新制度の轟雷
皇帝暦1895年1月15日。
私は思索に耽っていた。
我がセイラント領を基盤とし、新たな秩序を創るにはどうすべきか。
前世の歴史が証明した「共産主義」という名の、平等性を盾にした理想の押し付け――あのような凄惨な結末を招くことなく、いかにして民の支持と信心を掌握するか。
同月18日。私は父の執務室の扉を叩いた。
「父上、お話がございます」
「なんだアクルよ。私に叶えられることなら、何でも言ってみなさい」
「父上。我が領土では今、富の一極集中化が顕著になり始めています。商人が肥え太る一方で農民が疲弊する……この歪みは、いずれ大規模な反乱を招くでしょう」
「アクルよ、案ずるな。我が領土には一万を超える精鋭軍がある。農民どもの暴動など、一揉みにしてくれるわ!」
父は豪快に笑ったが、その短絡的な思考こそが危うい。私は冷徹に言葉を継いだ。
「父上、暴力による鎮圧は、さらなる憎しみの連鎖を生むだけです。歴史とは、そうして混乱の渦に飲み込まれていくものなのです」
「信憑性のないことを……。賢き我が息子らしからぬ、机上の空論だな。ハッハッハ!」
「……では父上、その『空論』を現実に変える方法をご提案しましょう」
私は真っ向から父を見据えた。
「軍で鎮圧可能なのは、あくまで一部の暴徒のみ。もし45万の領民すべてが憎しみに突き動かされれば、軍など無力です。農民にも寄り添い、彼らに『この統治は自分たちの味方だ』と思わせる必要があるのです」
「……ほう? では、貴様ならどうする。農民どもにたらふく飯でも食わせてやるのか?」
「いいえ。儲けに応じた公正な負担を求める制度――『累進課税制度』を導入いたします」
父の眉が動いた。私は畳み掛ける。
「商人が1億稼げばその3割を、農民が100万稼げばその3分を。収益の規模に応じて税率を変動させるのです。さらにこれに『農民特別法』を組み合わせます。農業用地の税率を現在の半分以下に引き下げる代わりに、高収益を上げる者からは手厚く徴収する。これで貧困層の不満は消え、領の財政は安定します」
沈黙が流れた。父はしばらく私を凝視していたが、やがて深く息を吐いた。
「……アクルよ。今の発言を撤回しよう。貴様が言っているのは空論ではない、恐るべき統治の術だ。だが、新たな税を課せば、商人の反発は避けられんぞ?」
「ですから、農民を味方につけるのです。数において勝る層を掌握すれば、商人の反発など政治的に封じ込めます」
「なるほど……。アクル、すぐにその案を資料にまとめろ。早急に通達を出す準備をさせる」
父――ドット・セイラント。単なる親馬鹿だと思っていたが、この決断の速さ。政治家としての資質を少しだけ見直す必要があるようだ。
「承知いたしました」
部屋を出た瞬間、私の胸の内は歓喜で満たされた。
ああ、改革だ。私の言葉が、私の知識が、この異世界の理を塗り替え始めた。
「ふふふ……はははは!」
廊下に響く私の笑い声は、幼子の無邪気なそれとは似ても似似つかぬ、冷徹な支配者の響きを帯びていた。




