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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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レティーシャの会話が理解出来ない 四

 話の腰を折って申し訳ないが、一旦この場を離れさせてもらおう。色々と話がまとまってからその話をレティさんに聞いて、そこから動いたって良いじゃないか。


「お話の途中で邪魔してすみませんが、俺2人が何を言っているか理解出来ないですし一旦寝室の方へ引っ込みますね」


 レティさんの方を向いて言い終え、アラダリさんに向き直り左手を後頭部に回しながら会釈してから立ち上がる。

 この世界の人間に会釈という概念があるかは定かじゃないが、なんかこう、雰囲気で申し訳なさが通じれば良いな。

 しかし、俺はその場を離れられなかった。立ち上がって会釈をしている最中にレティさんの左手で俺は右手の手首を掴まれた。

 え?と、思い彼女を見るとなんか真顔でこっちを見てくる。


「ダメだよ。私の側にいてくれないと」


「いやぁ……そう言われましても」


「分かった、今ここで歌舞伎揚を3枚出してもらって良い?」


 何故だ?何故このタイミングで歌舞伎揚なんだ?食べたい、訳では無いよな。ではどういう意図だ?そもそもこの商人、アラダリさんの前で見せて良いのか?隠しておくべきじゃなかったのか?


「彼の前で出して大丈夫なんですか?」


「構わないよ。よく見えるように出してあげて?私の右手の上に、お願い」


 どうなっても知らないぞ?この場合どうにかなりそうなのは俺自身の方か。

 レティさんが右手を解放してくれたのでそのまま彼女の差し出されている右の掌に歌舞伎揚を3枚出してみた。この位置と高さなら彼にもよく見えただろう。


「モビー座って?まだここにいてもらわなきゃ」


 彼女は俺から受け取った歌舞伎揚の1枚をアラダリさんに差し出す。


「(はい。あげるから食べてみて)」


「(何だ、これは?食べ物なのか?いや、それよりも彼はどこからこれを出したんだ?奇術の類か、それとも魔法か?)」


 椅子に座り直して彼を見ているが、やっぱり困惑というか混乱というか。とにかく地味に狼狽えているのが雰囲気から察せられる。


「(食べ物だよ。いいから食べてみてよ?あんまり出会った事のない味と食感だよ)」


 何事か言うと、レティさんは歌舞伎揚の残る2枚の内の1枚を自分でボリボリと咀嚼音を立てながら食べ出した。


「(美味いのか?もっと気になる事もあるんだが、食べても大丈夫なんだろうな?)」


「(大丈夫だよ、私が保証するよ)」


 あ、2枚目も食べ出した。安全性を強調しているのか単に食べているだけなのか。

 アラダリさんが何だかおっかなびっくりといった具合に歌舞伎揚を齧った。咀嚼音はあまり聞こえてこない。果たして口に合うかどうか。


「(まぁ……なん、と……言うのか。うん、悪くはない?甘いような塩気を感じる?というか)」


「(ね?食べれなくはないでしょ?)」


「(あぁ。だが、この食べ物がなんなんだ?)」


「(彼はこの食べ物はほぼ無限に出せるんだよ。ちょっとだけ出すのに条件はあるんだけど)」


 何だ?今度は目を見開いて俺を見てきたぞ。味に感激したならもっと前に、食べた時にするよな?この反応は。では何を驚いているんだ?

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