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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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レティーシャの会話を理解出来ない 一

「(やぁ、ここに来る時には世話になったね。アラダリ、今日はどうしたんだい?街の方に用事かな?)」


 荷馬車が俺達の前まで来たのでこちらから声を掛けている。一体どんな感じで話をしているんだろう。


「(いやそうじゃない。実は昨日ギルドの仲間がこっちに向かったんだが、どうにも嫌な予感がして気になって今日来てみたんだ)」


「(そうなのかい?そう言えば昨日この宿場に偶然、御者のいない荷馬車がやってきてね。どうしようもないからここの厩で預かっていたんだけど何かそれと関係あるかい?)」


「(そうか、それは今言った仲間の馬と荷馬車だと思う。確認してもいいか?ついでに私の馬も休ませてやりたいんだが厩を使って構わないか?)」


「(好きにすると良いよ。ここはそもそも公共の休憩所だもの、私に許可や同意を求める必要はないよ?)」


「(それもそうだ。…………所でその、アンタ横にいる見ない顔の男は?)」


「(あぁ、ちょっと色々あってね。後で説明するから今は荷馬車と馬を確認して、自分の馬も休ませてあげないと。私達も手伝うよ。あれ?そう言えば君は独りでここに来たのかい?)」


「(あぁ、もう1人仲間に同行して欲しくて声を掛けたんだが断られた。金にならん事はしないと言い切られたよ)」


「(ハッハッハ、それは商人らしくて良いじゃないか)」


 なんか笑い出したんだけど。何かしら面白い事があったと言うよりは話の流れで、お互い分かった上で演技で笑って見せたっぽいな。


「彼独りで来たんだってさ。厩の馬と引いてきた荷馬車を確認したいって。彼の馬も休ませたいって話なんだけど、手伝ってくれるかい?」


「良いですよ。この日差しの中で馬達も辛かったでしょうね。冷水で身体を洗ってあげたいんですが、良いんでしょうか?」


 やはり会話が通じるのは安心する。しかし、そんな安心している俺の横でちょっと考える素振りを見せる彼女。何だ、何か困らせるような事を言ったか?


「うん、そうだね。アラダリしかいないらしいし、それとなく荷馬車を確認して人が隠れていなかったら馬にそうして上げて。論より証拠、後で説明が楽になるかも」


 実際特に何も出来るわけでもない俺はレティさんの後に続いて進む位しか出来ず、馬を引いたりはアラダリという商人とレティさんがやった。

 昨日から厩にいる2頭とその2頭が引いてきた荷馬車を確認してもらう。


「(間違いないな。これは昨日出立していった仲間の物だ)」


「(そう?それで?持ち主はどこに?)」


「(おそらく来る途中で落馬して運悪く脚を折ったんだろうな。途中でそれらしい遺体の一部と衣服を見つけた、あれがそうだったんだな)」


「(そっか。運がないお仲間だったね、猛禽か夜に魔物にでもやられたのかな)」


 雰囲気でレティさんは淡々と、商人の方は首を振ったり傾げたりしながら会話している。

 俺は何をしようにも会話も何も出来ないので、冷水の入った湯呑みを出して商人が連れてきた馬達の前に2頭同時に飲めそうな桶を持ってきて水を注いぎだした。

 うわ、止めて!湯呑みの方に口を近付けてこないで、待って、お水飲めるから、焦らないで!?


「(この馬と荷馬車は?どうするのさ?誰も連れてきていないなら今日引き取って帰る事は出来ないでしょ?……ん、なんか馬達がさわがしい……?あぁ、水を貰ってたんだね)」


「(…………。)」


「(どうしたの?)」


「(……彼は何をやっているんだ?見間違いじゃなければ、あの小さない器、カップで良いのか?アレから桶に見た目からは信じられない量の水を注いでいたんだ)」


「(あぁ……。知りたいかい?教えるのは良いけど、それは後からだね。この荷馬車と馬は?)」


「(…………そう、だな。まずこちらからか。これは死んだ仲間の資産だが、残された家族がどうするか決める事になるはずだ)」


「(決まるまでしばらくここに置いておけって?飼料や水は?タダでは置いておけないよ?)」


「(そうは言っても、私の一存で決められる事じゃない。ここに置いておく経費は、後でその家族に請求してもらえるか?)」


「(その家族が払うっていう保証は?何だろうね、私の勘だとそのお仲間の家族がまともに必要経費を払う気がしないんだよね)」


 何だろう?商人の方は何となく困っているようにも見える。反対にレティはいつも通りで淡々としている、表情は涼し気だ。実際の気温は暑いが。


「(それは……私も保証が出来る訳では無いが)」


「(でしょう?……ところで、その家族っていうのはこの馬と荷馬車がそんなに必要なのかな?仲間が最後に連れて、使っていた物に遺品としての思い入れはあると思う?)」



「(正直なんとも言えない。おそらくは拘らないと思うが、何れでも私は責任を負えない)」


「(そう?じゃ、ここからは商談だね。馬を1頭金貨2枚、2頭で4枚。荷馬車を……そうだね、ちゃんとこういった荒地を走るのに適した頑丈な造り出し、金貨5枚。計金貨9枚で私が今買い取るよ。どうだい?)」


「(それは!?あー、いや、確かに私個人の見解では悪くない話だが、遺族の了解を得ない代理人でもない私が決める事ではない)」


「(なるほど、決める事ではないが決められない事でもないんだね?この状況で私の足元を見るつもりなのかい?)」


「(そんなつもりは)」


「(今は私達が面倒を見ているからこの馬は資産価値があるよ?でも1日でも水や食料を与えなければ?荷馬車はともかく死んだ馬には価値なんてここではないよ)」


「(それも分かっている、分かってはいるが)」


「(ゆっくり悩むと良いよ。でももう持ち主が分かった以上は善意で2頭の馬の面倒をみる気はない。管理はそっちでお願いするね)」


「(それは困る、もし購入する気があるならばある程度は商談がまとまるまで面倒を見てもらわないと)」


「(私は困らない。買えたらよし、買えなくても困らない程度の商品だよ。どうする?)」


 商人が押し黙ってしまったように見える。何かあったんだろうか?

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