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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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レティーシャの会話が理解出来ない 六 終

 今日は全員でホールに雑魚寝している。

 最初はいつも通り俺とレティさんは寝室で、アラダリさんはホールで雑魚寝してもらう流れだったらしいが俺が自分達だけ涼しく寝心地がいい場所で寝る訳にはいかないと主張した結果、こうなった。

 ホールに設置してある魔法的な温度を調整する物をホールにだけ使用している。結果、寝室ほど涼しくはないが何もしていない空間よりは遥かに快適になっている。

 最初からこのホールの規模に使えるような魔力を持っていたのかと訊けばそうだと肯定され、では、最初から使わなかったのはやはり効率の問題なのかと尋ねればそうだとも言われた。

 まぁ、確かに。たった2人の為にこんな広い空間を冷やすよりも寝室だけを冷やす方が効率が良いのは当然だ。しかし、少し引っ掛かる所がある。

 この部屋を冷やしだした時にアラダリさんがどうにも驚いていた。どうして彼は驚いているのかをレティさんに訊くと、


「この規模を冷やして体調は影響ないのか、だってさ。うん、全然問題ないよ?寝室の方が楽なのはその通りだけどね」


 等と、気楽に返答された事だ。

 魔力とはなんぞや?その回復方法は?

 ゲームのようにMPなりでゲージ付きで目に見えるような事はない。何かよく見る設定の測定出来る水晶に手をかざすと色で力が判定されたり、強すぎて砕けたりするとかって物が有ったりするのであれば比較も出来るんだろうが、そこの所は俺には分からない。

 ただ、アラダリさんの驚き具合からすると、おそらくはここの空間を冷やすだけでもかなりの力を使っているような感じの驚き方だったように思う。

 レティさんはどれほどの魔力、力の持ち主なのだろう?自身では大した事がない、生活が楽になる程度だという感じで説明している。では実際は?本当にそうなのか?

 この世界には魔法がある、それは分かっている。でも、実際にどんな運用方法で用いられているんだ?

 魔法を使って炎は出せるようだ。これはドワーフの町で子供に教えたという話から理解できる。しかも、レティさんがドワーフに教えてである。教える側に特別な教え方、教わる側にもそれなりに個人に素養といった物が必要なのか?その辺も分からない。

 簡単に想像できる火球を飛ばす、氷の矢を作って飛ばす、風の刃で切り裂く、何もない場所で水流をぶつけるような攻撃魔法はあるのだろうか?あったとしてどれ位の力を持った人物がそれを出来るのだろうか?考え出すと止まらない。

 水を出す魔法があるなら、実際問題こんな砂漠でもそんなに困らないんじゃないか?別に攻撃をしなくたって水は水だ、その水を飲料水にしてしまえばいいのに。イマイチよく分からない。


「モビーまだ寝てないの?明日は移動だよ、今日はよく寝ておかないと命に関わるよ」


 中々に物騒な物言いでレティさんに声を掛けられた。


「あぁ、まぁ、何といいますか。色々考えてしまって、すみません寝ます」


 今思えば訊きたい事は山程ある。何も魔法に限った話でもない。

 どうやってアラダリさんに協力してもらうように話を付けたのか。ドワーフの町から住民を解放するような買い取り方を続けるのは本当に大丈夫なのか?

 借金を取り立てる側がその人口の動きから何か疑問を抱いたりしないのだろうか?ただお金が確実に手に入るから気にも止めないような人達だけとは思えない。

 商人というのは個人の印象しかないが、お金が絡む事、それは人の動きも含めてそういった事に敏感なはずだ。

 俺の事といい、これから勝手に占拠するという都市の事といい、彼らはその事に気付いたりはしないか?

 考えれば考える程分からない事だらけだ。

 案外、記憶だったりを持ち越したまま生まれてこないのは良い事かもしれない。今置かれている状況に疑問を持つ事もなく、そういう物として少しずつ受け入れ学習して適応していく。

 以前の情報が邪魔をするようでは、どうしても考えや価値観、常識に齟齬が生まれて俺のように考えてしまう性格だと無駄に悩む。

 唯一悩む事がないのはこれからの自分自身の身の振り方だけだ。俺はレティさんの側で行動するしかない、言葉が通じないのは本当に致命傷だ。

 身体が20歳に若返っているなら脳も一緒に若返っていたりすると、1からこちらの言語を覚える事も難しくないかも知れないがその保証もない。

 生殺与奪を握られている、等という事でもないと思いたいが。レティさんに依存して行動するしかない。

 彼女の描く未来の展望、それに付き合う他ない。

 何か悩んでいるのが無駄に思えてきた。どうしたって最終的にはレティさんと行動するに帰結する、では考えるだけ無駄で思考を停止して流されていても問題ない、という事もないだろうが自分にどうこう出来る事でもないんだ。考えるの止めて寝よう。

 俺だけかもしれないけれど、どうして人間って寝る前の方がどうでもいいような事を考え出してしまうんだろうか?


「そんなに眠れないなら子守り歌でも歌おうか?」


「……大丈夫です。お気持ちだけ、もう寝ます」


 今日はアラダリさんもいる彼も寝ているのに邪魔になってしまう。

 寝るしかない、寝よう。明日、明日になればまた否が応でも事態は進んでいくんだ。

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