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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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砂漠で歌舞伎揚を齧る 四

 俺が出した歌舞伎揚をボリボリと頬張って、俺が湯呑みから注いで分けた水を飲んでいるレティーシャさん。

 この世界の人間の味覚とかイマイチ分からないけど気に入ったんだろうか。


「あの、おいしいです?これ」


 ん?と声になってない声を出してこっちを向き、水が入った木製のカップに手を伸ばし、水を一口飲んだ。


「ん、おいしーよー。いやーでもこれはお菓子っていうよりもおいしい保存食だね。塩っ気と甘さがとてもいいし、ザクザクって食感も食べていて面白いね」


 言い終えるとまた1枚食べる、食べ終わるのを眺めながら待つ。今度は水を飲まなかった。


「携行の保存食として軽い事、味、食感も良い」


 言い終えるとまた1枚食べた。それで出してあげた10枚全部完食なんだけど、これでまたいっぱい話し出すんだろうか?


「こういった暑い劣悪な荒野みたいな環境だと保存食は大体干し肉とか干し米とか焼き固めたガチガチに堅いパン、あー干した果物もあるね。何れにしても乾燥させて水分を飛ばしたりした物ばっかりだよ」


 あぁ。やっぱりこれは始まったな。


「干し肉とか堅いパンは想像出来ますけど。それでもダメなんですか?」


「ダメじゃないんだけど。干し肉は食べる為によく噛んで食べなくちゃいけない。唾液を使って口の中で肉に水分を戻しながら食べるからね」


 先程まで歌舞伎揚を広げていた布の上に目をやり、もうない事を確認して少し間が出来た。


「知ってる?食物を消化するのって身体の中で結構水を使うんだよ?砂漠や荒野で水が十分にないなら無理に食べ物を食べるより水を飲み続けた方が良いのさ」


「え、でもこの歌舞伎揚……お菓子も食べたら水使うんですよね?変わらなくないですか?」


「分かってないねー。肉の方が圧倒的に消化に水を使うんだよ。このお菓子、これって多分米か小麦を揚げて塩と砂糖を塗って味を調えた、いや揚げる前に塗って?まぁ、いいかそういうものでしょ?そういう食物の方が水を使わないから良いんだよ。その点では堅いパンも水を使わない方だけれど、食感も味もイマイチ」


 へぇ~と、素直に感心してしまった。


「まぁでもなんだね、それでもやっぱりこんな所ではあんまり食べる事自体は良いことじゃないんだ。でも私達はこうして考えなしに食べている。それは君の出せる水の存在が大きいんだよ」


 長語りに入った気がする。俺は適当にレティーシャさんに追加で10枚の歌舞伎揚を出して渡し、自分の飲んでいた水を飲みきってから新しい冷たい水湯呑みに出して彼女のカップに注いだ。


「レティーシャさん、良かったらもっとどうぞ」


「気が利くじゃないかー。……ん」


 ニマニマと微笑んでいる。いたが、何かちょっと微妙な表情に変わった。


「私の事をレティーシャなんて長く呼ばなくていいよ?オネーサンかレティとでも呼び捨てにしておくれよ」


 なんでそんな事で表情曇らせたんだこの人。

 さすがにこんな状況で年長者を呼び捨てにするなんてどうだろう、凄く気まずい。自分が。


「それは、ちょっと。失礼かなとも思いますし」


「気にしなくていいよぅ。オネーサンと呼んでよぅ〜」


 うわ、なんだこの人。ダル絡みしてくるの?


「オネーサンも、ちょっと……」


「なんだいなんだい?約900歳の私はオネーサンじゃなくばあさんだって事だからかい?見た目はこんなに少女じゃないか?」


 本当にダルいなぁもう。こんなの日本で、私って見た目がいつまでも若いからとか言ってくる年上の女性にやられてたらもう対応でストレスが半端じゃない、切れてしまいそうだ。


「そうじゃないですよ!ただ単に失礼かどうかの話です。もう、ではどうです?呼び捨てにせずレティさん呼びでは?」


「……まぁいいよ。親しみやすくなったし。レティちゃんならもっと良かったけどね」


 勘弁してほしい、そんなの。そもそも言語が違うのに敬称的な概念があるの?いや、さん付けしている俺が言うのもおかしいけど。


「あの、何か長くなる話をしてくれそうな感じだったから追加でお菓子と水を出したんですけど……」


「そうだったね。で、どこまでというか、何を話していたんだっけ?」


 こういうキャラなのか、それとも見た目少女でも加齢による脳への影響が出ているのか。少し不安になる。


「水の存在が大きい話です」


「それそれ。水が私達の今いる環境に大事なのは理解しているね?でも昔はここも含めてこの荒野一帯は大きく栄えていたんだよ。信じられるかい?人間が栄えていける程度には水があったんだ」


「200年前までが、そうなんですね?」


「そう。さっきドワーフの町を話に出したよね?借金だらけの町もその200年前までは普通に栄えていたよ、取引先が有ったから。無くなってジワジワと衰退して今に至ったと」


 レティさんは水を一口飲む


「この道の先にあるドワーフの町から別の都市に続く道があるんだよ。でもその都市はもうこの宿場と同じように廃棄されているんだ、その都市が存在したからこの辺一帯が栄えてドワーフ達も潤っていたんだ。今じゃここの宿場の方がまだマシな方だよ、偶に立ち寄る人間がいる分だけね。あっちは行く理由もないんだ」


「その栄えていた都市には世界樹って言われている神級に力を持った大きな樹があったんだ。その周りに人が集まりだしていつの間にか都市にまで発展してしまったんだ」


 世界樹、所謂ユグドラシルとかそういったモノのイメージで良いんだろうか?

 でもなんでこんな荒野にそんなデカい樹があったんだろう?いや、そもそもその樹があったとしても。


「おかしくないですか?神様みたいな樹があったとしても、なんでそれだけで人が集まってくるんですか?近くにオアシスとかがあったとかですか?」


「良い着眼点だね、そう利点があったんだよ。人が集まるに足る理由が。説明するからちょっと待ってね?」


 そう言って歌舞伎揚を1枚ボリボリと音を鳴らし、水を飲むレティさんだった。

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