鉱山の町、人売りの町 五 終
1階に降りる途中から感じてもいたが、何と言うか全体的に1階は騒がしかった。
忙しなく何かに資料らしき物をたくさん持って駆け回っている人。資料を読んで何やら書き込んでいるような人。
そんな全体に指示を出す人。
「こんなにバタバタとしていたのに、あの部屋ではそんな事には気付きませんでしたね」
防音の効果に優れている作りなのだろうか?
「だからこれまで事が外に漏れなかったんじゃない?」
これまでの事。今日だけではない、行われていた事。考えるだけで嫌な気分になる。
「……それでこの人達は何の作業というか、仕事をしているんでしょう?レティさん分かります?」
「自己保身の為に裏帳簿の整理だよ。私が国への協力、働き次第で通常の処罰より手心を加えるって言っちゃったから」
そうか、この人達はゴーダンを縛って拘束、牢に入れるのもとても協力的だったもんな。
それの事務作業版という訳だ。やっぱり助かろうと必死だから本当の限界でも来ない限りバリバリ働くか。
「(やぁ。忙しい所悪いけどちょっと良いかな?)」
レティさんは喧騒の中、カウンターで作業をしている例の平伏した小柄の男に声を掛けた。
「(なんだ!?急ぎでないなら後にしてくれ!?こっちは明日までに国に……あぁ!これは、失礼致しました、閣下!!)」
言葉は分からなくても分かる。
忙しいから雑に扱うか取り合おうとしなかったが、相手がレティさんと分かって態度を改めたんだな。
「(閣下じゃないよ?私はもうそんな呼ばれ方をする職は退いたから。ただのエルフのレティーシャだよ)」
「(まさか!御冗談を、畏れ多くてそのお名前をお呼びする事は私には出来ません、お許しください閣下!!)」
「(まぁ、面倒だし呼びたいなら好きに呼んでいいよ)」
「(ありがとうございます、閣下!それで、何か私目に御用でしょうか?)」
「(奴隷を買いたいんだよ。一家族をそのままね)」
男が困惑しているようだ。どういう感じで話を持ち掛けたんだろうか。
「(閣下が奴隷を、ですか?それも一家族を?あの、それは私の理解が正しいならば父や母、子といった構成の家族でよろしいのでしょうか?)」
「(それで間違いないよ。生憎と持ち合わせが今はないんだけど、王都で支払うっていうのじゃダメかな?)」
「(いえいえ!閣下程の方です、支払いは後で構いません。ですが、その私共も手一杯でございまして)」
「(そんなに焦らなくても大丈夫だよ。ここを出発する理想が明日の朝なのは分かるけど)」
「(その通りです。故に我々職員一同は今も身を粉にしてゴーダンの不正な取引に関わる物をまとめております)」
「(どうせここで起きた事はこちらから伝えないと分からないんだ、だったら無理せずに明後日にでもすれば良いさ)」
「(閣下、お言葉ですがそれですと私共が閣下に示す忠と申しますか、その……)」
「(だから大丈夫だって。他ならぬ私が言っているんだよ?身体を休めながらやった方がより良い報告も出来るんじゃない?)」
何だろう?揉めて、いるようではないけれど話が長いな。
話が長引く2人はさて置いて、周囲を眺めて見る。皆が必死で働いている。
この人達は今日一日ずっと働き続けるのだろうか。いや、今日だけで終わるのかも分からない。
でも、何れにせよこの雰囲気は嫌いだ。納期に迫られた現場みたいで嫌な記憶が呼び覚まされる。
そんな事を思いながら周囲を眺めていると後方からパンッパンッと大きく手を叩いたような音がした。
「(おーい、お前ら!!この件の作業は日が沈む前までだ!!閣下のご裁量でゴーダンの王都への移送は明後日以降になる。無理せずに切り上げろ!通常の業務があるヤツもいるだろう、そちらも蔑ろにするなよ!!)」
小柄な男性が叫んでいる。そういえばこの人の名前は何だろうか?
「お待たせ、話は着いたよ」
「あの人は何を大声を出して全体に指示を出していたんですか?」
「アレはね、明日の朝までにゴーダンの不正だとか裏帳簿をまとめてそのまま王都へ本人と一緒に送り出そうしてたからね」
「ん、なるほど」
正に納期前の修羅場で間違っていなかったんだな。世界や国、業種は違っても立場は分かる、皆お疲れ様です。
「そんな無理をしても間違った情報を報告したら逆に問題になるからさ。私が責任取るから明後日までにしろって言ったから、それを全員に伝えてたんだよ」
「レティさん、貴女良い人ですね」
「いいや、そうでもないよ?こっちもその方が都合が良かっただけ。明日はリルとその家族に接触してモビーの事をお願いしたいからね。その時間が私も欲しかったんだよ」
「それでもこういった状況の人間は自分じゃ止まる勇気がないんです、皆も正直助かったと思ってますよ」
「そう?そんな私に惚れちゃったりしたかい?」
「……そのセリフを聞いた時点でそういう気分なんて有っても霧散しちゃいます」
「それは残念。さて、とりあえずは明日に棚上げするとして今日は2階の支部長室を使って寝ようと思うんだけど問題ないかな?」
「あそこで寝るんですか?あんまり気乗りしませんが」
「どうして?」
「だって、あの部屋ってその、今までドワーフの女の子達が酷い目に遭っていた部屋ですよ?」
「……それもそうだ。それなら支部長室前の廊下で寝ていた方がマシかな?」
「えぇ、余程」
そんなこんなで明日はリルという少女とその家族に会う為に、色々とレティさんについて行かなければ。
今日は床で寝る事を選んだが、実際にはそんな事はなく。
職員に案内された部屋のベッドの上で就寝する。寝心地は良くないが、あの部屋のソファーよりは断然マシだ。




