世界は廻る、レティーシャの誤算 十
「そこからはユルグには対して私は好き勝手に可愛がったね」
「そう言いますと何をしたんですか?」
「これ見よがしに良い服を着せて衆目に見せつけるように2人で歩いたし、こっちに邪視を向ける相手には薄く笑って手を振ってあげるだけで目を伏せて去っていくしでね?」
「あんまり趣味は良くないですよ」
「そう?あっちがユルグにしていた事よりは健全でしょ」
「それはそうなんですが」
参った。国の会計士だか財務担当の大臣みたいな事を長年やっている話を聞けるかと思っていたら全然違う方向に話が進んでいく。いや、面白いんだけどね。
「まだあるよ〜。今の国王が直接文句を言ってきた事があってね?あれは面白かったねぇ〜、抗議だか何だか知らないけどぎゃあぎゃあ喚き散らすもんだからさ」
「国王が直接ですか!?」
「そんなに驚く事ような相手でもないよ、何人もの王の退位と即位を見てきたら王なんてただの役職だよ」
これが人の枠組みから飛び出てしまっているエルフの感性か、すごいな。
「で、言ってやったんだ。お前が座っている玉座なんて他の王族や公爵にいつでも、誰にでも簒奪の必要もなく奪わせてやる。200年この国の金の流れを見てきた立場の私は色んな事を知っているんだって。いやー血の気の引いた国王の無様な姿ったらなかったね」
「それ、大丈夫なんですか?」
「これはもう5年も前の話だから、何か、してきていたらとっくにどうにかなっているはずだね」
「…………それはどっちが、ですか?」
「さぁねぇ〜♪」
怖い、怖い人だ。じゃあレティさんは実質この国の最高権力者じゃないのか?違う、もう職は辞しているから過去形か。その座をユルグ王子に譲ってここにいると。つまりそれって。
「レティさんは一方的でも職を放棄してここにいるんですよね?」
「そうだよ。放棄とは心外な、ちゃんと辞めると伝えたし引き継ぎはユルグがするから大丈夫だよ」
「それ、いつの話ですか?まさか数日前とかじゃないですよね?」
「そんな訳ないじゃない。ちゃんと余裕を持って今から30日位前に城を出たよ。ユルグにも前々から伝えてあったし大丈夫だよ」
それ絶対に大丈夫じゃないヤツだ。何リベンジ退職っぽい去り方してるんだこの人。
「王子を信頼しての行動だとは思いますけど、それだと可哀想じゃありませんか?まだレティさんを頼りたかったでしょうに」
「あの子は大丈夫だよ、王の血は本物だ。王位には絶対に縁がないけど」
「でも、それ以上の椅子を譲ってきたんでしょ?」
「うん。最初は軽んじられたと思うけど、今はもう私の代わりを十分にやっているはずさ」
国の中枢で最高権力を握っていた事は分かったし、庇護下に置いていた王子の話も分かった。内容も中々面白かった。
でも、いい加減この話題はもう切り上げよう。放っておくとユルグ王子の話だけを延々と語ってきそうだ。
なんとなく思い至ってしまったが、会社とかで孫自慢をしてくる上司という物に俺自身は遭遇した事はないのだが、こんな状況なのではないだろうか?
「分かりました、話を逸れさせてしまってすみませんでしたが王子の話やわざと放置した帳簿上の誤差の話なんかは、こう言っては誤解もあるでしょうが面白かったです」
「そう?私としてこれからのユルグがどうなっていくかの展望なんかの想定に話もしていきたいんだけど?」
「それはまた次の機会に?ですかね。ほら、ドワーフの町にいたって言う日本人の女性が気になります」
「そう言えばそんな話の途中だったね。私も逸れた話に興が乗っちゃったから忘れかけてたよ」
「いや、それについては俺のせいなので。続けてもらっても良いですか?」
「そうだね、えっと?大体300年前に現れた日本から来た女性は多分モビーの歌舞伎揚とユノミの力みたいなものだと思うんだけど、最初から私達と言葉が通じたんだ」
おぉ?ここに来て漸く、よく見知った異世界転移系の設定みたいな話だ。やっぱ最初から現地人と交流が出来る優位性は大きいんだろうな。
「その女性は結構な高齢でね、見た目こっちの人間の40代前半位なのに実年齢は後数年で60歳っていうんだから驚いたよ」
日本人は実年齢より若く見られることかも多いと聞くし、それ位は驚くような事でもない。どちらかというと60歳手前の人が、という所に驚くな。
「名前は何て言ったかな?確か、えーちょっと待ってね?……ん?……ムルタかムラタのどっちかだね」
「ムルタかムラタ、おそらくムラタが正しいと思います。でも他に何か名乗っていませんでしたか?」
「んぅ〜?名乗ってなかったと思うよ?そっかムラタか」
その女性、村田さんは名前を姓は名乗っても名を名乗ってなかったみたいだな。偶然なのか、意図してそうしたのか。
「ムラタはここに来て最初は戸惑ったらしいんだ、なんか死後の世界だと思ってたらしいね。何とかって病気でもう後は死を待つばかりだって時に、気付いたらドワーフの町にいたんだってさ」
もしかしたら、俺は歌舞伎揚を喉に詰まらせて死んだ時に抽選に当たったか何かでこっちに転移したしいが?ー、村田さんは病死した際に同じそれでこちらに飛ばされたんだろうか?
「でね、とりあえず出会ったドワーフに話をして、町の長に引き合わせてもらって、彼女の人間性が良かったみたいでそのままの流れでその長と家族の世話になったんだってさ。それで何もしない訳にもいかないと日本語やアラ……ビア数字を使った算術を教えていたんだ。何でも元々教師をやっていたらしいね」
「その時にレティさんもムラタさんに出会って日本語と、算術を学んだと?」
「うん。まぁ私があの町に立ち寄ったのは偶然何だけど、何だか面白そうでね。ただ、問題が起きてたんだよ」




