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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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いつも話が逸れていく、それはおそらくはバグ 一

 指先ライターを始めてからどれ位の時間が経っただろうか。

 火が出た瞬間から計測していた訳でもないので良く分からないが、おそらく魔力がない人が出せる限界の20秒以上は出ていると思う。体感で。

 こういう事には詳しそうなレティさんは俺の指先の魔法陣を見ている。

 曰く、模様が違う、らしい。


「ふーんふふふふーん、ふふふふーふふふ、ふーふふーふふーーん♪」


 唐突に俺はとあるアニメの次回予告で流れているBGMの鼻歌を歌い出した。

 レティさんがなんかギョッとした感じで俺に向き直ったが、気にせずに続けた。


「ふーふ、ふーふ、ふーふ、ふーふふーふん♪…………これで大体27秒は経ちましたよ」


「えぇ……。何が?何で?」


 レティさんがちょっと引いている。


「時間を計っていたんですよ。時計とかない時にこの鼻歌を歌うと大体27秒です。少し間を置いて30秒は過ぎたかもしれないですが」


 こんな事を言っている間にも火は燃え続けているから1分以上は燃えているのは間違いない。

 しかし、なんだ。全然この火は熱くないんだが、何でだ?


「その音楽、曲?が時間を計る物っていうのは分かったよ。で、結果明確に20秒以上燃えている訳だね」


 正確には時間を計る物じゃないんだけど。

 そんな事よりこの見た目には普通の火だ。でも全く熱さを、熱を感じないというのが何とも気持ちが悪いな。

 熱を奪って火、炎に変えるんじゃないのか?


「魔力の供給が普通じゃないのは分かったね。一度消してもらって良いかな?」


「分かりました……って、あれ?これってどうやって消すんですか?」


 教えてもらった直後はレティさんからに供給が停止して消えて、今回に至るまでは不発でそもそも止めるとか消す以前の問題で。

 こうやって成功した場合はどうやって止めればいいんだ?


「そっか、それはまだだったかぁ。魔力、この場合熱か、熱を遮断するかランプの油、燃料の供給を止める想像をしてみるんだ」


 ライターだからガスのイメージか。と、なるとガスの供給を断つ、カチカチと押し込むスイッチ部分を放す的な。こうか?

 正にイメージ通りのそれで火が消えてしまい、魔法陣も消えていった。

 現象の後に残される俺達。


「結局これは成功、で良いんでしょうかね?」


「成功は成功なんだけど、なんだかちょっと様子がおかしいね」


 二人で悩む事しか出来ない。なんで火が熱くないんだ?


「これどう思います?」


「私にも分からないよ。こんな現象を体験しているのは多分、私達が初めてだよ。私に記憶を飛ばした私が今も生きている世界でも、リルがいた世界でも誰も知らないと思う」


「あっちの俺が魔法を使うような事なんてなかったんですよね?」


「なかったねぇ。基本はゴロゴロしていたし、それで良かったんだから」


「それだけしか聞いていないと、俺って碌なもんじゃないですね」


「水と食料を提供するのが大事なんだから」


 気遣ってもらったのだろう、多分。


「そんな事よりも今はさっきの火の現象だよ」


 そんな事、ですか。まぁ、そんな事だろうね。気遣ってもらえていないかもしれない。


「とりあえず、何か燃やしてみますか?」


「燃やすと言っても、ね?あんまり燃やしても危なくない物ってなんだろうね?」


「難しいですね、紙とかは完全に火種でしょう」


 燃えやすいけど他には燃え広がらない物、そんな物あるかな?

 布切れ、紙切れ、何かしらの埃とか……。何かないかな。


「紙、紙もねぇ燃えるのもそうだけれど、貴重なんだよね」


「紙ですか、紙ですよね、紙。紙?頭髪、頭の髪はどうです?」


 何だか思い付きが言葉遊びだとか連想ゲームみたいだけど良いんじゃないか?髪なら1本位なら燃え広がるような物でもないし。


「あぁ髪か。確かに燃えやすいよね、良いんじゃないかな?」


 そう言うとレティさんは自分の頭を弄り髪を1本抜いた。

 ポニーテールにしている位だ、かなりの長さだ。


「私のこの髪を燃やそう」


「分かりました、やってみましょう」


 再び指先に火を灯す、やはり熱を感じない。

 髪を両手で引っ張ってピンと張って持ってレティさんが近付いてくる。


「この状態で中心を炙ってみる。どうなるかな?」


 火の上から少しずつ近付けてくる。

 普通の火であれば燃えて焼き切れるような高さまで近付けているのにその気配がない。


「何だこれ?」


「どうなりました?」


「硬くなっ……折れた」


「折れたぁ?」


 髪が折れるって、どういう状況だ?いや、この場合は髪は物体なんだから状態か?まぁいいや。


「硬くなって折れる、折れる。硬くて細いから、引っ張る力に耐えれなくなって折れた?」


 そんな事をブツブツ呟きながらもう1本髪を抜いた。


「今度は片手で、この状態で垂らす」


「気を付けてくださいね?状況からしてまともじゃないんですから、かなり危険な気がします」


「ん、分かってる」


 俺は一度火を消して床に胡座をかいて座ってから火を灯す。上から垂らすというので少しレティさんに配慮をしてみる。


「この高さの方が垂らすのには安全かと思って」


「ありがとう、気を付ける」


 今度はどうなる。レティさんが慎重に髪を火に向けてゆっくりと下げていく。

 垂れ下がった髪の毛先が触れる。


「硬くなったみたいだ」


 その言葉を聞いて俺は直ぐに火を消して硬くなった髪を見せてもらう。

 今回の髪は左右に引っ張っていないので垂下げていた時の形状のまま硬化しているようだ。


「触っても大丈夫ですか?」


「とりあえず私は何て事はなかったけど?触ってみる?」


「少し怖いですけど、興味はあります」


 レティさんに向けて右手を差し出す。


「掌に置いてもらっても良いですか?」


 はい、と手の上に赤い硬化した髪を置いてくれた。

 視覚的に見ているから分かるが見ていなければ髪を置いてもらった事には気付かない程の重さ。

 髪そのもの重さ、質量的な物は変化がないって事だな。

 左手で持ってみる。

 髪を持つというよりはその硬さから細いクセのついた針金を持っているような感覚か。


「硬いですね。針金みたい」


 ハリガネムシみたいと言いたくもなった。けれどそもそもこっちにハリガネムシがいるとも限らないし、存在を忌避する人もいるので針金と言ってみた。


「そんな感じ。最初引っ張っていた時は折れた、つまり硬くはなっているけど力には弱いって事だよね」


「そういえば、折れた髪ってどうしました?」


「あ」


 髪を右の手に乗せ直して最初の髪のその後問う。

 現象が気になり過ぎたせいで髪はその辺に落としてしまったらしい。時間経過を観察する意識がなかったのか。

 それも仕方のない事か。そもそも詰められたり責められるような事でもない。


「まぁ、この髪で時間経過を観ていれば良いんでそんなに気にするような事じゃないですから」


「あ、柔らかくなった!」


 自分の掌に乗っているので気付かなかったが正面から見ていたレティさんは硬化した髪が再び普通の髪の柔らかさになる瞬間を目撃したらしい。

 俺の手に柔らかさを取り戻してふわりと垂れ下がった髪が乗っていた。


「本当ですね。時間で形状が変化しているんですかね?」


「時間で形状が変化、時間で?本当に?」


「本当にって言われても……何とも言えないですけど。思い付くだけで」


「何が変わった?何の影響で?」


 これは自分の世界で思考している呟きだから俺の声は届いていないな。

 時間が経って変わる物は何か?状況が同じで?温度位しかないんじゃないか?ここの日中と夜の寒暖差みたいに。日光や室温が熱伝導でとか。


「温度位じゃないですか?今の状況だと」


 実際他に思い付かない。でもそもそも髪って凍るんだっけ?南極とか北極圏で髪って霜が着いたりしているのはテレビで見た事はある。でも、あれって髪の毛が凍っているのか?


「温度で変わる……温度で?………モビー、湯呑み出して、湯呑み!」


「え、湯飲みですか?水でも飲むんですか?」


「違うよ!湯飲みで水を出してそれに火を近付けるんだよ!」


 そんなキレ気味に言わなくてもいいじゃないの。何だか鬼気迫るものがあるな。


「それは良いですけど、水の温度はどうします?」


「温度?温度かぁ…………常温で良いよ」


「はぁ……分かりました」


 言われてテーブルに湯呑みを出してその中を水で満たす。

 常温で良いとの事だったが、今の常温が分からないので適当に30℃位にして出す。


「ホラ!早く早く!!」


 子供か。エルフって皆が皆こうなのかな?

 そんな事はないか。これはレティーシャという人物の個性なんだ、そういう事だ。そう認識しておく。


「分かりましたよ………………いきますよ?」


 ライター魔法の準備をして、湯呑みの中の水に指先の火を近付ける。

 水面に接触した瞬間、凄い勢いで水が凍り始めた。

 何だコレ!?

 そのままパキパキというかミシミシみたいな音を出して湯呑みの水は全体が氷になってしまった。

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