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リンダ

 マリーとキララが驚き見返ると、散乱する積み木の前に、あの意地悪リンダが顎を少し持ち上げ、人を小馬鹿にするような目つきで立っていた。

 リンダがすぐ近くにいたことに、マリーもキララも気づかなかった。

「会えるわけないのよ!」

 リンダは、ふたりの会話を聞いていたらしく、キララと真逆のことを大声で言い放った。

「どうしちゃったの、リンダ?」

 マリーはおろおろしながら訊ねた。

「会えるわけがないのよ!」

 リンダはおなじ言葉を繰り返し、散乱する積み木をなお蹴り飛ばした。

 キララは怯え切ってマリーにしがみついてきた。

「落ち着いて、リンダ。わたしたちがあなたにいったい何をしたというの?」

 マリーはキララに覆い被さり彼女を守るようにしながら訊いた。

「あんたたちは死ぬまでここで暮らすの。パパにもママにも二度と会えないし、ここから出ることもできない。死ぬまでここに閉じ込められるのよ!」

 リンダは言っているうちにどんどん興奮し自分でも抑えが効かなくなっている感じだった。

 マリーはいよいよ恐ろしくなり、キララと抱き合ってぶるぶると震えた。

「この学園に殺されるのよ!」

 リンダが絶叫した。

 殺される。その言葉だけがマリーの耳にすうっと入ってきた。

「何をしている!」

 そこへ数名の職員が駆けつけてきた。いつもは自分たちの行動を見張っている目障りな彼らも、このときばかりは頼もしく思えた。

 職員たちが暴れるリンダを取り押さえた。

「くだらない夢なんて見ているんじゃないわよ。あんたたちはここで死ぬの。そう決まっているのよ、このうすらバカ!」

 職員に押さえつけられても、リンダの暴走は止まらない。それどころか激しさを増し、さらに口汚く罵る。

「静かにしろ!」

「暴れるな!」

 職員はリンダに負けないくらい大きな声で怒鳴りつけ、彼女を羽交い締めにする。

 けれど、リンダは「離しなさいよ、わたしはこんなところで死にたくはないの! わたしはここを出るの!」と絶叫し続ける。

「こっちに来い!」

「離せ! 離せ!」

「いい加減にしろ!」

「うるさい!」

 リンダはなお抵抗するが、男性三人にかなうはずもなく、やがて抱え上げられ、そのままレクレーションルームから連れ出された。

「下ろせ! 離せ……離せ……」

 リンダの叫び声が次第に遠ざかる。

 嵐のような騒動がおさまると、マリーはゆっくり顔を上げた。

 他の生徒たちはぽかんと口を開けてリンダが連れ去れられたほうを見ている。

 それにつられてマリーもそちらに目を向けた。

 そのとき、ぽんと肩を叩かれた。

 吃驚して振り返ると、クリスが立っていた。

「クリス」

 意図せず大きな声になる。

「大丈夫だったかい? マリー」

 クリスが落ち着いた声で訊ねる。

「ええ、驚きはしたけれど、わたしたちは無事よ」

 クリスの冷静な態度に、マリーも落ち着きを取り戻し答えた。

 クリスもリンダが連れ去られた廊下のほうを見ている。だが、その顔つきは、呆然とする他の生徒たちとは違って、やけに険しい。

「リンダったら、いったいどうしちゃったのかしら?」

 そんなクリスに、マリーは遠慮がちに訊ねた。

 クリスは厳めしい顔つきをさっと緩めた。

「彼女はときどき手がつけられなくなるんだ」

「わたし、彼女を怒らせるようなことをしたのかしら?」

「彼女には色々あるんだ。マリーが気に病むことはないよ」

 クリスが柔らかい声で慰めた。

「あーあ、せっかく作ったお城がバラバラになっちゃった」

 散らかった積み木を見つめながら、キララがしょんぼりと呟いた。

「どうしたんだい、キララ?」

 クリスがかがみ込んで訊ねた。

「リンダがね、ミチルのお城を壊しちゃったの」

「そうだったのか」

「もう少しで完成だったのに」

 キララが悲しそうに言った。

「よし、キララ。気を取り直して、もう一度最初から作ろう。僕も手伝うよ」

 クリスがそう声をかけると、キララはぱっと顔を明るくした。

「本当?」

「うん」

「わたしも手伝うわ、キララ」

 マリーも申し出た。

「ありがとう、マリー、クリス」

 キララが明るい声で言い、三人はミチルのお城作りに取りかかった。

 散らかった積み木を拾い集めながら、マリーの頭の中で、リンダの言葉がリンダの声でよみがえる。

『この学園に殺されるのよ!』

 その声はなかなか消えそうになかった。


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