ドワーフ少女との邂逅 二
折角なので目的地までの道中、疑問に思っていた事を訊いてみる事にした。
黙っているとまた何か変な話題を振られてしまう気がする。
「あの、昨日から気になっていたんですけど。質問いいですか?」
「ん〜?い〜よ〜?何?どうしたの?」
何なんだよ、そのノリは?良いけどさぁ。
「……元締め?支部長?あれ役職ってどっちでしたっけ?……とにかく、何であの男の、ゴーダンって名前を知っていたんですか?」
襲撃、突入した際は何を言っているかは分からなかったが、後の説明で知った限りレティさんはそもそもこの町のそういった事を知っていたらしい。
「あぁ、それか。簡単だよ、最初から調べてあったからだよ」
「おぉ流石ですね。やっぱりこの町からドワーフを購入するのが理由で?」
「それもあるんだけど、まぁ、あちらからの記憶の断片と言うか……」
あんまり訊いてはいけないやつですか、これは。
「その前情報があったから昨日は動けたんだ、我ながら下手を打ったとも思うんだけど」
「女の子の人生を台無しにしてまで守る計画じゃないって言ってたじゃないですか?そんな風に今言ったら、悲しいですよ」
「そうだね。ちょっと失言だった、反省する」
「反省よりは胸を張る方が良いんじゃないですか?」
「ん?何で?」
「計画を投げ捨ててまで女の子を助けたんだぞーって」
並んで歩いているので今の彼女の表情は分からない。
「うん、そうだね。そっちの方が良いね」
その声が少しだけ晴れやかに感じられた。それで良いと思う。
「他には?何かご質問は?」
「そうですね。これは質問というか、あの、もしこの町のドワーフ全員をギルドから買ったとしてですよ?」
「うん、何が気になるの?」
「その人達をどうするんですか?」
「どうするって?」
「いやだから、要は借金から解放してそれで終わり何ですか?何かの労働をさせるんですか?」
「そんなの使い倒すに決まってるじゃない」
あんまり聞きたくない言葉が発せられたぞ。使い倒す?過重労働でもさせるんじゃないよな?
「何をさせるんですか?」
「いや最初に言った計画通りだよ?放棄都市に関わる労働に従事してもらうだけ」
「あぁ……なるほど」
「本来なら極秘でやりたかったけど、こうなったら仕方がないから王都へ行った際に王にだけ計画を教える」
「良いんですか?それこそ都市が復活したら権利を主張されませんか?」
「それはするよ。なんせ人間からしたら大昔の理想郷だったからね、でもそうだとしても権利を主張してもそれは人間の勝手な言い分だから」
「すみません、あんまり話が見えてこないんですが?」
「私の記憶にある情報だと、都市が城塞都市化が進んで樹が復活した際にね、ドワーフに裏切り者が出て都市の事が国にバレたんだ」
「あの質問の解答をもらえていないんですが、その話が関わってくるんですね?」
「うん、だからちょっと長いけど最後まで聞いてね?」
「あ、はい」
「都市を不当占拠しているからね、国が無謀にも挙兵して攻めて来たんだよ。こんなに攻める側に不利な状況なのに。そうしたら重いのにわざわざ運んできた大砲の砲撃も、国お抱えの魔法使いを何人も集めて放った大規模な攻撃魔法のどれも樹が都市全体に展開した障壁で弾いたんだよ」
「凄い!」
「そう凄かったの。もう攻める手段がないの、攻めた時季も悪かったんだ。わざわざ夏に攻めてしまったんだ。春や秋なら兵の運用も楽だったのに、現場の意見なんて上の人間は聞かないから」
「そういうのはどこも一緒ですね、企業も国も」
「王や国の意見も分かるんだ。確か都市の第二防壁の4割が完成していたから黙って放置していると更に攻め辛くなるから、不利は承知で最初から最大の戦力で短期決戦で落としに来た」
「でも失敗した、と」
「そう。運用費用も物資も度外視して出せる全力で攻めたのに無駄だった、時間を掛ければ掛けるだけ自軍が全滅する確率が上がる」
「それで撤退して交渉になったんですね?」
「いいや?バカだから兵に全軍突撃を命じたの、直接ね」
「何て愚かな……」
「本当だよね?でもそれも都市に近付いたら障壁の外にだけ聴こえる妙な音で兵が戦意を喪失しちゃったんだ」
「音で、ですか?」
「うん、何か体験者の話だとコーーンって鐘を打ったような甲高い金属音みたいな物だったらしいよ。それを聴いた兵が酷い頭痛と吐気、目眩に襲われて動けなくなったって」
もしかして地球の現代でいう音叉兵器って物に類する物だったんだろうか?確かそんな症状が出るはずだけど。
「それで数百名兵が捕虜になった時点でやっと撤退したから軍事行動による人的な被害は無かったね。何名かは暑さで死んだけどね」
「戦死というよりは事故死みたいですね」
「まぁ、その辺は国側は戦死認定で遺族にお金を払ったよ。それも私が管理していたし。でもここからがもっと酷いんだよ、国側に。捕虜が寝返ったんだ」
「捕虜がですか?何でです、理由は?」
「その理由はモビー、君だよ」
「はい?」
唐突に何を言い出すんだ、この人は?
俺が原因?俺に何が出来たっていうんだ?水や歌舞伎揚で懐柔なんて流石に出来ないだろう。
「そんな馬鹿な事、俺に何が出来るっていうんですか?その俺じゃない俺だって能力一緒なんだから基本的には何も出来ないですよ」
「能力の話じゃないんだよ、捕虜に扱いの話」
「扱いの話?」
「モビーはこの国の捕虜の扱いって知らないでしょ?それは酷いよ?劣悪な環境で重労働をさせて死ぬまで使い潰すんだよ」
「そんな!?だって捕虜ですよね?捕虜の人権はどうなるんです?」
「また人権だね。昨日も言ったけどそんな物無いよ、しかも捕虜になった兵って自分達に攻めてきた、色んな物を奪いに来た敵なんだよ?そんなのに何で優しくする必要があるの?……っていうのが一般的考えだよ、この国だけじゃない、世界全部そうじゃないかな」
「だとしても、そんな……酷いじゃないですか」
「そう酷いんだ。だからモビーが怒って捕虜の待遇を変えないなら水の供給止めるって言い出したんだよ」
やるかもしれない。って言うか多分やる、今の俺でもやる。
「焦ったドワーフ達やアラダリ達商人がモビーの言う待遇に変えたんだ」
「周りは従ってくれたんですね、良かった」
「そりゃ自分達の命にも関わるからね」
そして俺が出した待遇は、ちゃんと食事を常識的に与える、労働は人間の基準で休憩時間を設ける、休日を与える、体調が悪い者を無理に働かせない、捕虜返還時には僅かでも労働の給与を渡す。
「モビーの言った事はハッキリ言って好待遇だよ。歌舞伎揚を出せる人間だからこそ出来るんだよね。生かしておいたら食料が何百人分だもの」
「一応自分にも命削る危険性がありますけどね」
「それでも補填にはなるからね。とにかく、そんなもんだから兵はいつか国との交渉が終われば帰れるって希望が出来たんだ。結果、一部捕虜の間で抵抗して危害を加えようって流れが有っても捕虜が抑えたんだよ」
「寝返ったってそういう意味でですか?」
「そう。それで結局は国と交渉になるんだけど、ここで商人ギルドが国に揺さぶりを掛けてきて、私もこの辺りから直接的にモビーに関与してくるんだ」
「商人ギルドが国にですか?それでレティさんとも繋がっていくと?」
「うん。商人ギルド側が都市復興に投資していて、あの都市にこれ以上悪い干渉を行うなら貸してる金を全部返せ、様々な物資の流通を止めるって脅してきたんだ。焦ったね、国として」
「なんか凄く大事になったんですね」
「挙兵された時点で大事だよ?結局そんな絡みで国はモビー達を黙って放置させるしか出来なくなったんだ。で、やっとここで質問の解答だね。人間が自分の土地だ、所有権だって言っても手出し出来ない存在が守っていたらどうする事も出来ないんだよ」




