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クリス

 輝くようなブロンドヘアに、澄んだ青い瞳。すうと通った鼻筋に、口もとには優しい笑みをたたえている。絵に描いたような美しい少年だった。マリーは思わず男の子に見とれてしまった。だが、それは、男の子の美しさだけが理由ではなかった。この少年とどこかで会ったことがある。そんな気がしたのだ。

「立てるかい?」

 男の子が右手を差し伸べた。

 男の子の声にマリーははっと我に返った。

「さあ」

 男の子がもう一度やさしく促し、マリーは黙って男の子の手を握った。柔らかく温かい手だった。

 男の子が腕に力を込め、マリーを立ち上がらせた。男の子の助けを借りると、マリーはすんなり立ち上がることができた。

「ありがとう……」

 マリーは頬を赤らめ言った。

「災難だったね」

 男の子はマリーを慰め、それから、「ちょっと待ってて」と床に散らばった食器類を拾い始めた。

「大丈夫だった、マリー?」とキララも駆け寄ってくる。

「ええ」

 マリーが答えると、キララもしゃがみ込み、片付けを手伝ってくれた。

 ふたりが床の食器を拾い集めてくれているあいだ、マリーはただぼんやりと男の子を見つめていた。

 やがて、食器類をトレイに戻すと、男の子は、はい、とマリーに手渡した。

「ありがとう」

 マリーはもう一度お礼を言って男の子からトレイを受け取った。

 男の子はゆっくり首を振り、「怪我はなかったかい?」と訊ねた。

「ええ。少し驚いたけれど、どこも怪我はしていないわ」

「それはよかった」

「あの子はいったい……?」

 とマリーは女の子のことを訊いてみた。  

「彼女はリンダ」

 男の子は、少女が立ち去ったほうを見ながら、彼女の名前を口にした。

「彼女は、どうしてわたしのことを突き飛ばしたりしたのかしら? 昨日も窓の下からどんぐりを投げつけてきたのよ」

 マリーが言うと、男の子は小さく嘆息した。

「彼女は気難しい子でね。新しく学園に入ってきた子には必ず意地悪をするんだ」

 男の子が教えると、「わたしもやられたのよ」とキララも口を挟んだ。

 キララの言葉を聞いてマリーは俄然腹が立った。自分はともかく、こんなに小さくて可憐なキララにまで意地悪するなんて許せない。

「酷い子ね」

 マリーが憮然として言い返すと、男の子が、「彼女はいろいろ複雑なんだよ」とリンダという少女を庇うように言った。そして、この話は終わりとばかりに、「そうだ」と話題を変えた。

「朝食前の君のスピーチ、とても素晴らしかったよ」

 男の子がマリーをまっすぐ見つめて褒めた。

 マリーは気恥ずかしくなり、

「ありがとう。だけどあのときは勝手に言葉が口をついて出ただけなの。どうしてあんなにすらすら話せたのか自分でもわからないわ」

 と弁解するように言った。

「そうか」

 男の子は興味深そうに頷き、「不思議なことがあるもんだね」と言い加えた。

「自分でも驚いたわ」

「人は追い詰められると、自分が思っている以上の力を出すことがある。きっと、君はピンチなればなるほど力を発揮するタイプなんだね、マリー」

 彼から、マリー、と呼ばれ、マリーは嬉しくなった。残念ながらキララには上手く伝わらなかったが、マリーのスピーチはこの男の子にはきちんと届いていた。

「そうだわ。まだあなたのお名前を聞いていなかったわ」

 そのことを思い出し、マリーは訊ねた。さりげなく訊けたことに彼女は満足した。

「ああ、そうだね。僕のほうは自己紹介をしていなかったね。僕はクリス。一年前にこの学園に来た」

 そう言って、クリスと名乗った男の子は、マリーに手を差し出した。今度は握手をするためだ。

「クリス……」マリーは呟く。どこか懐かしい響きがある。胸の奥に暖かいものが広がるのを感じながら、「よろしく、クリス」と彼の手を握った。

「こちらこそ、よろしく、マリー」

 クリスは微笑んだ。

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