皇帝の君臨と不穏な影
リアルが忙しくて久しぶりの更新です!
皇帝暦1895年5月16日。
セイラント中心街、演説広場。
「我が領民たちよ! 本日より、我が息子アクルの進言による『新税制』を導入することが決定した!」
父ドットの大音声が広場に響き渡る。最初は不安げだった領民たちも、「飢える民に分配を、肥える民からは徴収を」という明確な理念が説明されると、一転して地鳴りのような歓声へと変わった。
その日の新聞や情報媒体はすべてこのニュースで埋め尽くされ、紙面は一様に我がセイラント侯爵家への称賛を書き連ねていた。
だが、本当の波乱はその夜に待っていた。
「アクルよ、今宵は盛大な宴を行うぞ。なんと、帝王自らがお見えになる予定だ」
「……皇帝陛下が、直々にですか?」
あまりの急展開に、私は少し呆気にとられた。地方の一改革に、国の最高権力者が自ら動くなど普通はあり得ない。
……なるほど。中央(国都)は、急速に民衆の支持を集め始めた我がセイラント領を「危険視」し始めたということか。
(面白い。ならば、私という存在を皇帝陛下に直接売り込む、最高のチャンスにしてみせよう)
同日夜。セイラント城、来賓の間。
「これはこれは皇帝陛下! よくぞおいでくださいました!」
父上は、私には絶対に見せないような、卑屈なまでに媚びへつらう声で頭を下げていた。
「面を上げよ、セイラント侯爵。……して、ソチの隣にいるのが、今宵の宴の主役というわけだな?」
冷徹で、地を這うような威圧感を孕んだ声。この男こそが、ワイント帝国の絶対君主、ワイント5世だ。その鋭い眼光が、4歳の私を射抜く。
「お初にお目にかかります、皇帝陛下。セイラント・アクルにございます」
私も前世の外交経験を総動員し、完璧な臣下の礼をとる。
「苦しゅうない。その若さで領地の経済を揺り動かすとはな。貴殿のこれからの活躍、実に見ものだ」
皇帝の声音がわずかに和らいだ。だが、その目は笑っていない。
品定めはまだ終わらないと言わばがかりに、皇帝は背後のマントを揺らした。
「さて、私からも紹介したい者がおってな。ほれ、出ておいで」
促されて姿を現したのは、私と同い年ほどの、息を呑むほど可愛らしい少女だった。気品あるドレスを纏いながらも、その瞳には強い意志が宿っている。
「私の娘、第一皇女のサンだ。今宵はソチに会わせたくて連れてまいった」
私と父は、想定外の事態に目を見開いた。
第一皇女をわざわざ連れてきた? これは単なる謁見ではない。「政略結婚」の価値があるかどうか、あるいは「未来の忠臣」にできるかどうかの、極めて高度な政治的駆け引きだ。
「な、なんとも! これ以上の栄誉はございません! 直ちに皇女殿下を歓迎する準備をいたします!」
動転した父は、慌てて使用人たちの方へ駆けていってしまった。
私は冷静さを保ったまま、背後に控えるラントへ鋭い目配せを送る。
(ラント、皇女殿下の好みに合わせた最高級の茶と菓子を、一瞬で用意しろ)
「……かしこまりました」
私の意図を完璧に察したラントは、音もなく気配を消して部屋の奥へと下がっていった。実に有能な私の右腕だ。
「さて、皇帝陛下、サン皇女殿下。不肖このアクルが、我が城内をご案内させていただきます」
私は小さな体に大政治家の魂を宿し、帝国最高峰の権力者たちを迎え入れるための、最初の一歩を踏だすのだった。
なるべく早めに次回更新します!




