第128話 変革の証明
ブリック平地。
戦は終わっていた。
風だけが残る。
倒れた武具。
捨てられた盾。
逃げた兵の痕跡。
そして――
立っている兵。
バスタ軍。
誰もが、まだ現実を飲み込めていなかった。
「……終わった、のか?」
誰かが呟く。
「3日で……?」
別の兵が地面を見つめる。
仲間が生きている。
負傷者はいる。
だが――欠けていない。
それが何より信じられなかった。
ラインハルトは、盾を下ろした。
息を吐く。
腕は痺れている。
だが――折れていない。
「……守り切った、か」
初めてだった。
“守ること”だけで戦場が勝ちに繋がったのは。
今までなら、前に出て斬り伏せていた。
無理をして、傷を負って、仲間も削れていた。
だが今回は違う。
止めた。
受けた。
崩させなかった。
それだけで、勝った。
「……なんだよ、これ」
小さく笑う。
セリスは血を払った。
呼吸は軽い。
余裕がある。
「正面、行かなくていいって……こんな楽なんだ」
回る。
斬る。
消える。
それだけで敵が崩れていく。
今までの戦い方が、どれだけ無駄だったのか。
嫌でも分かる。
自分たちのスキルを理解した戦い方が――
証明された。
「……あいつ、最初から分かってたのか」
視線の先。
ルークは動いていない。
ただ、戦場を見ているだけだ。
古参の将は、ゆっくりと立ち上がった。
歩く。
ルークの前まで。
「……一つ聞く」
低い声。
「最初から、こうなると分かっていたのか」
ルークは少しだけ視線を向ける。
「はい」
即答。
将の口元が歪む。
「……化け物め」
だが、その声に敵意はなかった。
「だが認めるぞ」
一歩下がる。
「お前のやり方は正しいみたいだ」
それは降伏ではない。
評価だった。
ルークは何も言わない。
ただ、頷くだけ。
その光景を――
少し離れた場所から見ている影がある。
リーナ。
そしてミカサ。
「……ほんまにやりきったな」
ミカサが呟く。
「うん」
リーナは安堵混じりに答える。
視線はルークから離れない。
「でもあいつ、全然嬉しそうちゃうな」
「そういう人だから」
一拍。
「多分、“人対人”の戦いだから」
「今回はこちらに付いただけで、相手にも守るものがある」
「……やるせないのよ」
ミカサは苦笑する。
「せやな。人殺しを楽しむような人やないし」
「その先のためにやっとるんやしな」
その時。
伝令が駆け込んできた。
「報告!!」
「一時敵軍前進するも――」
「ルワール砦、異常なし!!」
「自軍損耗なし!」
「敵軍損耗甚大により後退!!」
一瞬の静寂。
そして――
ざわめきが広がる。
「……落ちてないだと?」
「兵を抜いたのに……」
「それどころか敵を削った……?」
誰もが理解する。
ルークの判断が、正しかったと。
さらに。
「敵、完全撤退開始!!」
「追撃可能です!!」
興奮した声。
だが――
「追うな」
ルークが即座に告げる。
空気が止まる。
「……なぜだ?」
古参の将が問う。
「今追っても補給が追いつかない」
「数10キロ先に増援も控えている」
「それに――」
一拍。
「これ以上削る必要はない」
静かな声。
だが重い。
「勝ちは確定している」
「無駄な死は出さない」
沈黙。
誰も反論しない。
できない。
その判断一つで、全員が理解する。
この男は――
無駄な戦を望まない。
“勝たせるため”に動いている。
数時間後。
王都へ向けて伝令が走る。
――ブリック平地、陥落。
――損耗、最小。
――作戦成功。
王城。
報告を受けたルドルフは――しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと息を吐く。
「……やりおったか」
口元が歪む。
笑っていた。
「本当に3日で終わらせるとはな」
一拍。
「面白い」
その目は、完全に変わっていた。
興味ではない。
確信。
(……この男は、どこまで行くつもりだ)
未知への警戒。
だが――止める気はない。
「もっと見せてみろ」
誰にも聞こえない声で呟く。
その頃。
戦場では。
ミカサが動き出していた。
「ほな、次はうちの番やな」
倒れた敵ではない。
生き残った者たちを見る。
「このまま放っといたら、また戦になるで」
笑う。
「ちゃんと終わらせよか」
外交の時間だった。
その日。
バスタは、ただ勝っただけではない。
戦い方を変え。
兵の在り方を変え。
そして――
国の進み方を変えた。
だがルークは、まだ言っていない。
本当の目的を。
この勝利が――
厄災へ繋がる一手であることを。




