発見
「ふう」とマリーは小さく息を吐いた。
いつものように、朝から彼女なりに学園のことを調べている。
しかし、まだ何も発見できていない。
気になったことと言えば、数日前の授業で出された問題の単語くらいだ。
仲間、お菓子、明かり、高窓、鏡……。
しかし、何かが引っかかるのか。
どうして気になるのか。
それはいまだに何かわからない。
「ねえ、マリー」
隣のキララが声をかけてくる。
「えっ」とマリーは横を向く。
マリーはキララと並んで廊下を歩いていた。
昼食のあと、午後の授業までの自由時間に、ふたりはキララの部屋でモーリスにご飯をあげることにしたのだ。
「モーリスはね、パンの耳が大好物なの」
歩きながら、キララが言った。
「へえ、そうなの」
「ええ。柔らかいところより耳のほうが好きなのよ」
「変わっているのね」
「でしょう。ずっと前、初めてパンをあげたとき、白い部分は残して耳だけ先に食べちゃったのよ」
「モーリスにも好みがあるのね」
「そうよ。モーリスは意外に美食家なのよ」
キララは面白がるようにそう言った。
「それは個性的ね」
マリーは微笑んだ。
青い鳥のモーリス。
モーリスは今も大空を自由に羽ばたいているのだろうか。
学園に囚われている自分たちとは違い、心のおもむくままに世界を飛び回っているのだろうか。
ふとそんなことを思いながら、マリーは窓を見上げる。
そこで、また違和感が立ち現れた。
見上げる。
窓を見上げる。
なぜ窓を見上げたのだろう。
おかしい。何かがおかしい。
「さ、マリー、急ぎましょう。モーリスがお腹を空かせているわ」
そこで、キララがマリーの手を取り駆け出した。
「ちょっと、キララ」
マリーは困ったように声を上げ、キララを追った。
廊下を小走りで進み、階段を上って、二階に出る。
キララの部屋に入ると、彼女は真っ直ぐ窓際に歩み寄り、磨りガラスの窓に手をかけた。
また、だ。
また、そこでも奇妙な感覚に囚われた。
窓を開けようとするキララ。
その後ろ姿を見て、おかしいと感じた。
なぜだろう。
何が気になったのだろう。
自分はずっと、何に引っかかっているのだろう。
この違和感こそ、クリスたちが言っていた『何か』ではないのか?
これこそが、この学園の秘密を解く鍵ではないのか?
マリーは違和感の正体に思いを巡らせながら、キララに近づいた。
そこで、キララが窓を開けた。
風が吹き込んでくる。
その風にキララの肩のあたりで何か揺れた。
黄色い糸くずだ。
マリーはほとんど無意識に、その糸くずに手を伸ばす。
それに気づいたキララが振り返った。
「どうしたの、マリー」
「ほら、これ。肩に糸くずがついていたわ」
マリーはそう言って、摘まみ取った糸くずをキララに見せた。
「あら、恥ずかしいわ」
キララが頬を赤くした。
「おっちょこちょいね、キララ」
マリーは少し意地悪く言った。
「だって、この学園には姿見がないんですもの。困っちゃうわ。この前も、後ろ髪がぴんと跳ねているのに気づかなくて、とても恥ずかしい思いをしたのよ」
キララが不満そうに言った。
その言葉を聞いた瞬間、マリーの頭の中でかちりと鍵が外れるような音がした。
授業中に聞いた単語。
見上げなければならない窓。
磨りガラス。
肩に付いていた糸くずを見つけられなかったキララ。
すべてが繋がった。
ずっと引っかかっていた違和感の正体がわかった。
普通の学校ではあり得ないこと。それが、この学園では起こっている。
おそらくそれは学園の秘密にかかわる重大なことだ。
クリスが言っていた学園の秘密を解く鍵だ。
マリーは糸くずにふっと息を吹きかけて、窓の外へ飛ばした。




