鉱山の町、人売りの町 二
どうしてこうなったのだろう。俺達は奴隷購入の交渉に来たはずだったのに。
レティさんの支部長強襲からその流れでガサ入れみたいになってしまった。
ここの支部長のゴーダンとかいうこの男は長い間ここのドワーフ達を非合法の高値にして一部の貴族に売っていたらしい。
基本的には若い男女を一度正規の手順、購入者を経由してから貴族に横流しというよくある手だ。
ゴーダンは自分がこの支部長になる前にその一連の流れを構築して金を作りそれをギルドに贈賄として納める事で今の地位を買った。
実際問題、こういう事はどこの世界、どんな国や場所でも起こる事。
割とその後の奴隷の処遇が悪くないのであれば暗黙の了解で闇に葬られる。
しかし、今回は現場を彼女、レティさんに見られてしまった。
どうにも彼女はとてもドライで合理的な割り切りをする反面、眼の前の理不尽には直情的に動く気がする。
結果、非常に面倒な事になってしまった。
「私はあのギルドの人間の弱みをいっぱい握っているからさ、それを利用してこっちの動向には口を出させず他言もさせず、表向き理想的な取引相手として立ち回って上げれば良いんだよ。弱みを握っているだけで十分だよ」
なんて事を言っていたのに。これでは計画が滅茶苦茶になってしまった。
切り札を持っているだけで良いという言い方をした数時間後に全力で切り札を切ってしまった。
そして何と言うか、彼女は完全に正義という訳でもない。
「(ここにいる全員がこの事を知っていたとは思わない、しかしお前)」
小柄な男は分かり易い反応でビクって背を伸ばす。
「(お前はここに入った瞬間にゴーダンを心配した。共犯で間違いないね?)」
「(いえ、私は……その、立場と言いますか……お、お許しを……!!)」
レティさんに平伏したその姿を見て、その頭上から声を掛けるレティさん。
「(そうか、そうだね。立場だね。お前も中間管理として従わざるを得ない事があったのか。家族に危害を加えるとでも言われた?)」
「(!!はい、そうです、はい!!事に協力しなければ私や家族に酷い目を見させると、どうか、ご容赦を!!)」
「(ふぅん……それは仕方がないね。人質みたいなもんだそれは仕方ない。)」
「(お許し頂けるのですか!?)」
勢い良く頭を上げてレティさんを見上げるそれは、縋り付くように見えた。
「(それはこれからの協力次第じゃないかな?不正を正す障害は今ここで消えたんだ。本当は従いたくなかったんでしょ?)」
アレはそういうやり取りだったとレティさんに説明された。
やっぱり怖い人だ、この人は。
小柄の男性は明らかに黒側だが司法取引みたいにしてあげる見返りにゴーダンを完全に生贄にして差し出せって事だ。
結果、この男性の指示で集まってきた他の職員達だろうか。その人達がゴーダンを縄等で拘束してしまった。
トカゲの尻尾ではなく本体を切らせたようなもんだ。
尻尾に切られた本体は今はこの建物の地下にある牢に入れられてしまった。
こういう時に助かろうとする人間は行動力が凄いな。
レティさんが言うにはこの牢屋は後付けでそもそもはただの貯蔵庫だったらしい。
「で、これからどうするんですか?全く計画通り行ってないですよ?」
「仕方ないじゃない。これからの女の子の人生を台無しにしてまで守るような計画じゃないよ」
ゴーダンが使っていた支部長室のソファーで向かい合って座る俺とレティさん。
レティさん側のソファーには先程の女の子が一緒に座り、レティさんに頭を撫でられながら縋り付いて泣いている。
無理もない。
「俺、席を外しますよ」
女の子のケアもあるだろうが、あんな事があったばかりだ。
男の俺がいたらこの子の気持ちが落ち着かない可能性が高い。
しばらくは部屋の外にでも出ていた方が良いだろう。
「あまりモビーに離れてもらうのも困るけど、今はそうしようか」
「えぇ。扉の前にいますから」
俺は2人を残して廊下に出た。
本当にどうしたもんだろうな、これは。
多分、レティさんの事だから今回の件で奴隷を裏で買っていた貴族なんて良くて財産の没収、悪いと御家の取り潰し、最悪また一族郎党皆殺しか何かなんだろう。
だが、どうなんだ?今の彼女は前の職から退いているはずだ。
200年分の王侯貴族の弱みを知っているとは言え、今でもその影響力なんて物はあるのか?
うん、俺には分からない。でもまぁ、なんとかしてしまう。そんな気もする。
そんな事を考えて結構時間が経っただろうか。
胡座で扉の前に座っていると声を掛けられた。
「(どうした?中に居なくてもいいのか?)」
顔を上げて見ればアラダリさんだった。だが、残念ながら彼がなんと声を掛けてきたのかが分からない。
「(そうかすまない。言葉が通じないんだったな)」
う~~ん?ここに来たって事はレティさんに用事、話があるんだよな?
「あぁ……レティーシャ?」
とりあえずレティさんの名前を出して扉に指を指してみた。
「(…………!あぁ、そうだ赤髪に用がある。この部屋にいるんだな?)」
アラダリさんは何か理解してくれたような感じで俺と同じように扉を指差した。
とりあえず頷いてはみたが、意図は通じているのか?
そもそも頷きすら地球でも場所によって否定の動作なるんだっけ?
誤解があっても困る。扉を数回ノックして声を掛ける事にした。
「レティさーん、アラダリさんが来てますー。用があるみたいですー」
分かったよー、と声がした。ちょっとの間があって扉が開いてレティさんが部屋から出てきた。
「(何?どうかしたの?)」
「(あの娘の両親と祖父母が来ているんだ、引き合わせてやろう)」
「(そうか、手間を掛けたね。ありがとう)」
「(こんな事はどうって事はないが、なんだ、あの子は大丈夫か?)」
「(運良くね。もし呑気に支部長との面会を待つなんて判断をしていたら危なかったね)」
「(それは、まぁ、この場合は……良かったと言っておく他ないな)」
「(そうだね。私が連れてくるよ、待っていて)」
会話を交わし一度部屋に戻っていった。
残された俺は何となくアラダリさんの方を向いた。俺よりも頭1個分は背が高い。
こうして見ると高身長で良いなぁと羨望で見ていると目が合ってしまった。
彼は少し気不味そうにだが小さく微笑って返してくれた。
意図は読めないが悪感情な物ではないという位は理解できたのでこちらも苦笑してみた。
「(お待たせ。さぁ、帰ろうか)」
再び扉が開きレティさんが女の子と部屋から出てきた。
女の子はレティさんの小さな背中に隠れて顔を背に預けていた。
こんなに小さい子供なのに。嫌な経験をしてしまった事を思うと心が痛い。
「家族にこの子を返してくるよ。モビーはまたこの部屋に入って待っていて」
「(案内を頼むよ、この子はこんな感じだから私も着いていく)」
「(その方が良いだろう。彼は?連れて行くのか?)」
「(この部屋で待っていてもらう)」
「(分かった。さぁ、とりあえず1階へ)」
「じゃ、行ってくるね」
そう言うとアラダリさんを先頭にレティさんと女の子は下の階へ降りていった。
1階の階段付近にでも家族が待っていたのだろう。
階段を降りきったような間で女の子とその母親だろう女性の泣き叫ぶような声がした。
安堵の声なんだろうが…………やれやれだ。
こんな事、俺が知らない、見なかっただけでこの世界でなくても俺のいた世界でも今も少なくはないんだろうな。




