世界は廻る、レティーシャの誤算 十二 終
「そんなこんなで」
自分が使用するベッドに腰を掛けて上を見上げたまま彼女は話の続きを語りだした。
「あの町にはムラタがいた痕跡が色々あって、その内の1つに日本語について学ぶ事ができる手記があるんだ。自分が直接教える事が出来ないから手記に書いて残した。こっちの人間の言葉で読み進めていけるように私が一部書いたりしたよ」
脚を子供のように左右交互にぶらぶらと上下にして、足先で履いているサンダルみたいな履物を引っ掛ける感じで振っている。
「誰でも読めるように図書館って程の大きさじゃないけどそこに置いてあったから。それを読んで日本語を勉強してたって言ってたよ、あっちのモビーと出会ったリルが」
リル、リルって誰だろう?知らない人名がここに来て出てきたな。気になる所ではある、だが先程から俺は彼女に余計な事を言い過ぎている。黙って聞くに徹しておこう。
「リルは時間があれば本を読んでいたらしいんだ。だから読む物が無くなってきてムラタの手記も読み出して、結果、あっちのモビーと世界との橋渡しをしてくれたんだ」
なるほど。リルというのは話題に出ていたドワーフ一家の長女の事だな。ただ、少し気になる点がある。ドワーフの町は今住民達を借金の形で人身売買で連れて行っているはずだ。普段はどうやって生活しているんだ?本を読むような余裕や時間があるのか?
「モビーがここに来る大体300年も前にたった5年だけど日本から来たムラタがいて、彼女の痕跡や関わったドワーフの子孫が同郷の君って人間を助けるんだ。人生っていうか運命は数奇な物だね」
脚を振るのを止め、視線を俺に戻した彼女の表情は穏やかな物になっていた。
「更に、あっちではそれこそ意図せずに今度は君がドワーフ達を町から解放したんだよ?とっても素敵な話じゃない」
「まぁ、それは別の俺がやった事なので。何とも言えないんですが」
苦笑いで応えてあげる位しか実際出来ない話題だ。
「あっちで君達がした事をこっちでも再現していく。でも今回は私がいるからね。あっちで君が知らずに起こした事をこっちでは意図的やるんだ、結果は分かっているはずなのに今日の昼みたいな事も起きているから逆に油断出来ない」
「あの、所でなんですが。あっちにいた時のレティさんは今頃何をしていたんですか?やっぱりこの国の城に居たんですか?」
「そうだよ。今のこの時点から、後3年はモビー達が都市を勝手に占拠している事は誰も知らない。私はお金の計算をユルグに手伝ってもらいながらしていたね。…………何で私達が都市の事に気付いたかって言うと、まぁ?これはまた今度だね。今は明日の話をしようか」
明日の昼間にはアラダリという商人が改めてここへやってくる。その時に俺はどうしていたらいいのか。レティさんはどんな話や交渉をするのか。
まだこの世界に来て1週間も経っていないのに。忙しない事だ、割と俺は何もしていないけど。




