第130話 戦後のかたち
ブリック平地の戦から、数日。
バスタ王国は、すでに次の段階へ移っていた。
――戦後。
敗戦国領。
焼けた家屋。
崩れた壁。
荒れた畑。
だがそれ以上に目立つのは――
人の少なさだった。
ミカサは街を見渡す。
「……ここ、元からこんな感じやったんやな」
ぽつりと呟く。
側使いが頷く。
「報告通りです。戦前から食糧難。流通も偏りがあり、上層に集中していたと」
つまり――
戦で廃れたのではない。
元から。
「ほな、やることは一つやな」
ミカサは振り返る。
そこには、この地の数名の重臣。
敗戦側の支配者たち。
警戒。
敵意。
そして――焦り。
「まず、はっきりさせとこか」
ミカサは淡々と口を開く。
「この国、もう今まで通りにはいかへんで」
空気が張り詰める。
「……何をするつもりだ」
重臣の一人が低く問う。
「壊すんや」
即答。
「せやけど、全部やない」
一歩、近づく。
「民が死ぬ仕組みだけ壊す」
沈黙。
「食料は配るし医療も回す」
「住む場所も整える」
一拍。
「その代わり――」
視線が鋭くなる。
「上のもんだけ肥えとる仕組みは、終わりや」
重臣たちの顔色が変わる。
「……それは内政への干渉ですぞ」
「せやで」
あっさり返す。
「せやから来とるんや」
言い切る。
「バスタは奪って終わる国やない」
「残して、回して、使う国や」
「では、我々はどうなる」
重臣の声。
震えはない。
だが覚悟がある。
ミカサは一瞬だけ考え――答える。
「安心しい」
一言。
「取って食おうっとは思ってない」
「せやけど協力するんかせえへんか」
「それであんたらの向かう道は変わるやろうけどな」
単純。
だが逃げ道はない。
「民を取るか保身を取るか」
一歩引く。
「せえへんなら――必要ないそれだけのことやねん」
沈黙。
重い。
だが、それでいい。
「……時間をくれ」
我が王へお伝えする。
「ええよ」
即答。
「せやけどな」
ミカサは振り返らずに言う。
「その間も、民は腹減らしとる」
一拍。
「決めるんは早い方がええで」
その場を後にする。
「次」
すぐに切り替える。
「配給の優先順位、修正するで」
「子どもと年寄りは変わらず最優先」
「次に労働できる層」
側使いが書き留める。
「農地の復興に回す」
「用意してきた分だけの種と道具は先に配る」
「状況次第で追加発注」
「ただ配るだけやと終わる」
「農地の管理する者を手配」
「作り方から管理人員の掌握も含め」
迷いがない。
判断が早い。
一方――
別の戦線。
ルークはそこにいた。
「前線作戦AからCへ移行」
短い指示。
それだけで戦場が動く。
敵線ラインを止める。
次々と敵が崩れていく。
そして終わる。
「……また、なのか」
古参の将が呟く。
「死傷者数が少なすぎる」
戦後報告。
数字が並ぶ。
異常だった。
想定の半分以下。
いや――それ以下。
兵士の死は戦争では当たり前、
数でぶつかり死者被害は想定内で進める。
死んで当たり前
「長引くはずの戦も……たった7日間」
別の将が続ける。
「短期で終わっておる」
誰もが気づき始める。
“何かがおかしい”と。
だが、ルークは何も言わない。
ただ戦場を見ている。
兵が生きている。
それでいい。
その頃。
復興の現場では――
人が動き始めていた。
畑に出る者。
瓦礫を片付ける者。
配給を手伝う者。
少しずつ。
だが確実に。
“止まっていた国”が動き出す。
「……一枚岩にはならへんやろな」
ミカサが呟く。
「元々バラバラやし」
一拍。
「せやけど」
前を見る。
「繋ぐことはできる」
奪って広げるのではない。
繋いで、大きくする。
それが――
新しいバスタの形だった。
そして。
その変化はまだ始まったばかりだ。
新たな国の“土台”が、
今、作られ始めていた。




