レティーシャに話の進行を委ねない 一
「良いですか?まずは、明日レティさんが出立する際に俺はどうしていたら良いのか、これを決めましょう」
「それは良いけどモビーが取り仕切るのかい?」
「はい。ていうか、それは良いけどじゃなくて!最初はそれが問題だったでしょうが」
「はい。すみません」
殊勝な態度を示しても騙されないぞ。貴女に任せていたら思いついた事、気になった事をその場で最優先して話が脱線するんだ。
漠然とした未来とか成り行きの話ならまだ良いけど差し迫った状況でそれには付き合いきれない。
「では。リルさんにも前の人生の記憶があるとか特異な力があるとかはこの際一度置いておきます」
「それも大事な事なんだよ。だって……あ、いや、続けていいよ?」
直ぐにレティさんは口を挟もうとしてきたけど、俺を見たら途中で止めてしまった。
俺の表情が強張っているのでも分かったんだろう。
「はい、続けます。当初の問題だった俺とリルさんの意思疎通は思わぬ形ですが解決済みです」
「そうだね、ここまで普通に話せるならそう言った点では心配はないね」
「こうなると自分はレティさんと離れている間、リルさんとその家族、または最悪リルさんと二人きりでどうしていれば良いか、が議題です」
議題なんて言葉を使ったが本来はそんな大袈裟な物ではないというのは理解している。
ただ何となくこういった方がレティさんが真面目に、いやこの話題に集中してくれそうな気がしたから言ってみた。
「私の家族としばらくこの家に隠れてお住みになりますか?」
「それは得策じゃないね」
リルさんの一般的な意見をレティさんが否定する。
「最初はそれでも良いと思っていたよ。でも、ここまでの道のりで人目に付きすぎたよ」
確かに、何を言っているか分からないが声を掛けられたりもしたな。
田舎ほど人の出入りが少ないから住民が見ている、というか監視に近い事をしているのは想像できる、それだな。
「普段見ない男がここに長居していると周囲が要らぬ詮索をする可能性が高いよ、それは不味い」
「ではどうするんですか?やっぱりレティさんと同行するんですか?」
「私が思い付くのは2つだね。ここに残る場合と同行してもらう場合」
「モビー様がここに残られると色々と疑われてしまうのでは?」
リルさんが俺を様付けで呼んでいた気がするが、話の腰を折る訳にはいかないので黙っていよう。
「残ってもらう場合はこちらから打って出る」
「と言いますと?俺には想像できませんが?」
「簡単だよ、私が近隣住民を集めて街頭演説でもする。私が町の皆を身請けして解放するって」
「皆をですか?私のようにレティーシャ様を信じてくれるでしょうか?」
「わざとらしいかな?じゃ可能な限り一件ずつ各家を訪ねて歩こうか?」
「それもどうでしょうね?悪くはないですがやっぱり部外者の俺やレティさん、リルさんが同行したとしても怪しまれる可能性が高いですよ」
どうでしょうか?と、リルさんを見る。俺の視線に気付き、意図も理解しただろう彼女は困ったような表情だった。
「これも難しい?そうだろうね、私でも信じられないかな」
「それじゃ何でこんな意見言ったんですか?」
「まぁ何と言うか、可能性の話かな。本命は同行してもらう方だから、途中までだけどね」
あれ?どうしたんだ?ここに来てどうしてそっちに考えを変えたんだ?
「それは、途中までってどこまでですか?もしかしてあの宿場ですか?」
「そうだよ。不思議?最初は人の往来が増えるからダメって言っていたから?」
「それ以外にないですよ」
「状況は常に変化しているんだよ、モビー」
何かムカつくな、何でこんなに得意気なんだよこの人は。
「どう変わったんですか?」
「彼女、リルの存在だよ。日本語を普通に話せている、しかも特異な力まであるこれなら話は別になるんだ」
「私がですか?」
「そうだよ。その何でも物さえあれば作ったり作り替えたりする力、それがあれば砂漠の岩石帯に快適な難攻不落の要塞だって作れる」
また話を脱線させる気だな?そうはいくか。
「それが今の話とどう繋がるんですか?」
「モビーとリルの二人で宿場の近くにあった岩石帯に行ってもらう」
「あぁ、まぁ、辛そうですが無理では無さそうな位置にありましたね。でも何でそんな岩だらけの所に?」
「そこにある大きな岩をリルの能力で居住空間を内部に作ってもらって二人でそこに隠れていてもらうんだよ」
何か凄い事を言い出したぞこの人は。頭の中どうなってんだ?




