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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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ギルドにて やはり言葉の壁は厳しい 二

 あ、凄い……知らない天井だ。

 まさか目が覚めてこの台詞が頭をよぎる日が自分に来るとは思ってもみなかった。

 どこだ、ここは?ギルドの何処かしらの部屋、だよな?

 身体を起こして見回すと何という事はない、ゴーダンの使っていた部屋のソファーだった。

 確か俺は少年っぽい男性に殴られたんだよな?

 殴られた場所が気になる、ここに鏡ってないのかな?

 とりあえず右手で左頬を触ってみると違和感に気付く、痛みがない?

 俺は今どうなっている?殴られたはずの頬を触っても痛みはない、確認の為に指で強く押してみても痛みがない。

 どういう事だ?夢でも見ていた、そんな事はないよな。

 状況がよく飲み込めていなかったが、ドアをノックする音が部屋に響いた。

 その音に反応しきれずにいると、こちらの返答を待たずにドアが開いた。


「あれ?もう起きてたの?意外に早かったね」


 ドアを開けて入ってきたのはレティさんだった。

 この場合、彼女以外に入ってくるような人はいないか。リルさん辺りも有り得るけど確率は低い、この場にいなかったし。


「どうかな、痛みも腫れもないと思うけど」


「はい、全く何も。触れてみても痛くないですね」


「それは良かった。あんまりこういうのは得意じゃないんだけど、上手くいったようなら良いや」


「レティさんが治療してくれたんですか?それって」


「魔法だよ。正確には治癒とか治療の魔法じゃないよ?周りにはそう見えるけど、時間をちょっと戻したんだよ」


 時間を戻したんだよ?時間を、戻したって?何それどんな理屈?何でもやり直せそうな魔法じゃないか。


「何でもは出来ないよ。事が起きて直ぐじゃないと事象を誤魔化す事が出来ないんだ。だから深刻な病気なんかは治せない」


 こっちの思考を理解しているような物言いだ。


「それでも凄いですね」


「まぁね。これも龍の火の副産物だよ」


 例の次元とか時間に干渉する龍の力か、所謂チートじゃないか。凄いな、龍の火。


「とにかく、ありがとうございました」


「いいよ、お礼を言われる事じゃない。ケガの事を責められるかもと思うとちょっと怖かった位だよ」


 しおらしく、申し訳なさそうに俯いてしまっている。気にしなくて良い事なのに。


「所で、俺って殴られたんですよね?」


「そうだよ。殴られたんだよ、理由を知りたい?」


「そりゃ知りたいですよ。何か殴られるような事しましたか?俺」


「入り口近くにボーッと突っ立っていたのが邪魔だったから、だってさ」


「そんな事でですか?」


「そんな事で、だよ。世界には理不尽な事が数多くあって、その形や理由は当事者次第で無限なんだ」


 はぁ……それもそうか。暑くてイライラしただけで無関係な人間殴るような輩もいるもんな。


「俺の事殴った人はどうなりましたか?意識がなくなる前に何か誰かとやり取りしてましたけど、あれ、あの声ってレティさんですよね?」


「あれ?そこまでは意識があったんだね。うん、私だよ。あの坊やには少しお灸を据えさせてもらったよ」


 お灸を据えるって、やっぱりこっちの知識とか情報の影響があるんだな。それは今はいいか、もっと気になる事もあるし。


「お灸って、あの人に何をしたんですか?」


「モビーが受けた痛みと同じ位の痛みを与えた」


「何だか良く分からないんですが、殴り返したんですか?」


「私はそんなに腕っぷしは良くないよ、そう見える?これでも筋力が弱い乙女だよ?同じだけの衝撃を魔力で見繕ってぶつけたの」


「そんな事も出来るんですか?」


 筋力が弱い乙女だとかどうとか、この際は触れないでおこう。

 でもこんな感じの言い回し、調子が戻ってきているのかな?


「……まぁ、ね。本当はもっと酷く懲らしめてやろうと思ったけど、何て言うか、少しだけ丁度良かった事もあったから手加減してみた」


 都合が良いって、何で俺が殴られる事が都合が良いんだ?

 言葉の意味を理解しきれず、レティさんを見ているとモジモジとしながら自ら答えてくれた。


「私達、ちょっと気不味かったじゃないか?だから普段通りに戻る切っ掛けにはなりそうだったから、ね?」


 なるほど、そういう考え方なら確かに切っ掛けを作ってくれた恩人、は言い過ぎかもしれないけど。そんな受け取り方をしても良いか。


「ごめんね、私が悪かったよ。気不味いから気を回さずにモビーの事を放っておいたからこんな事が起きたんだ」


「いや、これは俺のせいですよ。俺の方も申し訳なかったです。何と言うかレティさんは達観しているというか、何でも受け止めてくれそうな感じがいつもしているから。色々言ってしまった時はそこに甘えて気を遣えていませんでした」


「それは確かにモビーが悪いよね」


 ぶった切られた。そんな事ないよ、とか言ってくれそうだったんだけど。

 そんな算段を今もしている事が甘えか、反省しないとな。


「女性は自我に目覚めた幼い頃から、それ以降はいくつになっても乙女なんだよ?私みたいに結婚もしていない、子供もいない見た目が変わらない長命種は特に」


「よく、理解しました」


「それは良かった。これからはもっと優しく伝えてね?」


 雨降って地固まる、じゃないけれど直ぐに関係が拗れずに戻ったんだから良いとしますか。

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