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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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鉱山の町、人売りの町 三

「状況は思っている以上に悪いよ」


「それはそうでしょうよ」


 支部長室を占拠し、部屋のソファーに座って俺達は今後を話す。


「具体的にはどう悪いんですか?」


「私の存在と行動が公になる。これは避けられない」


 何を今更だ。何だっけ、集まってきたここのギルド職員達に……あれ?何だっけ?何て名乗った?

 あー、確か算術の死神みたいな名乗りをしたんだよな。説明だと。

 自分から死神だの言うかな普通?

 とにかく、自分からそんな事を言い出して周りを黙らせて従わせたんだ。それをやっておいて今更どう繕えるというのか?


「あれだけの事をしたんですから、そうでしょう」


 なんか痛い所を突かれたみたいな顔をしたぞ。別に責めはしていなんだけど。


「いえ、責めてはいませんし責めるつもりもないですよ。結果あの女の子を助けたんです。立派な事ですよ」


 今度は明るい表情になった。


「ただ後の事は何も考えずに行動したでしょ?あの状況の最善は考えていても」


 肩を落としてシュンとした。なんか表現が豊かだな。


「仕方ないじゃないかぁ……」


「はい、仕方ないです。だからこれからどうするかを考えましょう」


 過ぎてしまった過去を考えるより、それを教訓に決まっていない未来を考える方が前向きで良い。


「そうだよね?これからが大事だよね?」


「そうです。だから、とりあえずで良いからこの後どうなるか、レティさんの予想みたいな物を教えて欲しいです」


「予想か……予想、ね。うん、始めにも言った通り私の存在が露見したからもう国に隠れてあの都市を不法占拠は出来ないと思うよ」


「まぁ……目立ち過ぎましたよね、この騒ぎは」


「そうなると何でここに私が現れたかを追求されるね」


 何でも何も……あぁ、そうか。

 未来、いや並行世界なのか。そっちのレティさんの記憶がここにいるレティさんにある。

 その記憶にある起きた事に最初から関与する為に行動していたのか。

 しかし、既に聞いた話と状況はかなり違う。

 俺じゃない俺が初めに遭遇したドワーフ家族にこの時点でも出会っていない。

 ならば、もう最初の流れにするのは放棄してはどうか。


「うーん……。いっその事、都市の事は何年か後に回しませんか?」


「どうしてさ?」


「レティさんって、300年位前にここに関わって思い出があるんでしょ?」


 ムラタさんの事を引き合いに出して、俺の考えを説明する。

 その思い入れのある場所の、関わった人やその子孫が酷い目に遭っているのを見ていられなかった。

 200年金の流れで状況は把握しつつ自分に力、金や国の弱みが蓄積されるのを待っていた。

 そろそろ目処も立った、仕事も後継者に任せられそうだったから実行した。

 この体で押しきれないかと進言してみた。


「…………。悪くはないよ?でも信じるかな、国が」


「多分信じますよ?」


 この人は折角準備した計画や自身の立場をその場の状況で、自身の考えや倫理感を優先して行動してしまうんだろう。

 少し違うがユルグ王子にしてもそれに近い。

 そんな人が200年掛けた計画を眼の前の少女の為にぶん投げる、逆に説得力がある。

 結果、私財で国に怪しまれないように奴隷を少しずつ解放しようという計画だったがもう止めた。

 人身売買が公的な物かと思っていたら管理している売り手も買い手の貴族、国側も腐っている。

 こうなったら逆に公に動いて直接この町の負債を住人の物も含めて買い上げて解放してやる。

 金は払うんだ文句はないだろう。

 おそらくこう言えば、この国の上は信じるはずだ。

 あの女ならやりそうだ、と。


「そんなつもりはなかったけど、そうは見られそうだね」


「悪くはない、と自分では思いますが……レティさんはどう判断します?」


「ふむ……ん?…………うーん?」


 何か腕を組んで唸りだした。


「うん、うん、う~~ん……………………よし、これで行こう」


「何か思い付きました?」


「モビーの意見を採用するよ、そしてちょっと自分の考えを修正する」


「修正ですか。それは一体?」


「買っていた貴族はドワーフを解放して町に帰せば、罪は買った本人以外には及ばないように国にお願いする」


「お願いですか」


「そう。お願い。王の名で処断してもらうんだ。それで…………ん?あぁ、それも良いじゃないか」


 また何か突拍子もなく思いついたのかこの人は。


「えぇ……何がですか急に。何が良いんですか?」


「何なら王の密命で動いたって事にしようじゃないか」


 何を言い出すんだこの人。

 レティさんは王に喧嘩売ったり脅したりしたんじゃないの?

 そんな相手が、自分の敵に長年放置していて問題視もしていない町に対して救済みたいな命令を出すか?


「そんな、乗りますかね?こんな話に」


「乗る。絶対に乗る」


「あの、どこから来るんですか?その自信は」


 なんか得意気に俺を見てくる、ちょっと鬱陶しい。


「分からないかぁ。まぁそうだよね」


 レティさんはソファーから立ち上がると部屋の中を歩き出す。 


「良いかい、モビー?負債に対してお金を出すのは私だ。でも、王の命で国が出した事にしたっていいんだよ」


「レティさん損しちゃうじゃないですか」


「そうだね。でもそんな表面はどうでもいいよ、相手はまた弱みを私に差し出す」


「お金を出してないですもんね」


「違うよ、そこじゃない」


 足を止めて俺に向き直り、その得意気な顔で説明を始めた。


「お金なんてこの際はどうでも良いんだ。いいかい?王が王位に就いてから主だって歴史に名を残すような事は何もしていないんだ、良くも悪くもね」


「ん?……はぁ、まぁ、それで?」


「この200年、歴代の王達が放置していた事を解決して歴史に良い名を残す。自分の命で当事者の貴族こそ処断するけど今回は罪を連座させない」


「結果、国民には良い印象を与えて貴族にも恩を売れると?でもそれだとレティさん何が得なんですか?」


「おや?少しは気付いたんだね、そうだよ。そして私の得の話。私がここに居る理由、モビーの意見を国に押し通せればそれで良いんだよ」


「それだけで良いんですか?お金もいっぱい使うんですよね?」


「それはもうどうでも良いんだよ。この件で国は商人ギルドにはかなり強く介入出来るようになる」


「知ってます、それ。結局国がどうこう言っても金と物流を握っている商人達には露骨な悪事でもないと手出し出来ない、ってヤツですか」


「その通り。この支部長が行っていた事、それを賄賂を貰って許していた商人ギルド、裏でドワーフを買っていた貴族の繋がり」


「一網打尽にすると?」


「しないしない」


 レティさんはケラケラと楽しそうに笑う。


「しないから、切り札が手にはいるんだよ。言ったじゃない?持っているだけで圧力を掛けられるって」


「……そう言っていて、切り札をいきなり切った人が言うのはどうにも」


「…………イジワル」


 何なんだその反応は。ジト目でこっちを恨めしそうに見ないでくれ。貴女の見た目は少女何だから割とこっちの精神に負荷が掛かるんだぞ。


「うん、とにかく」


 レティさんは咳払いをして場を戻す。


「王側の切り札は持って置けば自分の代に使わなくても取って置いてもいい」


「あちら側にいた自分の身内や敵対派閥にも恩を売れる、ギルドにも調子に乗り過ぎるとこうなると見せしめが出来ますね」


「多分、見せしめは商人ギルドかな?今回の件でお前らは信用を損なったから組織に介入するーってね」


「既に公的な流れがあるのに裏で人身売買していたらそうですね」


「うん、こう考えてくると都市を後回しにすれば状況は上手く立ち回って良い結果になりそうだね」


「言い出した人間が言うのもなんですが、少し楽観が過ぎますかね?」


「そんな事ないよ?人間思っているより単純だよ、規模が大きいかどうかなだけ」


「はぁ、そうですか」


 本当に大き過ぎてよく分からないな。俺ただの庶民だったし。


「もしかして、この町を私の直轄地に出来るように取り計らうかもしれない。これは考えが甘いけどそれに近い物になるとは思うよ」


「町長に任命するとかギルド脅して、支部長代理になるとかですか?」


「私に弱みを握らせて置かない為、その効力を薄める為にそれぐらいはしそうだ。支部長とかその代理は権限が一応違うから私はないねぇ、でも」


 レティさんは少し思案した後に会話を続ける。


「私の意見を聞いて、それに沿う人間をギルドから選出させる位の事は出来そうだね」


 楽しそうだなぁ、この人。

 最初は結構慌てていたはずだろうに。


「王には国の中での切り札が、私には新しい切り札か、それを無効化する何かが手にはいるんだ。災い転じて福をなしそうじゃないか」


「上手く行けば、ですね?」


「上手くいくように私が頑張るからモビーは気にしなくて大丈夫だよ」


「気にしたとしても、俺には何も出来ないですよ」


「そんな事はないんだけどねぇ……あ、所でなんだけど」


「はい?なんですか?」


「この話が伝わって向こうから使者が来るとなると、早くても10日は過ぎるんだ」


「そんなに掛かるんですか?何かこう魔法の水晶で通信、遠い場所の相手と会話出来る物とかは無いんですか。」


「そういう物がないことは無いけどここにはないよ」


「では10日以上ここで待つんですか?それも仕方ないでしょうけど」


「そこなんだよ、どうする?こっちから王都に向かう?」


「向かった方が良い、とは思います。こっちの、あぁ、言ってしまえば与太話を現実の物にするにはそっちが早いと思います」


「うん、私もそう思うんだけど問題はモビーなんだよね」


「なるほど。俺が一緒に行けばコイツはなんだってなるし、残れば残ったで言葉が通じないですからね」


「言葉に関しては、ムラタの手記を見つけて読んでいれば辞書のように使えてこっちの言葉を覚える足掛かりになると思うよ。ただ、安全面がねぇ」


 うーん、やっぱり異世界に限らず、交流する為にも言葉は大事だなと痛感する。

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