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第129話 変わる国


 ブリック平地、制圧から1日後。

 

 バスタ王城・円卓の間。

 

 重厚な扉が閉じられ、外の音は完全に遮断されていた。

 

 円卓には――

 

 ルドルフ王。

 

 宰相。

 

 軍事大臣。

 

 そして重臣たち。

 

 

 その中央に立つのは――

 

 ルークとミカサ。

 

 

「……追撃を止めた理由は聞いておる」

 

 軍事大臣が低く言う。

 

「だが、納得はしておらぬ」

 

 

 視線が集まる。

 

 

「こちらの兵は動ける。敵軍は崩れているのだ」

 

「今が勝機!捨てる理由がないではないか」

 

 

 当然の意見だった。

 

 

 だが――

 

 

 ルークは淡々と返す。

 

 

「納得してもらう必要はありませんよ」

 

 

 一言。

 

 

 空気が凍る。

 

 

「今回の判断は、すでに結果が出ていますから」

 

 

 それだけ。

 

 

 誰も反論できない。

 

 

 3日で戦を終わらせたという事実が、

 

 すべてを押し潰していた。

 

 

 

「……で、本題はなんだというのだ」

 

 

 宰相が静かに促す。

 

 

 ルークは一歩前に出る。

 

 

「進軍についてです」

 

 

 わずかに空気が張り詰める。

 

 

「現在進行している戦は、そのまま続けてください」

 

 

 意外な言葉。

 

 

「……止めるのではないのか」

 

 

 宰相が問う。

 

 

「止めはしません」

 

 

 即答。

 

 

「途中で止めれば、逆に混乱を招きます」

 

「今動いている戦は、区切りまで進めるべきです」

 

 

 理にかなっている。

 

 

 だが――

 

 

「では何を言いに来たのだ」

 

 

 ルドルフが問う。

 

 

 ルークは王を真っ直ぐ見た。

 

 

「これ以上、新たな戦争を起こさないと約束していただきたいのです」

 

 

 沈黙。

 

 

 重い沈黙。

 

 

「……どういう意味だ」

 

 

 軍事大臣が低く問う。

 

 

「これ以降の侵攻を行わない、ということです」

 

 

「今ある戦は終わらせる必要はあります」

 

「だが、それ以上は広げない」

 

 

 宰相が目を細める。

 

 

「……理由は」

 

 

 ルークは迷わない。

 

 

「広げれば、崩れるからです」

 

 

 一言。

 

 

「今回の戦で証明しました」

 

「戦線は整理すれば勝てます」

 

「ですが――」

 

 

 一拍。

 

 

「広げすぎた戦場は、管理できなくなる」



「この国は四方敵軍になりうる国に囲まれています」



「無駄に広げれば防衛戦も広げなければいけません」

 

 

 宰相が小さく息を吐く。

 

 

「……確かに」

 

 

「これ以上の拡張は、統制を崩す」

 

 

 軍事大臣はまだ納得していない。

 

 

「だが、それでも領土は増える」

 

 

 ルークは首を振る。

 

 

「増えませんよ」

 

 

 即答。

 

 

「増えているのは“土地”であって、“価値”ではない」

 

 

 場が静まる。

 

 

「バスクに奪われた場所からは人が離れ土地は死んでいます」

 

「統治できなければ、維持費だけが残る」

 

 

「ではどうする」

 

 

 ルドルフの問い。

 

 

 ルークは答える。

 

 

「終わらせて、取り込むのです」

 

 

 空気が変わる。

 

 

「奪うのではなく」

 

「従わせるのでもなく」

 

 

「加えるのです」

 

 

 その言葉に――

 

 重臣たちの表情が変わる。

 

 

「……理想論だな」

 

 

 誰かが呟く。

 

 

「理想やないで」

 

 

 ミカサが前に出た。

 

 

「現実や」

 

 

 場が静まる。

 

 

「焼けた土地も、逃げた民も、そのままやったら赤字や」

 

「せやけど守って、回して、繋げたら――資産になる」

 

「国に価値が生まれるからな」

 

 一拍。

 

 

「補償は捨て銭にでもないで」

 

 

「投資や」

 

 

 宰相がわずかに笑う。

 

 

「……面白い」

 

 

 

 ルドルフは黙って聞いていた。

 

 

 視線はルークに向いている。

 

 

(……こいつは、どこまで見えている)

 

 

 そして――

 

 

(もし、この男が敵に回れば)

 

 

 一瞬の想像。

 

 

 3日で戦場を変えた男。

 

 

 その思考が敵側にあれば――

 

 

 背筋に冷たいものが走る。

 

 

 

 だが同時に理解する。

 

 

 この男は――

 

 

 “敵に回してはいけない者”だと。

 

 

 

 ルドルフはゆっくりと口を開く。

 

 

「……いいだろう」

 

 

 静かな声。

 

 

「進行中の戦は完遂する」

 

 

 一拍。

 

 

「それ以上は広げない」

 

 

 さらに続ける。

 

 

「そして新たな侵攻は行わない」

 

 王自らも求めていた

 

 言葉だった。

 

 

 

 場の空気が変わる。

 

 

 軍事大臣も、もう口を挟まない。

 

 

 王の出した答えだこれ以上、覆せない。

 

 

 

 ルークは軽く頭を下げる。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 だがその姿勢は――

 

 

 “頼みに来た者”ではなかった。

 

 

 

 ミカサが小さく笑う。

 

 

(ほんま、やりよるわ)

 

 

 

 その日。

 

 

 バスタ王国は決めた。

 

 

 戦い続ける国ではなく――

 

 

 戦いを増やさない国になると。

 

 

 

 そしてその決断は、

 

 

 静かに、だが確実に――

 

 

 国の形を変え始めていた。

 


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