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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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ギルドにて やはり言葉の壁は厳しい 四

 指先に意識を集中させ、じっと先ほど小さい魔法陣が出た辺りを見る。ポーズは誰かを指差す時のそれで、誰もいない虚空を指す。

 同じように魔法陣が出た。出た!!


「やった!?出た!出ましたよ!レティさん!!」


「うん。そこまでは今まで教えてきた人達時と同じだよ」


 出現した魔法陣がゆっくりと左に転しだした。しだしたのだが、90度位回転してからだろうか、フッと消えてしまった。


「ぅん?……おかしいね」


 レティさんも少し困惑しているようだ。

 つまりこういう事には普通はならないって事だな?


「もう一回やってみて」


「はい」


 言われてもう一度同じように行う。結果は同じ。

 やはり魔法陣が90度位回転してからフッと消えてしまった。


「レティさん、あの……」


「ぅぅん?どういう事だこれは?…………ごめん、少し考えさせて」


 レティさんは腕組みをして考える状態になってしまった。

 だがどうだ?難しく考え過ぎじゃないか?

 単純に俺がここの世界の住人ではなく、魔法というか魔力、そういった物が本当にないからこうなっているんじゃないか?

 今までに教えてきた人達だって、こちらに一般的には魔力がないという見方でも20秒位は火が出せた訳だ。

 つまり、魔力がないと言ってもゼロでは無かったはずだ。

 そこで今回の俺の場合は本当にゼロなんだと思う、無いものはない。

 単純にそれだけの事じゃないないのか?

 深く考えている人の横でこんな発想に至るのもどうかと思うが、こっちの方が普通だと思う。


「モビーもう一回」


 俺の考えはさて置いて、もう一回とお願いされたのでやってみる。

 指差しで構える。しかし、待ったが入る。


「ごめん、こっちのソファーに座ってやってみて」


「はぁ……まぁ、いいですけど?」


 座る事によって何か変わるのだろうか?

 言われるがままにソファーに腰を下ろして構える、すると俺の左側にレティさんはピッタリと密着して座り俺の右手首の辺りに頭を持ってきた。


「ちょっと!?何ですか一体!?」


「良いから、この状態で。魔法陣が見たいんだよ」


 何だそんな事か。最初からそう言って傍に座って観察するみたいに言ってくれればいいのに。

 今に始まった事じゃないけど、毎回毎回この人は。


「やりますよ?」


 彼女はコクコクと頷いて応える。それを合図に俺はまた指先に意識を集中させる。


「出たね」


 指先に魔法陣が浮かび上がる。気のせいだろうか?魔法陣が浮き上がってくるまでの間が短くなってないか?


「中身は基本的に何も変わらない、でも、そもそも魔法陣が回転する?何でだ?」


 あれ?魔法陣は回転するものじゃないの?だったらその時点からもうおかしいんじゃないか?


「これは……何が違うんだ?」


 レティさんが右手の人さし指で魔法陣に触れようとした、多分無意識の行動だったんだろう。

 しかし、その瞬間に小さかった魔法陣が白っぽいオレンジっぽい色だった物が真っ赤に変わって大きくなった。体感で1m位の直径か?


「うぁ!?」


 レティさんが驚き、その勢いで俺にぶつかってきた。結果として抱き止めるようになってしまう。

 真っ赤に大きくなった魔法陣はゆっくりと左回転を続けている。

 その魔法陣の外縁と外縁直ぐ近くの線の中に、見覚えのある外国語が羅列している。左回転で周り、これが読めるようになっている。



SECURITY WARNING: UNKNOWN ACCESS.

セキュリティ ワーニング、アンノウン アクセス?


OTHER USER TOUCH DETECT.

アザー ユーザー タッチ ディテクト……


READ OLD ERROR LOG.

リード オールド エラー ログ……


SUGGEST QUICK FIX

サジェスト クイック フィックス?


 これ、正しい英語じゃない。無理矢理でも理解させる為の英単語を並べている?


「何て事だ、これ古語じゃないか。魔法陣の縁に書いてあるのって古語なんだよ、今の時代に読める人間、エルフが何人いるか」


「えーーーーーーーっ!?」


 後ろで俺がデカい声で驚いたものだから、レティさんが大きくビクッと反応してしまった。悪い事をしてしまった。


「な、何……?大きな声出しちゃって」


「これ、古語なんですか?嘘でしょ?これ英語ですよ?文法とか使う単語が滅茶苦茶ですけど。言いたい事は分かる感じの」


「えーご?そっちの世界の言語の一種なの?」


 レティさんが頓狂な事を聞いてくる。


「いやいやいやいや、レティさんってムラタさんの知識も引き継いでる節があるんでしょ?多分読めますよこれ?日本の教師なら学力的にこれ位は単語としての意味だけでも」


 当人は目を丸くしている。


「俺が理解した所だと……。」



安全性の警告、不明な接触


権限のない他人が触れてきた


古い失敗した履歴を読め


手早い代わりの対処方法を提示



 以上のやっつけで伝えてみた。


「つまり、モビーが出した魔法陣に私が触れたから警告してきたんだね?」


「おそらくは……。本当に読めませんか?」


 俺に寄りかかったままで唸っている。読めるんだけどなぁ、俺には。


「なんか、こう、気味が悪いんだけど。この文」


 気味が悪い?どういう意味だ?怖い事とか物騒な単語は書いてないんだけどな。


「普通じゃない言い回しをしているってそんな感じがする」


 もしかしてムラタさんから継承した情報だと英文がちゃんとした物を受け取ったから、この滅茶苦茶な英単語文のせいで理解が難解になっているのでは?


「とりあえず、簡単な別の対処法って何でしょうね?どうやってその古い履歴とかも読めるんでしょう」


「そんなの私が分かるはずないじゃない」


 そりゃそうだ。俺だってなんとなく分かっているだけなんだから。だとすれば……。


「ぷ、プリーズ ショー ミー サジェスト クイック フィックス 」


 適当な文なので適当に英単語を並べて声に出してみた。


「何かを見せてって言った?」


「対処法を見せて欲しいって言いました、多分……」


 思い付いた単語だけを繋げたエセ英語だからなぁ、通じるかな?というか、音声で認識するのか?

 そんな考えは杞憂だったようで、おそらくこの魔法陣の認識力が凄まじく高性能なのだろう。

 次の瞬間に赤から紫色に変わって警告文の所に違う英単語が羅列された。




MAGIC RESOURCE EMPTY.

マジック リソース エンプティ


SYSTEM SUGGEST:

システム サジェスト


CHANGE MANA TO AREA HEAT.

チェンジ マナ トゥー エリア ヒート


START? Y/N

スタート イエス ノー



「これはつまり、魔法の為の魔力がない。システム、いやつまりは仕組みから魔力ではなく周囲の熱を代わりに使う事を提案。始める?ハイまたはイイエ…………って感じでしょうか?」


 大体はこれで良いはずだけど、どうだろう?


「……………………。」


 どうしよう、レティさんが沈黙してしまった。やっぱりアレか?これまでに例を見ない、どうなるか予測も付かない事は否定して触れないでおこうという安全性重視な意見、か?


「モビー、どうしよう?私もやっぱりエルフの端くれみたいだ。危険性をなんとなく理解している、理解出来るのに知的好奇心が抑えられない」


 目を潤ませて俺を見つめてくる。分かった、つまりそういう事か。逆にマッドサイエンティスト系の発想に至ったんだな。


「これから、この前例の無い事を選んだ結果どんな事に見舞われようと共犯者でいて欲しい、って事ですか?」


 無言で頷かれた。何と言うか、今更な気もする。

 既に俺達は良くも悪くも運命共同体なんだ、何だったら結婚して伴侶になるよりも切っても切れない縁がある。

 せめて、せめてこの行き着く先が世界を破滅させるとかそういった方向にだけは向かないで欲しい。それだけが気掛かりだ。


「そんなに危険な事になるかもしれないんですか?」


「うん。だって個人の魔力量に左右されないで魔法を行使出来るんだよ?無尽蔵なんだよ?」


「そうでもないでしょう。熱が失われるんですから、多分炎の魔法を使ったのに周囲の温度が使った分だけ下がるんじゃないですか?それは有限ですよ」


 寧ろそっちの方が危険な気がする。

 炎を使えば普通その周囲は熱くなるが、この場合その火の為に周囲はどんどん冷えていく。

 そんなのRPGでアンデッドに回復魔法は逆に攻撃魔法はみたいなもんじゃないか。

 護身用に魔法を教わるハズがどうしてこんな目に。

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