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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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世界は廻る、レティーシャの誤算 四

 あの時にこうしていたら、アレが有ったら、自分だったら。人生でそんな事を考え、過去に思いを馳せる人間の方が多いんじゃないだろうか。

 実際俺もどうだ?自覚はないが今ここにいる俺も望んだ訳では無いが死んでここにいる。あまり大した能力だと思えないが普通ではあり得ない力を持っている。身体まで若返っている。

 現代日本ではないにしろ、苦労もなく人生やり直しの機会を与えられた俺と、どんな方法を使って今に至ってここにいるのか解らないレティさん。少なくとも100年は掛けて苦労してここにいるんだ。

 他の誰かは彼女を責める事が許されるかもしれない、だが、少なからず俺にはそんな事は出来ない、して良い訳がない。


「レティさん、まだ起きていない事を悔やんでも仕方がないですよ」


 俺に声を掛けられたレティさんは背を抜けてしまった。これが拒絶の意でなければいいんだが。


「もう今の時点で、貴女の知っている未来とは流れが違ってしまったんでしょ?ではそれを逆に上手く利用して全然別の結果の未来に繋げたっていいじゃないですか」


 聞いてくれているんだろうか?肩を震わせているが、泣く事に意識が集中してしまって俺の声は届いていないかもしれない。


「それとも何か、こちらでもやらなければいけない事や俺の事とは別件で助けたかった人がいるとかですか?だったらその人の事も上手く立ち回ってどうにか助けたりしましょうよ、ねぇ?」


 反応はない、やはり今は余裕がないんだろう。仕方ない、しばらくはそっとして置いて自分から何かしら動いてもらうのを待つしかないか。

 どうしたものか、そうやって悩んでいたのだがここで遠くから何かが近づいて来ている音がした。

 床に転がしている男がここに近づいて来た時に音が似ている。荷馬車が近付いて来ているという事か?今度は何だ?誰が来るっていうんだ?


「レティさん!これ、この音って何か、誰か近づいてきてますよね?危ないかもしれないです、こっちへ!」


 咄嗟に彼女の左手を取り、寝室へと引き入れる。

 入ってから気付いたが考えが浅かった、こんな逃げ場がない部屋に立て籠もってどうする?相手が何人かも分からない、こちらに優位性はあるか?


「……あの」


 俺の腕の中でレティさんが声を出した。何だか気不味そうだが何だ?何か打開策でも閃いてくれたのか?そうか、魔法か!

 この人は魔法が使えるんだ。どんな物を使用するかは知らないが、ライター程度でも火でも出せれば十分かもしれないじゃないか。


「君が良いなら、良いけど。今は杖を……」


「杖ですね?分かりました!」


 どうやら考えは同じらしい。彼女から離れベッドの横の壁に立て掛けていた杖を取りに数歩進み、彼女の杖を掴んで急いでそれを手渡す。

 杖を握ったレティさんは杖を刀みたいな感じで両手で構えてドアに向かった。


「誰か分からないけど、この部屋のドアを開けられたら目つぶしに強い光を出すから。君は足音がドアの前当たりに来たら伏せて目を瞑って、いいね?」


「分かりました」


 俺は身構える。隣接したホールには既に誰かが侵入した気配がする、足音も聞こえる。おそらく1人か?

 それなりな声で何か言っているようだ。多分転がる男を見て何事かと男にでも聞いているのか?


「(おーい!赤髪エルフー!!無事か!?どこだー!?ここにはいないのかー!?)」


 男性が何か叫んでいる、何だ?俺の仲間をよくもーみたいな事でも叫んでいるのか?

 警戒心を強めた俺に対してレティさんは逆に少し肩に力を抜いたように見えた。


「ん、油断は出来ないけど。もしかしたら敵じゃないかも」


 彼女はそうは言っても警戒の杖を下ろさずにドアに向かって構えているレティさんだった。

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