんだな。上体を起こしてこちらを見てきた。
「絶対嫌ですよ。面倒な事に巻き込まれるのは決まってますって」
「警戒しちゃうかぁ。殴られた後では無理もないけど」
「それだけじゃないです、この変な事になってる魔法とかも込みで、です」
「そっかそっかぁ。余計な事を教えなければ良かったなぁ」
別にこの件でレティさんを責めるつもりはないが、確かに余計な事をしたっていうのには同意だ。
どうするんだよ、これ?どう考えたって普通の物理現象とかじゃないんだけど。いや、魔法も普通じゃないけど。
「レティさんが言ったんですよ?俺が奪い合いの対象になるって。そんな存在が呑気に目立つような場所に出ていっちゃダメでしょ」
「それもそうなんだけど、常に傍にいてもらわないと不安になっちゃったんだもん」
「大丈夫ですって隠れてますから。宿場でもこれから作る予定の洞窟っぽいところでも」
少し沈黙があって、レティさんはまたソファーに身体を預けて目を閉じてぐったりした態度と体勢に戻った。
「今更になって思うんだよねー」
「何をですか?」
「私、モビーを連れてさっさとこの砂漠地帯から離れて二人で放浪の旅でもすれば良かったかなって」
やる気のない無気力な女子高生みたいなノリで俺に語りかける。
「今からでも、そうするには遅くないかなぁ。遅いかなぁ?」
「今からじゃなくて今更、です。遅いでしょうね」
「手厳しいなぁ。私の私財全部手放してこの町を自由にしてもダメ?」
今度はなんか、だる絡みしてくる女子小学生みたいな感じになったぞ。ドンドンダメな方向に後退していっている気がする。
「それを出来たかもしれない可能性は自分で潰してしまっているじゃないですか。引っ掻き回した責任は取るべきです」
「責任、責任かぁ……あんまり好きな言葉じゃないなぁ」
好きかどうかの問題じゃないだろう。
あぁ、分かったぞ?
この人その場の状況で感情と思考で動くから今は面倒臭くなったって気持ちと思考が噛み合ってこんな事を言い出したんだな?
「頑張ってくださいよ?貴方はこの町を救わなきゃいけないって選択をしたんです。誰に命令された訳でもなく自分の意思で選んだ事なんですから」
「それはその通りなんだけどさぁ。200年も基本は変わらない事に従事して城に引き籠っていたからさぁ。なんか億劫で」
はぁ……。あまり良い行いじゃないが思わず溜息が出てしまった。
「しっかりして、とは言いませんけどこの際。やる事はやりましょうよ?……不本意ですけど俺も出来る事は頑張って手伝いますから」
「……じゃあ王都まで同行してくれるの?」
「じゃあって、それを断っているからこんな会話なんじゃないですか?堂々巡りはやめましょう」
「なんで、なんでさー?ねぇ、どうして?」
だから小学生みたいな鬱陶しい返しをしないで欲しい。子供か貴方は。
「そもそも、最初は隠れている予定だったじゃないですか。そんなに言うなら向こうから来てもらいましょうよ?誰かに連絡をお願いして。レティさんの財力なら無い尻尾を振って快くみんな引き受けますよ」
「それはダメかなぁ?私自身が行かないと。王都に着いた際にとりあえずはリル達家族の代金払う約束だから」
「そういう話なんですか?なるほど。今は口約束でお題は後で良い、はレティさんの肩書とか信用で成り立っているからですね?」
「そうそう。こういうのは立場とか相手との優位性はどうあれ事故や天災でもない限り遅延したらお終い、次がなくなっちゃうね」
それは分かる、現代日本の各種企業間取引でもそうだ。
だが、分かるけど一緒には行きたくないなぁ。
突っ立ってただけで殴られたんだ、極力もう他人とは関わり合いたくない。
それこそ、それは世界や時代を問わず一緒でこの世界だからって事でもないのも分かるけど嫌なものは嫌だ。
「お互いに割り切りましょう。レティさんは王都へ、俺はリルさん達、というかリルさんとまぁ色々と雑事というか雑務をこなすと」
「分かったよ、仕方ない。でもくれぐれも気を付けてね?治癒魔法なんて誰も使えないんだから」
「大丈夫ですって。まぁ、とりあえずレティさん達一行が王都に到着して、色々と動きがない限りはあの宿場には基本的に人は来ないでしょう。誰かに殴られるとかそういうのは縁がないです」
「そうい事だけじゃないよ?普通にスナガニとかに気を付けないと。屋外で行動するなら」
あぁ、スナガニ、毒スナガニか。砂漠の自然そのものが脅威なんだったな。
「厚手の革靴を調達してもらっているから、外に出る時は革靴を履くんだよ?今のその履物はあくまでもここが町だからだし、この町まで移動中は基本的に荷台にいる事が前提だったからなんだよ」
「なんか、子供に言い聞かせる親みたいになってますよ?口調」
「大事な弱い存在を気に掛ける時なんて大抵こんなものでしょう。あ、日差しにも気を付けるんだよ?」
子供扱いのように感じてしまうが、何百歳も年齢が上ではあるし何もいう事が出来ないな。
大事な、はまだしも弱い存在か。弱いかぁ、弱いよなぁ俺。
「あまり心配掛けないように良い子にしていますよ」
「それは結構」
うぅ〜んと伸びをしてレティさんは立ち上がった。
「じゃ、物分かりが良い子の前で何時までも駄々っ子していてもしょうがない。観念して明日に備えようか」
「そうですね」
700歳の駄々っ子がやっと納得してくれたようで助かった。
しかし、実際明日からどうなるんだろうか?




