鉱山の町、人売りの町 一
起こされて幌の荷台から出て初めて見た光景は、まぁ良いものではなかった。
もっと煙突とか炉がある建物で煙が出ているようなイメージだったが全然そんな事はなく。そういった建物はあっても煙なんて上がっていない。
町全体が山の斜面に建っている感じで、その更に後ろの斜面にはいくつも坑道が口を開けている。
昔はここから鉱物を採掘して加工していた、その名残が見える。
見た所幅の広い側溝みたいなのが町にはある。
なんだろう、これって水路って事で良いのか?
「それは水路だった物だよ、鉱物を加工する用の。今じゃ水なんか流せないんだよ」
物珍しく見ていたらレティさんに後ろから声を掛けられてしまった。
「水が無くなったからですよね?」
「そう。まぁギリギリ生活用水はあるけどそれは別の水路があるんだ」
200年も前の物でも一応風化せずに残っているのか。石造りっぽいし、やっぱり構造物に石を使うって何年先でも形が残りやすいんだな。
「君には珍しいかもしれないけどあまりそんなにジロジロ見ているのは良くないよ?こちらも見られているから」
そう言いながら視線を方々へ巡らせる。それを追ってみると色んな建物の窓や薄っすら開いた扉から住人がこちらを窺っているようだ。
「この町に来る人間なんて理由は決まっているから、歓迎はされないよ」
「そりゃそうでしょうね、また誰か連れて行かれるって思いますもの」
観光のようなただの余所者ではない。
同胞を、自分を連れて行くかもしれない招かれざる客。この町の人達から敵視されて当然だ。
「(とりあえずギルドの支部に向かうぞ。あの話、私はあくまで仲介しか出来ない)」
「(そうだね。元締めの所に案内よろしくね)」
馬と荷馬車を町の入り口付近の厩に預け終わったアラダリさんが何か声を掛けてきた。
「移動するよ。この町を取り仕切っている商人ギルドの元締めに会いに行く」
「それ、俺も着いていかなきゃいけないやつですか?」
「そうだね」
「宿を取って、大人しく部屋で待っているとかダメですか?」
「宿なんてないよ。ギルドで寝泊まりするんだ、だから結局ギルドに行くしかないの」
大人しく着いていくしかないか。レティさんから離れても良い事はないだろうし。
アラダリさんを先頭に俺達は町を徒歩で商人ギルドに向かう。各方向からの刺すような視線を受けながら。
しばらく歩くとその商人ギルドに到着した。したのだが、なんかそんなに大きくない建物だ。
俺達がいた宿場の2つ分位の大きさ程度の2階建ての建物がそれだった。
「あんまり大きくない建物ですね」
「ギルドって言っても支部だし、こんな僻地じゃね。こんなものだよ」
「(ここだ。まぁ、アンタは過去に来た事があるから知っているんだったな赤髪)」
「(あぁ。知っているかい?昔はここはこの町の長の家だったんだよ)」
「(一応は。しかし何百年も前の話だろそれは?)」
「(うん、300年前位の思い出だよ)」
何か話しながら建物の中に入る。
うーん、趣がある建物だ。これもやはり石造りだから結構古い建物でも残っているんだろうな。
扉を開けると正面にはカウンターがありそこには小柄な少し老け気味の男性が座っていた。
男性はこちらを見ると声を掛けてきた。
「(おや?随分と早いじゃないかアラダリ。今日戻るとは聞いていたがもっと暑い時間だと思っていたよ)」
「(あぁ。この赤髪のエルフ、レティーシャとその、親しい友人のお陰だ)」
「(そうかい?所で馬と荷馬車は?)」
「(それも赤髪の強力でここまで連れてきたんだが、少し話が変わってな)」
「(と言うと?)」
「(赤髪が馬2頭を金貨4枚、荷馬車を金貨5枚の計9枚で購入すると申し出た)」
「(良いのかい、勝手に。あれは……まぁ、誰の物でもいいか。お前さんが話を付けるのならこっちはなんもないよ)」
「(商売、だからな。今回は仲介だが)」
「(好きにしたら良いさ。で、その報告に買い手のエルフを連れてきたのかい?)」
「(違う。こっちが本題だ。赤髪、レティーシャがここからドワーフを購入したいそうだ)」
男性が立ち上がってレティさんをジロジロと見ている。何というか、値踏みする感じだ。
レティさんは涼しい顔をして立っているだけだ。
「(買うって、どんなのを?何人だい?)」
「(具体的な話は直接元締め、支部長としたいらしいから取次を頼む)」
「(そういう訳だからよろしく)」
あ、レティさんもなんか喋った。
「(取次ねぇ、まぁ、元締めならいつも通り2階のあの部屋だが……)」
「(何か問題でも?いつもは大体昼寝でもしている頃だが、顧客が来ているんだ優先するだろう)」
「(少し間が悪いねぇ……ドワーフの娘をさっき連れ込んだばかりだよ)」
何だ?レティさん涼しい顔って言うより能面みたいな顔になってきてないか?
「(ドワーフの20歳なんてまだガキだろうに、よくやるもんだ)」
レティさんが走り出した。結構速い!
「(おい、アンタ!勝手にどこに行く!?)」
「(赤髪!?待て!)」
とりあえず追いかけるか、ここにいても俺もどうしようもない。
レティさんはカウンターの左右にある通路の自分から近かった左側に走っていったのでそれを追った。
見失いはしないがサンダルだと走り難い。そのまま走っていくと壁にぶつかって右に曲がる。
曲がると少し進んで幅の広い階段が右手にある、ここから2階に行くのか。
階段を上りきると少し広い空間の前に扉があって、レティさんが開ける所だった。
しかし施錠してあるらしく開かないようだ。
その間に俺も扉の前まで追いついた、雰囲気から体当たりでもしたら開くのかと考えていた時だ。
レティさんは杖をドアノブに向けて何かしていたようで、ドアの施錠が外れる音がした。
「開いた、モビー蹴破って。早く!」
既に開いたのにわざわざ蹴破る必要があるのかと思ったが、勢いに押されて指示通り蹴破った。
部屋の中には正面に大きな机があるがそこには主はいない。
その手前には接客用のテーブルと革張りのソファーがあるがそのソファーの上に主らしい男と少女が居た。
男の方はまぁまぁの巨漢でよくこんな暑い環境でそこまで太っていられるなという印象だ。
少女は薄っすら日焼けしているような肌に映える白いワンピースを着ている。髪は茶色が強い黒髪って感じだろうか。
だが何よりギョッとしたのは少女が本当に少女で、12、3歳にしか見えない程だった。
「(そこまでだ、全員動くな!)」
右手の杖を突き出すように構えたレティさんが何か言っている。
おそらくは万国共通でこういう場合は動くな、みたいな事を言っているんだと思う。
「(だ、誰だ貴様は!!私の部屋に、どういうつもりだ!!)」
男が驚いて立ち上がって怒鳴ってくる。少女は座って萎縮したままだ。
「(ギルド支部長のゴーダン、貴様を拘束する)」
「(拘束だと!?何の罪状だ、どういう見解でそんな事を言うか貴様!!)」
「(罪状か、貴様はこの支部長になる為にギルドに贈賄しただろう?)」
「(何の証拠が有ってそんなデタラメを!っそもそも、賄賂を送ったとしてそれはギルド内の事だ。貴様が何者か知らんが例え国でも関与できる話でないわぁ!!)」
「(それだけならね。お前はその賄賂の為に違法にここの奴隷の価格を釣り上げていたな)」
「(な、何を!?)」
「(本来なら正式な手続きで合法的な身売りだったはずだ、でもお前は非合法の奴隷商人と同じ価格でここの若いドワーフの男女を一部の貴族達に横流しして売っていたな?)」
「モビー、目を瞑って!!」
さっきまでここの言語で言い合いをしていたが、急に目を瞑れと言われ俺は目を閉じてなんか勢いで更に手で覆った。
次の瞬間、男と女の子の悲鳴が聞こえた。
多分、前に言っていた閃光が出る魔法でも使ったんだな?
「もういいよ、女の子をこっちに連れてきて!」
「え?あ、はい!」
目を開けるとソファーで目を押さえて悶絶している男と女の子がいた。
女の子を助ける為だが少し無茶するなと思いつつ、俺はその女の子の手を掴んだが振り払われてしまった。
こんな状況なら無理もない。
俺はこの子を動かせないならと考えを変えて、近くで仰向けで悶えている男の鳩尾を踏みつけた。
目眩ましを喰らい、その上鳩尾を踏んで圧迫された男が更に苦しそうに藻掻く。
「いい判断だよモビー」
「(お前達何をしているんだ!?)」
レティさんの声とアラダリさんの声が重なって聞こえてきたが認識できたのはレティさんの声だけだった。
「(支部長!?何のつもりだ貴様!!)」
小柄な男性もやってきた。
「(この光景を見て最初に心配するのが男の方とはお前も腐っているんだね)」
「(赤髪、お前は…………その子を助ける為だったんだな?)」
「(そうだよ?やっぱり君は話が分かって助かる)」
こんな大騒ぎをしているんだ、この建物にいた人物がどんどん集まってきている。
「(この男、支部長ゴーダンを拘束する。罪状はギルドの名使ってこの町のドワーフを違法に貴族に売り渡していた奴隷の違法取引)」
「(そんな!?)」
「(正規の身売りとしての体裁と価格で国を欺き裏で高額で取引してその差額で贈賄、このギルド支部長になったんだ)」
「(アンタは何だ!何でそんな事を断言できる!?)」
「(そんなの簡単だよ、私は200年この国の財務担当をして金の流れを見続けてきた)」
何だ?あんなに騒ぎあっていたのに、レティさんが言い終わったら静かになったぞ?
「(君達がいう所の算術を使う死神だから何でも知っているんだよ)」
また一言何か言ったが、より静まり帰った気がする。こういう時に完全に置いてきぼりだ。
「(こんな事がなければ黙って目を瞑っている所だったんだけど、失敗したね?)」
まだ周囲は沈黙を保っている。余程の事を言っているに違いない。
「(お前からドワーフを買った貴族諸共滅んでもらうよ?ゴーダン)」
うーん、取り敢えず、俺はどうしたらいいんだろう?




