世界は廻る、レティーシャの誤算 一
レティさんの話の商人が来なかった。正確には商人は来たが予想より1日早く、この場所にレティさんを街から連れてきた商人ではない別の男だった。レティさんが連れてくると言っていたドワーフ一家も連れてきてはいなかった。
商人が一家を連れてくる場合は4人という重量と荷馬車を引く馬車の頭数、商人と一家分の水と食料も積み荷として増えるのでどうしても荷馬車の速度は遅くなると。
本来ならその日の早朝に向こうを出発した場合、命掛けで夕方にここまで辿り着く位らしいのだが、昼にその商人とは違う商人が来てしまった。
来た商人が違ったので俺は屋内の寝室で隠れている事となりこの商人が居なくなるまでやり過ごすつもりだった。しかし、そうはいかなくなった。
この商人、ここにレティさんしかいないと知っていて彼女を襲おうと来たのだった。
隣のホールからただならない音や気配を感じて飛び出すと男がレティさんに覆い被さっていた。
俺が飛び出した事で男の注意がこちらに向き、何か叫んでいたが言葉が分からない。その隙にレティさんは抑えられていた両腕を万歳みたいに真っ直ぐ伸ばした。その動作の影響で男は前にのめり込む、そこへ間髪なく右脚を蹴り上げて男の股間に直撃させた。
自業自得だが痛そうだ。同情はしないが、想像するとゾッとする。
男は股間を抑えて汚く呻き続けている。そんな男とレティさんは距離を取り、俺の方へ駆け寄ってきて後ろに隠れた。
悶え苦しむ男を見ていて妙に冷静になってきた俺は恩人に暴行をしようとしたこの男にドス黒い感情が湧いてきた。
「レティさん、大丈夫でしたか?」
「うん、ありがとう。君がいなかったら危なかったよ」
彼女の肩が震えていた。やはり怖いんだろう、当たり前だ。どこの世界でもこういった可能性は潜んでいて、特にこんな感じの世界ではこういった男が多いんだろう。
「縄か紐か、何か縛る物はありませんか!」
俺の声で彼女は何か縛る物を探しに行った。俺はこの男を見張る事にしたが、何かギャーギャー俺を見て騒いできたので近づいてその顔面に足の甲で蹴りを入れてみた。
あまり力を入れず、本気で蹴った訳では無いがやはり顔面は急所の1つだけあって蹴った事でまた大騒ぎをしたのでもう1回蹴りを入れた。静かになった。
「これがあった、これでいいかな?」
何に使っていた物かは分からないが、縄というよりは丈夫そうな紐を彼女は持ってきてくれたのでそれを使って後ろ手で男の両手を縛りあげた。
「(クソがッ!男がいるだなんて聞いてねーぞこのクソアマ!!なんだぁ?こんな所でその男に抱かれてやがったのか!とんだ淫売だッ!!)」
相変わらずこの男が何を言っているかが分からないが、こういう状況であんな険しい顔で喋っている事なんて大体は口汚い罵倒とかそういうもんだろうな。
しかし、そこはそれ。同じ言語を使用する彼女は男の言った言葉で気分を害したのだろう、先程俺がやったように両手を縛られて床で転がる男の顔に蹴りを入れた。未遂とはいえあんな事をしたんだ優しい方だ。
「私また縛る物探してくるから、足も縛ろうか。厩を見てくる」
こんな危険人物だ、両手の自由だけじゃ不安なのは分かる。
「分かりました。俺はこの男を監視してます」
彼女は建物を出ていき、俺は男の監視をする。
一応両手は縛ってあるし大丈夫とは思うが、歩ける分まだ油断は出来ない。この環境下だ、もしここから逃げ出しても移動は徒歩になるだろう。水を持っていたとしても飲めないし暑さで勝手に命を落とす。だがこの建物の屋内に転がしておくとなると危険度は低くはない、足も縛っておいた方が良いな。
しかしなぁ、よくもまぁこんな暑い昼日中に女性を襲うなんて発想が出来るな。一歩間違えなくても屋内で何もしていなくても熱中症でぶっ倒れそうなのに。
自身の欲望に忠実なのか理性が著しく欠如した獣なのか。
「ごめん、待たせたね。厩に縄が結構あったからこれを使おう」
そう言って俺に縄を手渡してきた。俺こういった拘束の為にする縄の縛り方なんて知らないんだが。
縄を俺に渡した彼女はまた男に向き直って近付き、今度はつま先で彼の腹を蹴った。男が痛みに呻く。そして俺は男の足を拘束する。




