世界は廻る、レティーシャの誤算 二
「それで、この男はどうします?」
かなり過激な意見だが俺だけでどう罰するかと考えると、人の人生を終わらせようとした事と変わらないんだ、命を持って償ってもらう。
いや、これは罰じゃないな。こんなのは個人感情で法に則った罪人への応報じゃない。
しかし、この国の警察的なものはどうなっているんだろうか?
「商人ギルドに突き出す位かな。自分達の組織で起きた不祥事だからね、他所に介入させずに処理するのさ」
「警察……衛兵とか警備兵って言うんですか?法で裁く前に拘束しておく組織とかには連れて行かないんですか?」
「街で多くの衆人がいる状況で起きた事じゃないからね。まぁ、逆に多くの目撃も証言もあれば場合で罪が疑いようがないならその場で切り捨てられる事もあるけど」
「あの、弁護士とかは?」
「弁護士?弁護人の事かな?ちゃんと裁かれなきゃいけない人って大体は身分の位が高い人だよ。それも公正に裁かれるんじゃなくてどう罪を軽く、問わなくて済むかって方向で話が進むんだ」
それは法治国家なのだろうか?日本、海外問わず歴史物のドラマで見る理不尽な奴だろそれ。
「で、こういった手合いはもし街でなら襲われそうだった本人か守ろうと割って入ってきた人に殺される事も多いね。襲われた側は基本的には無罪だね。身分位が高い人間が犯人だったら、ちょっと面倒になるけど」
割と淡々と話してくれるな。人生の時間が長い分こういう事を見聞きしたり遭遇した事があって手慣れていて、鈍くなっているのか?
今回は自分が標的だったというだけの扱いなのだろうか?
正直、俺はこの男に湯呑みで熱湯を延々と掛けてやろうかとか冷静になるとかなり危険な事を考えていたのだが。
「ただ、ただねぇ〜……。問題はこれじゃないんだよなぁ。うん、うん。これは…………これは私が悪いんだ。私の落ち度だ。」
推し黙ってしまった。
レティさんが悪い?何故だ?何で襲われた女性の側が悪いんだ?あれか魅惑的で欲情を誘った女が悪いとかいう俺には理解出来ない襲おうとした男の肩を持つような発想の奴側で考えているのか?
「何でですか?どう考えてもこの男が悪いでしょう?レティさんが何かを悪く思う事なんてないですよ」
「…………。そうじゃない、そうじゃないんだよ。私は結果、君に助けてもらって無事だったし。そんな事はどうでもいいんだよ」
胡座みたいな感じに座り込み、組んだ脚の真ん中に両手を突っ込んで俯いてしまった。
そんな事?自分が男に襲われかけた事がどうでもいい?それよりも問題がある事とはなんだ?彼女は何をこんなに困っているんだ?
「私が悪い…………そうだ、余計な事をした……何でそれを理解していなかったんだ……理解はしていたのに、何で……舞い上がっていたから?……」
初日の夜、彼女を引き剥がした時にされた悲しそうな表情。その時のそれよりも更に深く沈み悲しそうな、いや悔しそうな表情だ。
「あの、レティさんの事情はよく理解出来ていませんが、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ……最悪だよ」
結構反応が早かった。では心が折られたとかではない、現実問題で悩んでいる、後悔しているからこうなっているんだな。前者よりはマシか。後者なら何をどう彼女が失敗しているかは知らないが、手伝ったり、それでなくても話を聞いて気を紛れさせてあげる程度でも俺に出来る事がある。
「あの、さっきみたいな事が起きて辛かったり、混乱している事も多少あるでしょうが。慰めにもならないですが俺に出来る事なら何でも協力もしますから。何を失敗したとか、そういうのは正直分からないですが、落ち込まないでください」
彼女と対面で座り込み声を掛ける。この励ましで正しいのだろうか?何もしないよりはマシか、何もしない方がマシか。ケースバイケース、分からない。
「…………………………………………何でも?本当に?」
しばらく俯いたままだったが、その状態のまま俺の言葉に反応した。何だろうか、何て言うか、何か怖い。
ゆっくり、ゆっくりと顔を上げ始めた。目が合う。もう演出がホラーのそれみたいだ。
「本当に?本当に何でも?本当だよね?嘘じゃない?」
また四つん這いで近寄ってきた!初めて時のそれよりめっちゃ怖い!超怖い!!目の、瞳の感じがおかしいって!!
怖かった。怖かったが最初の日の夜みたいな事は流石に嫌だったので先手を打って彼女の肩を両手で掴んで押し止めた。
「落ち着いて、一度落ち着いて。協力が出来る事ならですよ?そういう範囲での何でもですからね?」
掴んでいた肩から無理にこっちに近付こうという気配がなくなったので力を緩めると彼女は身を引いてそのままアヒル座りの体勢で座った。その目には先程の狂気っぽい感じは無くなっているように見える。
何だ、何を協力させる気なんだ?例の廃棄都市の不当占拠よりもヤバい事なのか?




