砂漠で歌舞伎揚を齧る 十四 終
「出番って……何をさせるつもりなんですか?」
「商人に君の出す水とお菓子を振る舞ってもらうんだよ」
「それで?」
「え、それでって、終わりだけど?」
うーーん……どういう事だぁ?要はおもてなしをしてドワーフ一家を引き取る際の値下げ交渉をしろとかそういう事なのか?何の意味があるんだ?この程度の事で?
「あの……歌舞伎揚、お菓子と水程度で何がどうなるんですか?その商人の人が喜んでドワーフ一家を通常より安く譲ってくれる様にでもなるんですか?」
お互いがお互いに理解出来ないという空気がこの場を支配している。俺に引き剥がされた時から正座みたいな体勢で座っているレティさん。だがしばらくすると、あ、と言いながらパンッと手を一回叩いて立ち上がった。何か納得したようだった。こっちの人もこういった場合こんな動作するんだ。
「そっか、そっかぁ。君にはまだ理解出来ていなかったんだね」
腕組みをしながらふむふむみたいに頷いている。この人は結構こういうアクションをする人のようだ。
「君は自分の持っているその能力の恐ろしさにまだ気付いていないね?もし君のその能力がこの国や商人達に知られたら最悪殺されるんだよ?良くて特別な待遇で色んな女性を充てがわれつつ無限の食糧庫と水源として飼い殺される、悪いと鎖に繋がれて死ぬまで牢獄みたいな所に閉じ込められて終わりだよ」
え、なんだそれ?何だって?この程度の事で?
「そうか、そうだよねぇ……。場所にもよるんだろうけど、君の居た国って水が豊富な森だらけの所だったんでしょ?」
「正直、俺が生まれてから死ぬまで住んでいた地元では、他所の町では水不足だーって話題になっても、水がないって何って感覚で生きてましたね」
「それは羨ましい、この世の楽園だね。ドワーフの町なんて今じゃ金より水の値段の方が高いんだよ。ドワーフと取引している街ですらそこまでじゃないけど高価だよ?それもそんな君の出す綺麗で飲んでも安全な蒸留水みたいな水質じゃない物ですら。君の存在はこの地の経済も流通も、環境すら変えてしまう程の恐ろしさだよ」
なんて事だ。俺は何も分かっていなかった、それだと彼女が自身の女として身体やその後の人生を伴侶として捧げて、今直ぐに抱かれる事でこの力の恩恵を受けるなんて、全然不誠実じゃない。寧ろ、まだしも配慮や俺個人への尊重がある程じゃないか。
「更に君はお菓子まで無限に……まぁ、これはちょっと違うんだよね?でも何の準備もなしに莫大な食料を生み出す歩く食料庫なんだよ。国がどこかに侵攻、派兵、籠城する時にこれほど恐ろしい存在はないよ。分かったかな?君はその存在自体がこの地の欲望の塊なんだ」
そんな。そんな事を聞いたら俺はもう彼女の、レティさんの指示に従っていないと身動きが取れないじゃないか。言葉が通じないなら尚更だ。言葉が通じない異質な人型の道具程度に扱われたって不思議じゃない。
「それを前提にね。君は私の旦那さんになってもらって私が身も心も捧げて守る見返りに助けて貰いたかったんだ。ごめんね、多少強引に抱かれてでも繋がりを強くしたかったんだ。結果酷いことをしそうになったね……」
少し饒舌さが戻ってきていた彼女がここに来てまた肩を落としてしまっていた。
「何でそんな大事な事を先に教えてくれなかったんですか?」
彼女を責めるつもりはない。だが、この事を自覚していたらさっきのような事が起きる前にもっと関係性の良い、この先のお互いの接し方もあったはずだろうに。
「君が理解している物だと思って話を進めてしまっていたから。焦っていたのも事実だったし。……今更だけどさ、君の力の説明をちゃんとした上で私の企みを最初から教えていたら、君は協力してくれた?」
「そうだった場合、ですか。まぁ、正直手伝うしかないと思ったでしょうね。今だって、もう貴女を手伝うというか頼るしかないと思いましたよ。鎖に繋がれて牢に入れられてとかが現実的なら」
「それについては憶測の部分はあるけどほぼそうなるよ。ドワーフが普通に人身売買されているんだよ?君の世界ではどうだったか知らないけど、ここらじゃ誰も気にも止めない程度の有り触れている事さ。君が捕まったらもしかしたら民衆が大喜びするかもしれないよ?水が安くなるとか安易に考えて。そんな事絶対にないのに」
「……そうでしたね、実例はもう教えてもらっていましたね。こうなったら夫婦とか伴侶だなんて間柄よりもっと重い繋がりの共犯者になるって道以外に他がないじゃないですか」
「共犯者だなんて、もっと健全で夢のある関係性の方が良いと思って提案したつもり…………済まなかったよ。また、そんな目で私を見ないで」
さっきの事を蒸し返されて俺は無意識に嫌な顔をしていたんだろう、レティさんは辛そうな表情で顔を背けて謝ってきた。
「こうなったら、もう仕方がないです。真面目に、建設的な話をしましょう。商人に水とお菓子を出して釣ってどうする気ですか?その後があるんでしょう?」
未だに居心地が悪そうな表情だが、割り切ったのかこちらを向いて話をしてくれるようだ。
「それはね…………」




