ギルドまでの帰り道 二 終
彼女を背負ったまま歩き続ける。
何と言うか、軽いし背も高くないので実際子供でも背負って歩いている感覚だ。辛くはないがやっぱり暑い。
背負われている本人はどうだろうか?
「しかし、かなり驚かされたね」
「そうですね。とはいえ、俺個人はここに来てから驚く事ばっかりですよ」
背中から声を掛けてくる彼女に俺は応えながら歩き続ける。
「まさか私以外にも過去に戻ってきている人が居たなんてね」
「本当ですね」
「しかも、私に記憶を送った私がいる未来の世界とは別の世界かぁ。困ったもんだ」
「本当に困ってますか?ちょっと楽しんでいませんか?」
さっきの能力を色々試させていた時はとても楽しそうに見えたんだけど。
「心外だなぁ。ちゃんと困っているさ」
「何ですか、ちゃんと困るって?」
「具体的には2つ、1つはリルの力。あれは私の想像通りなら非常に恐ろしいね。力そのものや運用の仕方、あの力をリル本人は当然で他者が良からぬ事に用いないかとか」
「レティさんは清く正しく運用する側、で良いんですか?」
私は悪い事を企んでいる何て言いながらやるのなんて児童書の悪役位だろうけど。
「勿論だよ?そうしないとモビーに嫌われるじゃない」
「理由が社会的な良識とか善性なんかじゃなくて、個人からの評価なんですか?しかも相手が俺って」
「おや?馬鹿にしたものじゃ無いよ?国とか組織への忠誠だとかそんなものより相対的に信用出来るよ」
絶対じゃないんだ。
あぁ、何か軍記物で読んだ話にあった気がする。結局は主義主張ではなくそれを唱える人への思いで人は付き従う、だったか?
そういう話をしているんだろうな。
「それについては分かりましたよ」
「何?その言い方?何かちょっと投げやりな感じがするんだけど?」
そう言うと人の背中に指先を押し付けてくるくると回してきた。
「ちょっと、止めてくださいよ」
「えーなんで?」
「しっかり掴まっていてください、危ないでしょう。それに余計な事をして俺が気を抜いて落としても責任は負いませんよ」
「むぅ……そう言われるとね」
そう言って、大人しく指先をくるくる回すのを止めて両肩に手回して俺の首元辺りで両手を組んだ。
肩を掴むと思っていたんだけど、まぁ良いか。
「で、2つ目の困る事って何なんですか?」
話を元に戻す為にこちらから問いかけてみますか。
「それはね、これから先もモビーに縁がある誰かが同じように過去に戻って自分の人生をやり直そうとする、しているかもしれない」
「なるほど。そう言った観点での予想ですか」
確かにない話じゃないが、実際そうなっていたらどうなるんだ?
そうなると俺が狙われるのか、そうだとしても不思議じゃないか。既に俺の能力について知っているなら当然だ。
「私は明確にあっちの私ではないんだけど。記憶を移してしまうと、そんなのもう関係ないからね」
「そうですか?どこかで線引きしてやっぱり自分は自分、あっちとは関係ないって思いません?」
「そう思える機会はあった、けど私はそれを蹴ったから。私はあっちの私の後悔や想いを知って、今やり直せる時間と場所に居る。私はもう…………」
何だ?大事な所で黙ってしまったぞ?
言いたくない事があるのか、まぁ、それも仕方ない。
「想いを告げずに失敗した轍を踏む気はない」
そう言うと後ろから回していた腕で強く抱きしめてきた。
「レティさん。正直な話をして良いですか?」
「ん?何?」
「俺、今まで同性異性問わず親密な関係になった事は一度もないんです」
「それで?それがどうかしたの?」
「今日会ったリルさん、あの人とはあっちの俺が成り行きでも助けたというか身請けしていた訳ですから、そこから好意なんだか身体を差し出すまでの恩義だとかそういった感情を持たれるのも理解は出来るんです。受け入れるかは別の話ですが」
「それで?」
それで、しか返事をしてくれていない気がする。
「……いや、なんて言いますかね?レティさんにどれだけの好意を向けられていても、それに応える土壌というか心構えというか。そういった物を俺は持ち合わせてはいないんです」
情けない話、これが真実だ。
自分が誰かから好意を寄せられるなんて想像出来ない。
「寧ろ、何か裏があって利用する為に好意を持っているように見せかけて近付いて来られた方が納得できる位です」
レティさんは何も言ってはくれない。ただ黙って俺の背中で話を聞いくれているだけ。
気不味く、そして情けない話をしている。だがそれが事実だ。
「あっちの俺がレティさんに何をしたかは分りませんが、俺はこういう考えなんです。それに……」
「それに?何?」
「この際ですから言っておきたい事も言います。レティさんはユルグ王子に会ってちゃんと話をしておくべきです」
「何でここでユルグの名前が出てくるの?実際王都に行ったら会うけど何を話すべきなの?私のお金や財務の話以外で?」
「ユルグ王子は貴女に恋心を抱いている可能性があります。もし、無かったとしても貴女を大事な母親、お姉さんと捉えている可能性も大きいです」
「だから、何?」
「俺はユルグ王子の視点で事を考えています。大好きな人、想い人でも家族でも。そんな人を訳の分からない、つい最近現れた相手に奪われるなんて我慢出来ないです。それこそ心が、世界が壊れてしまう程に」
流石に何も訊き返してこないか。
「貴女がどういった意図、気持ちで俺に向き合ってくれているのかは理解しきれないですが。せめて、ユルグ王子とのそういった関係に決着というか、ある程度の形を示さないと。貴女の気持ちには応えられない」
この後、ギルドに着くまで彼女を背負ったまま歩いた。
彼女はその間何も話してはくれなかった。




