生誕
第2話です!ぜひ読んでください!
皇帝暦1890年2月30日。
私はワイント帝国セイラント諸侯、セイラント二世の第一子…すなわち、この地を継ぐ長男として産声を上げた。
「ワット! 産まれたのか!? 男の子なんだろうな!」
騒がしい。実になんとも騒々しい男だ。この鼻息の荒い男が、私の父でありセイラント地方を治める領主、セイラント・ドットである。私にとっては、前世の選挙地盤以上に強力な「親の七光り」というわけだ。
「産まれたわ! 男の子よ!」
歓喜の声を上げているのは、母であり正妻のセイラント・ワット。耳に入ってくる会話から察するに、この世界の姓名の順は日本と同じらしい。文化的な共通点があるのは、今後の統治を考える上で悪くない材料だ。
「ああ……ワット! よくぞ繋ぎ止めてくれた! 我が領土の継承もこれで安泰だ!」
「そうねあなた。私もこれで肩の荷が下りたわ」
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
祝福の合唱に、私も精一杯の産声で応える。形の上では赤ん坊だが、中身は数々の修羅場を潜り抜けてきた元国会議員、近松文雄だ。
「この家を継ぐ者にふさわしい名にしよう。偉大なる我が父の名を取って、『アクル』というのはどうだろうか」
「素晴らしいわ! なんて気品のある響きかしら!」
(異議あり、と言いたいところだが……)
「ふげぇ……」
今の私には、自身の命名に対して「一票」を投じる権利すら与えられていないらしい。
「アクルも喜んでいるわ!」
「ああ、そうだな。未来の領主としての自覚があるようだ」
勝手な解釈だが、悪い気はしない。
さらに、父と母は私の「教育」について、すでに過保護なまでの計画を立て始めた。
「乳母はこの地で一番賢い女性を選ぼう。学問の基礎は早いうちから叩き込む」
「ええ。喋れるようになったらすぐに、最高の家庭教師をつけましょうね」
なるほど、教育環境は整っているようだ。
この世界の言語、歴史、法体系、そして貴族社会の力関係……。赤ん坊という「無害な存在」のうちに、この世界の裏側まで全て吸収してやるとしよう。
素晴らしい条件を整えてくれた神とやらに、今この瞬間だけは、政治家らしい社交辞令としての感謝を捧げておこう。
いつもありがとうございます!
次回をお待ちください!




