34、王妃の治療。
大きくて豪華な扉の前まで来ると、王妃の側近がサリーを引き止める。不思議に思うサリーを待たせて、側近は静かにドアに近寄り耳を傾けて様子を確かめてるようだ。
静かにすると、確かに部屋の中からは王妃と、誰かの揉める声が聞こえる。サリーは少し喜んでしまった。
暫く様子を見てた側近だったが、意を決したようにノックをする。部屋から王妃の声が聞こえてきて、側近はドアを開けるとサリーを案内した。
扉を潜ると目の前には大きな窓があり、やはり青空が見えていた。だが、美しい青空とは裏腹に、扉を開けた瞬間から腐臭と香水のきつい匂いが混ざった、強烈な悪臭に気が遠くなりそうになる。
そして意外な人物、ランドブル第二王子が天蓋付きのベッドに座っていた。
王子は疫病には感染してないらしく以前と同じ様子だが、サリーの顔を見ると露骨に嫌がった。
(なに、あのバカ王子。こっちが願い下げだと言ってるんです。ねぇ、サリー様)
(まぁまぁ、気にしたらダメです。これも侯爵領のためです)
(サリー様は、本当に人間ができています。わたくしだったら、この場で泣いて逃げています)
(そういう事に、しましょうか)
王子がベッドから立ち上がりベランダのほうに歩きだすと、側近の方がサリーをベッドに案内する。
サリーは、ベッドに近寄り王妃の様子を確認する。王妃は、国王と同じく全身の肌は赤黒く爛れ、至る所に腫瘍ができており、やはりそれらが破けて強烈な匂いと、黄色い膿が垂れていた。
「御無沙汰しております、王妃陛下。ローレンドール・ガーランド・ロンメイソン侯爵が娘、ローレンドール・ガーランド・サリーローレンスになります。本日は、聖女として王妃様の治療に参りました。宜しくお願い申し上げます」
「お久しぶりです、サリーローレンス嬢。こんな見苦しい格好を見せてごめんなさい」
やはり他人に自身の姿を見せるのは辛いらしく、話している間中もずっと王妃は顔を背けていた。
「いえ、気にしないでください。わたくしが、すぐにでも元の綺麗なお姿に戻して見せます」
「えぇ、貴女の力を信じます」
「それでは、治療を開始しますので、暫く目を瞑っていてください」
王妃は言われた通り静かに目を瞑り、サリーは王妃が目を瞑ったのを確認してから、王妃の胸の辺りに右手を添えて呟いた。
『完全回復』
国王のときと同じく、黄金の輝きが王妃の体を優しく包み込むと、瞬く間に王妃の体は以前と同じく、いや、病気にかかる前よりも肌の艶が良くなっていく。
サリーの完璧なまでの治療に、王妃は目を大きく開きながら嬉しそうにしている。王妃への治療は、完全に成功したようだ。
「ふ~ん、魔法だけは、上手く使えるんだね」
突然の場の空気を読まない声に、サリーも王妃も側近の方々も声のする方に目を向ける。そこには実の母親の病気が治ったというのに喜ぶわけでもなく、つまらなさそうにしている王子の姿があった。
「なんてこと言うの、この子は。ごめんなさいね、サリーローレンス」
「いえ、滅相も御座いません」
「本当のことではないか、彼女は魔法だけが取り柄なのだから」
「貴方は、静かにしなさい。こんな子だけど、よろしくね」
「は、はい」
とんでもなく失礼な王子に対しても王妃の態度に変化はなく、只々サリーに王子を勧めるだけの王妃で、サリーの事など歯牙にもかけない様子だった。
(こんなのが母親になったら、わたくし生きていけないかも…… )
(アハハハハ、わたくしもそう思います)
「よろしくではないです。わたくしは、絶対嫌だからな」
「黙りなさい、貴方は彼女を第二正室に迎えるのよ」
「なんだよ、第二正室って。結局側室だろ、それって!」
場の空気を読まない王子の言動に、形だけでも整えた第二正室と言う言葉の価値が弾け飛んだ。
場の誰もが言葉をなくし凍りついているなか、王子一人がヘラヘラしている。
(なに、なんなの、なんなのよ! このバカ王子。死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、しねぇぇえええー!)
エルシーの怒りを抑えられない念話に、サリーは笑いが込み上げてくる。最近のエルシーは感情を剥き出しで話してくるので、サリーは楽しくてしかたなかった。
(もう、分かったから。それ以上怒ったら、ハゲますよ)
(ハゲません! わたくしは幽霊ですから、大丈夫です)
(そうでしたね。うふふふふ)
誰もが凍りついた部屋の中で、サリーとエルシーは楽しく会話をしていた。
「ランドブル、貴方何言ってるのですか、わたくしや陛下のお気持ちも分からず、いい加減にしなさい」
「だって、本当のことではないですか。それにわたくしはステラ………… 」
「黙りなさい! それ以上喋ったら許しませんよ!」
行き成りの王妃の大声に、王子も默まってしまった。ただ、王子が何かを言おうとして、その事が王妃の怒りを買ってしまったことは一目瞭然だ。
「ごめんなさいね、サリーローレンス。大きな声を出してしまい」
「いえ…… 」
「こんな子ですけど、根は優しいくて良い子なのです」
「は、はぁ…… 」
「貴女のような方が、この子を支えてくれたら、この子は絶対に幸せになりますから、よろしくね」
(サリー様の幸せは無いのかよ!)
場を賢明に繕う王妃に対し、見事なタイミングで突っ込むエルシーに、再びサリーは笑いが込み上げるが、笑うわけにはいかない。
サリーは、サリーで、必死に笑わないように努力していた。
「そうだ、思い出したわ。今度、陛下の誕生祭があるの、貴女にも是非来ていただきたいわ」
「えぇ、勿論です。お誘いいただき、ありがとう存じます」
「そうだ、その時、正式に第二正室として、発表しましょう。いつまでもこのままでは、いけませんからね」
「そ、そうですね。お願いします」
「だから、それ………… 」
「貴方は、默まっていなさい。分かりましたね」
流石に今回は王妃も許せないらしく、王子を睨みつけながら怒りを滲ませていた。やがて居た堪れない空気が流れ、王子は部屋を後にする。
サリーも王子が部屋を出た少し後に、苦笑しながら部屋を出た。




