36、完結
謎の疫病も無事収束すると、王都も元の賑わいを取り戻しており、本日は国を挙げて陛下の誕生祭を繰り広げている。
王都の広場という広場では屋台が立ち並び、珍しい食べ物が所狭しと売られていて、更に諸外国からも多くの商人が訪れ、各国特有の民族衣装などが売られていた。
今年の誕生祭は疫病の収束も重なり、二重の喜びとして他国の教会からも大勢の聖法師が訪れ、無料で怪我や病気の治療を行うなど、誕生祭を教会が後押しする異例の賑わいを見せていた。
昼間は、騎士団と近衛兵による軍事パレードが行われ、パレードの最後には両陛下が参加するなどサプライズもあった。
更に今夜は、諸外国から集まった大勢の使者達を交えての、自由な立食パーティーや大舞踏会などが行われ、陛下の誕生祭を盛り上げる予定だ。
(この前のカローナローラン様の話し、どうやら本当みたいだね)
(信じられないけど、そうみたいだね)
王妃様から特別に招待状を頂いたサリーは、朝から王城に足を運び陛下や王妃、宰相や大臣などの診察を念の為に行なった。
全ての用事を済ませたサリーは、王妃から個室を貸してもらい、夜会のドレスに着替えるべく、側近たちのおもちゃにされていた。
(あのバカ王子、ここまで話をめちゃくちゃにしておいて、別の女性に行くって有り得ないでしょ)
(女好きって知っていましたけど、ただの色ボケ王子でしたね)
(色ボケも色ボケ、酷すぎるでしょ。サリー様は、あんな人と結婚するの…… )
(でも今回は流石に、王妃様も許さないと思いますよ)
(分かりませんよ。王妃様も王子様に負けないぐらいの、超親バカだから)
(本当に、この国大丈夫かしら)
(バカ王子が国王になったら、間違いなく潰れますね)
王族に対する悪口は楽しくて、エルシーと念話で盛り上がってる間も、ドレスや化粧を側近たちが着々と仕上げてくれる。
ただ、ウエストを締め上げる時だけは、サリーも苦痛に顔を歪めていた。
(好きでもない殿下に見せるために、ウエスト締め上げられるのは、本当に苦痛以外の何者でもないわ)
(そう言えば、王妃様がサリー様と殿下のことを、発表すると仰っていませんでしたした?)
(えぇ、第二正室として迎えると仰っていましたわ)
(だとしたら、第一正室も発表するのかしら?)
(えっ、つまりステラローデル嬢も、誕生祭に招かれているって事?)
(それはないでしょう、殿下が招いていても、陛下や王妃様が許さないわ)
(ですよね)
王子がステラローデルを招いてる可能性を考えたが、それは途轍もなく常識外れなことで、流石にそれはないとエルシーは思った。
化粧を整えドレスに着替えたタイミングで、ローレンドール侯爵夫妻がサリーを訪ねてきた。彼女は夫妻と共に、誕生祭の会場に移動する。
今回は陛下の誕生祭という事もあり、前回の第三王子の誕生祭に比べ規模が全然違い、会場には千人以上の人が陛下を祝うために集まっていた。
数々の催し物や舞踏会が披露され、それらが一段落した頃に陛下が挨拶をされた。
後は例年通り、両陛下に身分の上の人から挨拶に伺うだけだ。
暫く待つと、侯爵の順番が回ってきて、サリーは侯爵夫妻と一緒に両陛下のもとに向かう。
「国王陛下と王妃陛下につきましては、ご機嫌麗しゅう存じます。此度は国王陛下の御誕生祭にお招きいただき誠に有り難く存じます………… 」
型にはまったような長々とした挨拶を、父であるローレンドール侯爵が代表で行い、その間サリーは後ろの方で傅いている。
「サリーローレンス嬢、此方に来てくれないか」
侯爵の挨拶が終わると、突然陛下がサリーを呼びつけ、サリーは失礼のないように、一定の距離を保ちながら陛下に近寄る。
「サリーローレンス嬢、此度の其方の聖女としての働き、見事であった。今後も国のために…… 」
陛下は長々と、サリーを褒め称える言葉を並べていた。
やがて陛下の言葉も終わり、サリーが恭しく祝辞を述べようとしたとき、デジャヴュが起きた。
「陛下、お話があります」
ランドブル第一王子が、乱入してきたのだ。
「行き成り現れて失礼だぞ、ランドブル」
「申し訳御座いません。ですが、この場で申し上げたいことがございます。わたくしランドブルは、ローレシア帝国の姫君、ステラローデル嬢を正室に迎えたいと存じます」
そう話す王子の後ろには、全身が真っ白で長い髪を持つ絶世の美女が立っていた。
「同じ事を二度までも。ーーーランドブル、無礼だぞ。黙って、この場から下がれ!」
「いえ、下がりません。もし、認めて頂けないなら、わたくしは王位継承権を放棄し、彼女と共にローレシア帝国に移住します」
その場にいた誰もが驚き、開いた口が塞がらない状況でも、場の空気を読まない王子は、爽やかな笑顔を振りまいていた。
暫しの静寂の後、一人、また一人と、貴族達が騒ぎ始める。
「ふざけるな! 王位継承権を破棄するなら、この国から出ていけ」
「王子と言えでも、これは聞き捨てならない」
「今回は、流石に許すことはできない!」
「聖女様を蔑ろにするなら、教会は今後一切協力せんぞ」
「とっとと出て行け!」
一人が大声で講義したのを皮切りに、誰もが堰を切ったように不満をぶちまける。やがて会場中の貴族全員が、王子と両陛下に不満を言い始め収集が付かなくなっていく。
怒りに我を抑えることのできなくなった貴族達が、ジリジリと両陛下と王子に詰め寄り返答を求める。
「陛下、このような王子の振る舞いを、なんとする」
「まさか、このまま聖女様を蔑ろにして、そこの女を正室にでもするつもりですか?」
「バカども、この方は、ローレシア帝国姫君だぞ、正室にすることが当たり前だろ」
「バカ王子は黙っていろ! 俺達は陛下に話があるのだ!」
「バカ王子だと!」
「ころころ女を変える王子を、バカ王子と言って何が悪い」
「そうだ、バカ王子は黙ってろ」
「聖女様を何だと思っている。お前などバカ王子で十分だ」
「お前こそ、聖女様に対して失礼極まりない。今すぐ王位継承権を破棄して、とっと出ていけ!」
火に油を注ぐとは良く言ったもので、王子の言葉に貴族達は余計に怒りを爆発させる。
流石に場の空気を読まない王子にも、貴族達の反発が本物だと思うと何も言えなくなっていく。
「陛下、ハッキリと申してもらおう。返答次第では、どうなるか分かって居られますよね」
「聖女様を前にして、このような狼藉、いくら王子といえども許せるものでは御座いません」
「この際、誰もが納得する答えを出さなければ、この国は終わりですぞ」
「陛下、王子の無礼な態度に、どう責任を取るおつもりか、ハッキリと申してください」
「聖女様は、王族も含め我ら貴族全員の命の恩人、いや、この国の救世主とも言える。その聖女様に対する無礼は王族と言えど、許せることではない」
「「「「そうだ、そうだ!」」」」
完全に収集のつかなくなった会場は、今にも革命が起こりそうな雰囲気だった。
「わ、分かった。第一王子は廃嫡とする」
「陛下、それは幾ら何でも、ランドブルが可哀想すぎます」
「黙れ、王妃がいくら息子を庇っても、これは決定事項だ」
「そ、そんな…… 」
王妃が悲しそうな表情で陛下に縋っても時すでに遅く、この状況で国王に王子を擁護することはできなかった。
「国王として、皆に宣言する、第一王子、ランドブルは廃嫡とし、政治の世界からは完全に追放することとする」
陛下の宣言に、騒然としていた会場が湧き上がり、王子は側近に連れられて行った。
ただ、騒ぎのもう一人の主であるステラローデルは、いつの間にか忽然と消えていた。
王子の乱入で誕生祭どころではなくなったため、自然とお開きの流れになっていき、サリー達も帰宅することにした。
その夜遅く、公爵邸の人気のない裏庭に、二人の女声の話し声が聞こえていた。
「『九尾の狐』よ、長い間、ご苦労様でした」
「いえ、全ては土御門様のためならば、いか用にも使ってくださりませ」
「ありがとう。それにしても、見事な手腕でしたね」
「ありがとう存じます。あの者は扱いやすくて、楽しめました」
「完全に惚れさせましたね」
「えぇ、勿論です。故に、あの者の行動は、全てわたくしの手の平の上でした。ーーーあの場で王位継承権を切り札に使ったら、絶対に上手くいきますと言うわたくしの言葉を信じ、本当に実行した時は笑いが止まりませんでした」
「流石、九尾の狐ですね、ーーーその姿だと、窮屈ではないのですか?」
「慣れていますが、そうですね」
一瞬空気が歪み、蜃気楼のようにぼやけたかと思ったら、全身真っ白な絶世の美女は消え去り、代わりに尾が九つに分かれた巨大な狐が現れた。
「人の姿も美しいけど、やはり、そちらのほうが綺麗ですね」
「左様ですか。ありがとう存じます」
「『九尾の狐』よ、今回は凄く助かりました。また、お願いしますね」
「はい」
九尾の狐は、優しそうに笑ってみせると、次の瞬間には消えていた。
(サリー様、今のは、ステラローデル嬢だったのでは…… )
(いいえ、彼女はわたくしの式神である、九尾の狐です。うふふふ)
(それでは、最初から王子を嵌めるために、仕掛けていたのですか?)
(そうですね、わたくしも殿下との結婚は、お断りでしたから)
笑顔を見せるサリーに、エルシーも自然と笑顔になるが、気になることを思い出し、サリーに聞いてみる。
(サリー様、もしかしてですけど、疫病も…… )
(さぁ、想像に任せます。うふふふ)
そう言ってサリーは、笑うだけだった。
笑顔になったエルシーだったが、疫病もサリーの仕業だと考えたら急に彼女が恐ろしく思える。
だが、やはりエルシーはサリーの婚約が破棄され、心の底から喜んだ。
それから数日が経ち、第一王子の王位継承権の破棄が正式に発表され、同時に王太子として第二王子のアルフレード・カリーム・オーウェンの名が挙がった。
第三王子のアルフレード・サルラーン・フランシスクは、正式にカルトベール公爵家への婿入りが決まり、その事をマリーが嬉しそうに話していた。
サリーは、後数ヶ月で貴族学院を卒業となっていたが、今回の事で王都での生活は辛すぎるだろうと、卒業は前倒しとなって今は侯爵領で生活をしている。
卒業の前倒しには、マリーの父であるカルトベール公爵が、随分と力添えをなさったようだ。
サリーが侯爵領で生活を始めると、なぜかジルが侯爵領の侯爵邸を訪れ、サリーの側近として働き始めた。
そして第一王子のアルフレード・サルラーン・ランドブルは、離宮での生活を余儀なくされ、自発的に離宮に入った王妃と共に生活をしている。
不思議な事に、サリーが侯爵領での新しい生活を始めた頃に、なぜかランドブルが疫病にかかってしまった。
唯一治療のできるサリーが王都にいないため、ランドブルの苦しみは当分続きそうだ。
そして、
「ちょっとエルシー、貴女、最近サリー様を独占しすぎです」
「違いますわよね、サリー様?」
「えっ、わたくしに言われても…… 」
「兎に角、今日は、わ、た、く、しがサリー様の相手をしますので、エルシーは図書室で本でも読んでいてください」
「それなら、サリー様、一緒に図書室に行きませんこと?」
「それも、いいですね。行きましょうか?」
「あぁ、もう! なんでそうなるのよ!」
「あら、勿論、ジルも一緒に行くのでしょ?」
「サリー様が、そういうなら、行きますけど…… 」
「さぁ、みんなで行きましょうか?」
「「はーい!」」
「サリー様、お荷物はわたくしが持ちます」
「ありがとう、ジル」
「サリー様、向こうの…… 」
こうして侯爵邸では毎日、三人の騒々しい声と笑い声が、屋敷中に響いていたとさ。
おしまい。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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