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歌舞伎揚を齧っているだけだったはずの異世界生活の話  作者: 宮清水 和


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砂漠で歌舞伎揚を齧る 十一

 あれから、レティさんはジャーキーを浸していたお湯に歌舞伎揚を砕いて入れ、しばらくまたかき回してから啜りながら飲んでしまった。

 なんか、なんだろう。凄く、凄く残念な美人の私生活を垣間見るような感覚に襲われた。


「おいしかったですか?」


「うん、凄く!」


「そうですか、それは……良かったです」


 あまりこの話題にはもう触れない、俺はドワーフの町が気になるんだ軌道修正して聞きかないと。


「それで、死活問題からドワーフの町はどうなっていった結果、今みたいな借金だらけの町になったんです?」


「ん?あぁ、そうそう。今に至るまでに経緯の途中だったね」


 よし!喰い付いた!そうだ、それですよ?貴女が振ってきたんです、この話。最後まで聞かせてください。


「その前に、冷たい水を出してもらって良いかい?身体が火照っちゃったよ」


 湯呑みを俺に返してきたので受け取り、10℃位のイメージで水を出してみる。持っている湯呑みが一瞬で水で満たされる、それをレティさんに再度渡す。

 受け取ると喉を鳴らす勢いで飲み出した。


「ふぅ……温かいスープの後に冷たい水、贅沢だねー」


 温めて直ぐに冷やすとか刀か剣か何かか貴女は。なんて言葉も思い浮かんだがそこは俺だって大人だ、言ったりはせず、余裕がある体で話を待とうじゃないか。


「落ち着いたら、続きをお願いします」


「うん、詳しい年代的な流れじゃなくて良いかな?起こった事を順番に話していく感じで」


「それで構いませんので、お願いします」


「そうだね。もう大丈夫だよ、続きだね。えっと、簡単に言っちゃうと水が無くなって色んな物作りが出来なくなったとしても数年はこんな年もある、程度で様子を見てしまうんだ。それが3年が5年、5年が7年と続けばその時点で町に将来性が無いと判断して去っていく人達も出始める」


「鉱物とかは実際まだ採れたんですよね?」


「そんなの全然意味ないよ。言ったじゃない、加工する前の段階での加工に水が必要なんだよ」


「でも、それでも、まだ資源だけでも取引が」


「君ねぇ、そこで加工されて出来た物だから取引が成り立っていたんだよ?」


 レディさんは、ふぅ、と溜息を静かに吐き出して虚空を見る。


「そうだね、まだ加工前の精錬された金塊や銀塊、各鉱物の塊なら取引も無くはないさ。でもさ、金が極少量入っているこの石を山程買ってください、持って行ってくださいなんて誰も取り合わないよ」


「それはそうですけど」


「鉱物だけなら実際今でも採掘すれば出てくるさ、する価値がないからしないんだよ」


 返す言葉がない。何か言っても自分でも予想が出来るような事を彼女の口から再確認するだけになってしまう。


「でもそれがね、町を去るってのが出来なかったんだねー大勢の人達は。引き際を見誤ったんだ。色々と頑張ったけどダメでね。そんな事を50年程も続けてしまった、どんどん個人も町もお金が無くなっていったんだ」


 50年。俺達人間なら人生の半分以上も藻掻いてみたそれは、昔への回帰が、復興が目的だったのだろうか?もし、もしそれが意地になっていただけだとしたら、目も当てられない。


「最初の世代がこの約50年の時代、次の世代と更に次の世代がこの文字通りの負債を背負わされたんだ。今に至るその50から200年の世代はかつての町の繁栄とか活気、誇りなんてものは知らないさ」


「ただただ負債が増えていく。そもそもが別段高利貸しにした借金でもないけど、利息は払えず元金なんてもっと払えずに積もり積もって行く。もう売れる物がない、そうなると今度は技術を売るんだ」


 技術を売る。職人達の集まりだった町から長年継承されてきた知識や独自の製法が流出していく。仕方がない事でも更に町の価値は下がってしまう。

 それが分からないドワーフ達ではなかっただろうが、負債を背負わされた世代はそんな事を言っていられない状態だったのは想像に容易い。

 残されたものは食べて、生きていかなければいけない。


「技術なんて流出しても完全に模倣するにはやっぱり熟練や時間が必要だからね。それはそれでそんなに直ぐに痛手になる訳でもないんだけど……問題はやっぱり職人だったからね全体が。職人に対して想像出来る事って何かな?」


「職人、納得がいくまで技術を突き詰めるとか、他と比べられた際に優れた物を作り出すとか、でしょうか」


「そうだね。そうやって突き詰めて行く中で作っている物に偶に業物なんて呼ばれるとても質の良い武器だとか一品物が出来上がるんだ。それらは流通させずに大事に取っておくんだ、指標になるからね。それですら通常の質の物と大差ない値で取引させられて技術と一緒に持ち出された」


 ジャーキーと歌舞伎揚でスープ作っていた俗っぽい顔が嘘のようだ。今の物憂うレティさんの顔がとても儚げで、そのせいか綺麗に見えた。あまり良い物でもないのは分かるが。


「水がなくなり、人が減り、お金がなくなり、技術が流出して、誇りまでなくなった。いや、誇りはなくなったというより奪われたんだね。それでも町の人達は生きていく、その先に破綻しか待っていなくても。他に身の振りようもない」


「破綻」


「そう。さて、ここまでかな。こんなものだよ」


「今も町にはドワーフが住んでいるんですよね?」


「うん。300人か400人位じゃないかな?町というよりも村、いや密集しているだけで集落の方が近いね」


「その人達はもう産業とかがないのにどうやって今まで、今でも生活しているんですか?もう町を捨ててどこかで新しく生き方を見つけた方が良いじゃないですか」


「お金は硬貨で出来ているけど実は目に見えない鎖なんだ。それで人を縛り付ける道具なんだよ」


「え?……あの、言いたい事や例えは理解しますけど。何でそんな言い方をするんです?」


「まだ最後の資源が残っているからさ、ドワーフっていう」


 俺はこの世界に来てまだ1日も経ってはいない。感覚も現代の、しかも普通に暮らしている日本人の物だ。この世界の有り様に口出しして良いような立場じゃない。

 だが、だが。彼女の口からこれから告げられるであろうこの先の情報はあまりに。心が抉られる、心が痛い。


「人身売買だよ。ドワーフは小柄だけど頑強で器用で力もち、私達程じゃないけど人間よりは長生きだ、労働力として重宝されるよ」


「そんな、物じゃないんですから」


「男性なら過酷な肉体労働か、どこかの趣味の悪い殺し合いの見世物試合で戦う駒。女性なら……あまり口にしたくないね」


 何も言えない。言える訳がない。俺にはそんな資格はない、資格なしにも声を荒げる為に必要な力もない。本当に、何もない。


「そういった資源を提供する事で借金は徐々に減っているさ、食料なんかも提供される。それが何世代に渡って終わるかは分からないけど」

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