レティーシャの会話を理解出来ない 二
「(ふむ、一応聞くけど何を悩むの?ここで資産の形を変えるかダメにするかだよ?お金に変えてしまえば持ち運びも楽だし価値も固定される。遺族もまた買い直す事も出来るじゃない?……あぁ、自分が得をしないって事?)」
「(決してそんな訳じゃないが)」
「(やれやれ商売上手だね。確かに、こうなった経緯を説明してお金に変わった諸々を渡す時に遺族に説明がいる、それも結構骨が折れる。分かったよ、仲介料で更に金貨2枚、これを君の取り分として渡すよ。どうかな?これ以上は本当に譲歩しないよ)」
「(金貨2枚……私個人にか?労力からすれば私にも悪くはない話だ)」
「(でしょ?受けた方が良いと思うよ?これから多分私達は長い付き合いなる、その際に私達に携わる事でかなりの利益を得る。これはその切っ掛けだよ)」
「(それはあの男が関わっている事か?)」
何だ、またこっちを見てるのか?馬の扱いが悪いの?さっき水掛けて洗ってあげるとかいってまだやってないからか?
仕方ないじゃないか、馬に触れる生活なんかした事ない人生だったんだから。
「(それを知るかどうかも込みで、どうする?)」
「(…………分かった、私が仲介する。ここに居る2頭の馬と荷馬車は赤髪、アンタに譲渡するようにする)」
「(それは良かった。それじゃ売買とその仲介成立だね、売買成立を書に残そうか)」
「おーい、モビーちょっと良いかい?こっちこっちー」
声を掛けられた。2人の話は終わったんだろうか?俺が呼ばれても口出し出来る事もないし、まぁ、終わったんだろう。
「はーい、今行きまーす」
昨日から先にいた2頭にも水をあげて、取り敢えず食べるかと思って歌舞伎揚を適当ざらざら出してあげた。
あ、食べるんだ。食べさせて大丈夫だったのかな?凄い勢いで食べてるけど。よし、こんなもんだろう。あぁ、後で糞とかおしっこの処理してあげないと。そういうのどうしたらいいんだろう?レティさんなら知ってるか、年の功で。
「どうしました?持ち主は判明したんですか?」
まぁ、分かりきっているけど。
「馬と荷馬車は私が買ったから。今から母屋の方に戻って書面に残してもらうから一緒に来て」
「え、馬と荷馬車買ったんですか!?」
「これから必要だからね?手持ちで間に合ったし」
そんな駄菓子屋でガム買う位の事みたいに涼し気に言うの?お金持ちは違うなぁ。しかし、一体いくら位だったんだか。そもそもの馬の相場も知らないし見当もう付かない。
「(彼も一緒なのか?書面の名を連名にして所有権を共有するのか?言葉が通じないようだが大丈夫なのか?)」
商人、アラダリさんが何か言っているようだ。
「(そういう訳じゃないけど、色々説明するのも込みでの契約だったじゃない。終わった後に彼の事を説明するから最初から側にいてもらうだけ)」
あれ、そういえばこの馬とかって昨日の男の物じゃないのか?この人が売るとか決めていいのか?それとも商人仲間でなんか保険的な取り決めでもあるのかな?
「あのレティさん?この馬とかってこの人の持ち物っていうか何だろう、所有物でいいんですか?」
「彼が所有者の遺族に代金を渡してくれるよ、仲介料も払ったから。このままここに置いていくなら世話しないし面倒も見ないって言ったら売ってくれた」
脅しじゃないかそんなの。巻き込まれる馬が可哀想じゃないか。
「そんな酷い事をよく言えましたね……」
「言うよ?だってそんな事は実際にはさせないでしょ?モビーが」
なんとも言えない返しが来た。そんなに俺を買い被ってもらっても困る。まぁ、見捨てれないけど。
「(そろそろいいか?)」
「(あぁ、悪かったよ。うん、行こうか)」
「早くしてほしいってさ、急かされちゃった」
「それはいけない、商人ですもの。時は金なりです、行きましょう」
「時間がお金なら私達エルフは人間と比較して生まれながら大富豪だね。……行こう?」
そう言うとまた彼女は俺の手を握ってきた。今度は握り返す事もせずに手を引かれて着いていく。
その姿を商人アラダリさんに見られながら目の前を横切って進む。振り返らない、絶対変な目で見られている。恥ずかしくて仕方がない。
場所はいつもいる建物のホール部分に戻り、いつもは壁際に押し付けている長方形のテーブルと丸い椅子を空間の中央辺りに並べた。どれも埃っぽいので湯呑みで水を出して湿らせた布で拭いた。
俺はレティさんの左隣に触らされ、レティさんとアラダリさんが対面に座る形だ。うん、それは当然だし特に疑問もないんだが、なんだ、何でレティさんは機嫌が良さそうなんだ?良い買い物が出来たという事か?
席に着いてからアラダリさんは何か巻いてある紙を取り出して広げると何事かスラスラと黒いインクを羽根のペンで紙の滑らせて書き綴っていく。
まぁ、やっぱり俺には読めないのだし?とりあえず眺めているだけだ。そういえば今使っているこういう紙って羊皮紙とか言うんだっけ?
そうしてしばらく眺めていると、文を書き終わったのかペンを置いた。すると今インクを入れている、小さく少し深みのある皿みたいなのをもう1つ用意しそこに新しく少量のインクを落とした。
何事かと見ていると、新しく出されたインクの皿をレティさんは手に取って自分の方へ持ってきた。するとどこに持っていたのだろう?針を取り出して左手の人差し指に軽く刺した。
うっ……。指先から血が滲み出てきて溜まり、指先で丸まる。それを見て血の気が引く。彼女はその血をインクに落として混ぜだした。
自分が同じように針を指先に刺してもちょっと痛い、血が出た程度ではなんとも思わないが、他人のはダメだ、背筋がザワザワする。
対面を見るとアラダリさんも自身のインクに同じように血を垂らして混ぜている。
その血を混ぜたインクで先にアラダリさんが、おそらく名を記入している。記入が終わると紙とペンをこちらに向け、レティさんは1回書に目を通してから頷き、続いてアラダリさんの名前であろう下にレティさんが記入を始めた。
記入が終わると2人の名前が一瞬光る。凄い!魔法の契約書的なやつなのこれ!?かなりファンタジーっぽい光景だ!
「(これでとりあえずは終わりだね。遺族側が大人しくお金を受け取れば本当に終わり)」
「え?」
レティさんが俺の理解出来ない言葉で話し掛けてきた。もしかして言語が混線したのかな?
「あぁ、ごめんごめん。一応終わったよ。持ち主の遺族側が文句を言わずにお金を受け取れば良いんだけど」
「(まぁ大丈夫だろうさ、持ち主も死んで馬も死んで荷馬車も行方知れずになったと思えば、金になってしまったが手元に何も残らないよりは良いだろう。割り切って、もらうさ)」
「(うん、うん。割り切ってもらおう)」
うーん、何というかやっぱり俺は異邦人。それも国どころか世界規模での異物だもんな、疎外感を感じる。
日本に来て労働している、なんたら実習生の人達も同じ国の人達で集まってコミュニティを形成していくのってこの感覚の延長なんだな?こんな形で実感する事になるとは。
「(でもまぁ良い買い物だったよ)」
あ、右手を差し出した。
「(こちらも、仲介料として悪くなかった)」
向こうも手を出して握手した。商談成立とかした時にこっちでも握手とかするんだ。
契約書?の紙をくるくると巻いてロール状にして手に持つとレティさんは一度立ち上がって俺達が寝ている方の部屋に歩いていく。
そんな彼女を目で追って、部屋からまた出てくるまでそちらを見続けて視線を固定する。
言葉も通じない面識のない人と二人きりで放置されるのは辛い。
あまり時間を掛けずにレティさんがテーブルまで戻ってきて改めて席に着く。助かった。
「(それでは、この話はここまでとして。…………アンタとそちらの男の関係と男の話を教えてもらっても良いか?)」
「(ここからが本題だからね)」
レティさんが俺の方を向いてちょっとの間見つめてきた。
「(彼は遠い異国の水の精霊と契約を結んだ魔法使い、いや、精霊使いの方が正しいね。それでね、彼は1日に樽5つ分の水を出せるんだよ)」
アラダリさんが俺の方を見てきた。あぁ、なんか驚いているっぽいなぁ。レティさん俺に付いて何か説明とか話でもしてるのか?
「(そして、彼は残念ながら私達が普段使っている言葉が分からないんだ。私は彼の国の言葉で話せるから問題はないよ)」
「(そうか、それは凄いな……。しかし、水を……さっき私の馬に水を与えていたのもその力でか?なるほどな、にわかには信じられないが実際にこの目で見たから、なぁ……)」
「(そして、彼はこの土地にある200年程前に放棄された都市にあった消えた巨大樹について調べる事があるってさ。私はここの地質を調べるつもりだったんだけどそっちの方が面白そうだから共同で調べる事にしたんだ)」
「(今更あんな場所を調べてどうするんだ?あんな何もない場所で調査だなんて死ぬ気か?正気とは思えない)」
「(彼の精霊の力があれば補給を受けなくても長く滞在して調査が出来るよ。問題ないさ)」
俺抜きで話が進んでいっているんだろうな。




