砂漠で歌舞伎揚を齧る 三
手紙にはもう少し能力の事が書いてあった。
曰く、湯呑みは放っておくと勝手に消えてまた必要な時に現れるのだという。こちらはおまけなので特に何かを失うこともなく無限に水やお茶、熱湯が得られる、らしい。
「さーて、君が現状手に入れた能力は理解したかい?」
紙を読んでいた俺を眺めながら彼女は言う。
「えっと、まぁ、なんとなく」
歯切れの悪い反応しか出来ない。こんな能力でどうしろっていうんだ?現状当面は水と食料を気にする必要がないだけだ。
もっとこう、瞬間移動が出来るとか時間を止めるとか、どんな病気や怪我も一瞬で治すようなチート級の能力じゃないなんて。
「その顔は能力に納得がいっていない感じだね?」
まぁその通りなんだけど。何ていうか、何なんだろう。この湧いてくるどうしようもなく呆れる程の脱力感。何、俺は歌舞伎揚を食べてて死んだの?その辺の記憶全く無いんだけど。
「まぁまぁまぁ。そうガッカリしてはいけないよ?君はお菓子と水を無限に得るというとんでもない能力を得ているはずだ。これがこの状況でどれだけの」
「あの、ちょっといいですか?」
脱力している俺を置いてけぼりにして、彼女は延々とまた喋り続けるモードに入りそうだったので俺はそれを制止して今更ながら質問をした。
「あーいやーあー、うん、そもそも貴方は誰ですか?」
本来なら最初に相手の素性とかを訊くのが筋なんだろうが、状況が異常だしそんな中で色々喋ってくる相手に流される形で質問できていなかった事を尋ねてみた。
「…………あぁ!そうか。これは私の失態だね、そうか、そうだよね。私は君を知っているからそのつもりで話していたけど、君は私を知らないんだ」
先程までは結構楽しそうに表情を変えていたのに、ここ来て何とも神妙な面持ちで左手で右肘を持ち、顎を右手の親指と曲げた人差し指で挟み分かりやすい考え事をしているポーズを取っている。こっちの世界の人もこんなポーズ取るんだ。
「うん、まずは自己紹介をしようか。私の名前はレティーシャっていうんだ、人類の部類では長命種だよ。君達の言葉ではエルフで良いんじゃないかな?」
「長命種、ですか?実際どれくらい生きるんですか?」
「そうだねぇ個人差もあるけど大体1000歳前後かな?」
「1000歳!?、鎌倉幕府から現代まで余裕で生き証人に成れるんだ」
じゃあ目の前のこのレティーシャさんというエルフは一体今何歳なのだろう。この見た目と背格好で。
「ちなみにオネーサンは今およそ700歳と200歳で900歳って所だよ」
こちらが思う事が分かりやすかったのか、エルフと対峙する人間が思う事が一辺倒なのか。レティーシャさんは自分の年齢を教えてくれた。でも、何でこの人は素直に900って言わないで700と200なんて区切ってから言ったんだろうか。
「それで、他にも教えてあげられる事や教えたい事がいっぱいあるんだけど何から聞きたいかな?ユータ君は」
え、何て?何だ、今この人は俺の名前を言わなかったか?
「何で君の名前を知っているか、かな?言ったじゃないかオネーサンは君の事は結構色々知っているんだよ?未来視が出来るような相手から聞いた情報だから間違いもあるだろうけど」
何だよそれ、ここの世界の人間はそんな事が出来る人間もいるの?出会ったり目を付けられたら詰みじゃん。
ていうかそれだと何が目的なんだこのエルフは。一気に信用できなくなってきたんだけど。
「そう警戒しないでも大丈夫だよ。何でここにいて君を待っていたか、それは君を助けてあげるためだよ」
「本当、ですか?」
「こんな状況だから信じるのも難しいよね?分かるよ」
うんうんと、目を瞑りながら数回頷く彼女。
「でもね、まず何よりも信じて欲しいのは君の言葉はこの世界じゃ通じないんだよ?」
「え?そうなんですか!?」
「良い感じで驚いてくれてオネーサン嬉しいし楽しいよ」
驚く俺をニヤニヤと笑みを浮かべて眺める彼女。
彼女は笑顔を携えたまま俺に近付いてきて言った。
「ま、時間はまだまだあるし説明する事もいっぱいあるからさ」
彼女は俺に手を差し出してくる。
「お菓子と水、貰えるかな?君なら出せるはずだもの。飲み食いしながらダラダラ説明してあげる」
これは、大丈夫な状況なんだろうか?




