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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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砂漠で歌舞伎揚を齧る 十二

 淡々と語るレティさん。今は体勢を体育座りみたいにして身体を丸めて床を見つめている。

 彼女は何故この話を俺にした?単にこの辺の地理を歴史も込みで教えてくれただけか?だとしたら何でこんなドワーフの嫌な話まで伝えたんだ?聞いたのは俺だ、だとしてもそもそもその様に誘導されたとしたら?


「ねぇ?今までの話を聞いた上でさ。オネーサン実は企んでいる事があるんだ、聞いてくれるかい?」


「企み、とは?」


「協力してくれるかな?」


「その、それは何に対して、何を目的にした企みなんですか?」


 彼女は俺へ視線を向けてくる、じっと見つめてくるその視線は怖いとは違うがなんだか微妙な気分にさせられる。居心地が悪い、そんなヤツだ。問われている彼女はジッと俺を見ているだけで応えてくれる雰囲気がない。


「俺は、この世界に来てまだ1日も経ってないですし、それに貴女に会ってからの時間もそれと一緒です。物凄く強い訳でも、何か凄い武器を持ってここに来た訳でもないんです」


 彼女はまだ答えてくれない。


「貴女に会えて良かったとは思ってます、恩も感じてはいます。でも、俺は、俺には何も出来ませんよ」


 思わず俯いてしまった。何も出来ない、これは事実だ。

 異世界転生や転移では大体は山を吹き飛ばす様な魔法が使えるとか、最初からその世界の上位種で生まれてくる様な、どんな形でも所謂、無双が出来る物を持っている。それなら俺にだってやってやろうという考えの1つも出てくる。

 しかし、現実はどうだ。自身のカロリー消費を代償にほぼ無限に歌舞伎揚が出てくる能力と水とお茶が無限に出てくるだけの湯呑みだぞ?何が出来る?これで考えつくなんて商売する事しか出てこない。

 商売をしないしにしても、貧困層の人達にバラ撒く慈善活動ごっこが出来る位だ。これなら少しはドワーフ達の町を救う事が出来たかもしれない。でも今はもう意味がない、そんな状況はとっくに過ぎ去っている。

 それに、彼女が普通に話してくれているから忘れそうになったが、こうして自分だけで考えていると思い出す。この世界の言語が俺には分からない。これでは無言で歌舞伎揚を配る事は出来ても商売は出来ない。悪くすると捕まって酷い目に遭わされながら歌舞伎揚を出す事を強要される未来しか見えない。

 俺のこれからのこの世界の行く末はどう考えても真っ暗だ。


「そんな事ないよ」


 基本的に淡々とした口調だが今はそんな事はなく、柔和な優しい口調で彼女は俺に声を掛けてくれた。

 顔を上げて視線を彼女に向けると、彼女は四つん這いになっていてその体勢のまま俺に近づいてきていた。


「(私は誰よりも早く君に会う為にここで待っていたんだ、私が1番にならなきゃ100年を費やした意味がないじゃないか)」


「何を……何ですか?何と言ったんですか?」


 俺の目の前まで来て一度膝立ちの状態になってから彼女は何事かを言う。

 何を言ったんだ?今のがこの世界の言語なんだ、それ位は解る。だが何故俺の前でその言葉を使った?俺に言いたい事はあるが知られたくない、だからか?

 彼女は膝立ちで俺の目を見てから両腕を首に回して抱きついてきた。


「お願いだ、私に力を貸してほしい。君の協力がないと私の企みは始まる事すら出来ないんだ。君は何もしなくても良いんだ、ただ私の側でその力を適度に貸してくれれば良い」


 耳元で彼女が囁いてくる。普通ならこんな綺麗な美少女に抱きつかれれば興奮もするだろうし、嬉しくない男は居ないだろう、だが。


「見返りが必要かい?だったらこんなのはどうかな?私が君の伴侶になって君の寿命を迎えるまでお世話してあげるよ。君が望むんだったら今から身体を許してもいい。ただ私はそういう経験がないから上手く出来なくてもいいかい?」


 限界だった。


「レティさん、少し、良いですか」


「ん、いいよ?どうしたいの?」


 耳元で甘く彼女が囁いてから腕の力を緩め俺の顔を見る為に身体を少し離した。彼女の顔が俺の顔の前に動いたその瞬間に俺は彼女の両肩を掴み、押しやって彼女の事を引き剥がした。


「こういうのは止めましょう。交渉を持ちかける相手には不誠実です」


 俺がこんな反応をする事を想定していなかったのか、彼女は驚いた顔のまま俺を見続けている。


「俺は貴女の企みというのを何も知らない、そちらの交渉材料だけ提示して一方的話を、契約というかを進めて決めないでほしい」


 こんな分かりやすい「女」を使った不誠実な交渉なんて御免だ。それに何よりも俺は。


「レティさん。悪いんですが、俺は男女問わず他人に身体を触られるのが嫌いなんです。貴女も例外じゃない」


 俺の言葉を受けて呆けていた彼女の表情はどんどん悲しみの色を出して今にも泣きだしてしまいそうな顔になってしまった。

 やめろ、やめてくれ。そんな顔をするんじゃない、この件に関して俺は自分の行いを悪いとは思わない。俺が触れられるのが嫌じゃなかったとしても、こんな行動に出た貴女に非があるんだ。

 俺はこの事で罪悪感なんかで首を縦に振ったりはしない。


「っすまない。この事は、確かに私が悪い、不誠実、そう不誠実だった。焦り過ぎてしまったんだ、本当に、すまない」


 彼女は俯いて言葉を途切れさせながら謝罪してきた。

 今思えば、接している間にやたらと距離が近かったりしたのはこの為だったのだろうか?こんな事をされては疑ってしまう。


「先ず、貴女の企みを教えてください。話はそれからです」


「うぇっ!?」


 変な声を出して一気に俺に向き直した。凄い勢いだった。

 見れば目にはいっぱいの涙を溜めていて、今にも泣き出しそうだ。いやもう実際には泣いているのか、涙を流していないだけで。


「本当なのかい!?私を許してくれるんだね!?」


「許すというより、貸し借りなしです。今ので貴女に出会ってからの恩だとかはもう気にしないです。貴女の企みを聞いて碌でもない、そんな事には付き合っていられないと思ったら遠慮なくお断りします」


 結構な事を言ったと思う。しかし、彼女はそれでも涙が溜まっていた瞳のせいなのか、やたらとキラキラした嬉しそうな目で俺を見ている。


「うん、うん!ありがとう!やっぱり君は優しいんだね」


「もう、そういうのは良いですから」


 俺に言われて彼女の表情はまた幾分か曇ったが、同情はしない。


「そうだね、うん。私の企みはね、放棄された都市を不当に占拠して勝手に再興して乗っ取るんだよ」


 ……何を言ってんだ、この人。

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