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33、陛下の治療。

 馬車は王城に着き、サリーとローレンドール侯爵は、陛下の寝室にすぐに案内された。入り口の扉は大きく豪華な作りで、部屋に入ると大きな窓の向こうから青空が飛び込んできて、まるで天空に住まう、神にでもなった気分になる。


 陛下の寝室は大きな机が一つと、キングサイズの二倍以上の天蓋付きのベッドが置いてあり、机の後ろの壁は本棚で本が沢山並んでいる。


 誰もが憧れる寝室だと思うが、実際は疫病により悪臭が漂っていて、鼻をつままずには苦痛に感じるほどだ。


 悪臭の発生源であるベッドでは陛下が休まれていて、近寄るのも(はばか)られるほどの匂いだが、近寄らないわけにはいかない。サリーは意を決してベッドに近寄り、陛下の様子を窺った。


 陛下は暑いのか、爛れた皮膚が擦れて痛いのか、布団は被らず薄い布を下半身に掛けているだけだった。彼の身体は至る所の皮膚が赤黒く爛れ、一部の腫瘍は破れ膿が飛びだし、豪華なベッドのシーツを黄色く汚していた。


「御無沙汰しております、国王陛下。ローレンドール・ガーランド・ロンメイソン侯爵が娘、ローレンドール・ガーランド・サリーローレンスになります。本日は、聖女として陛下の治療に参りました。宜しくお願い申し上げます」

「サリーローレンス嬢か、こんな姿を見せて悪いが、身体が痒くて痛くて堪らんのだ。他の聖法師にも何度も見てもらったが、治る気配が毛頭ない。頼む、早く治してくれ」


 陛下が喋る度に顔からは黄色い膿が噴き出し、側近の女性が何度も顔を拭いている。見るからに悲惨な状態だ。


「畏まりました。早速、聖魔法を使わせていただきます」

「頼む」

(こんなやつ、治さなくても良いのに。どうして治すの?)

(仕方ないでしょ、父のためにも侯爵領のためにも、治さないわけにはいかないのよ。貴女も、生前貴族なのだから、分かるでしょ)

(わ、分かりますけど、納得はできません)


 サリーは、エルシーの気持ちも分かるが、やはり貴族として、侯爵令嬢として、侯爵領の民を守らなければならない立場として、どうしても陛下を治さなければならない。


 例え、サリーの立場が変わらない状況だとしてもだ。


「失礼します陛下、少しの間目を瞑ってください」


 サリーは、陛下の胸に手を当て呟く。


完全回復(パーフェクトリカバリ)


 聖魔法による黄金の輝きが、陛下の体を優しく包み込むと、赤黒く爛れた肌が瞬く間に元の健康体に戻っていく。まるで、時間を巻き戻してるかのような聖女による奇跡の光景に、側近達も驚きに息を呑み、陛下自身も両手の平を見つめながら「凄い」と一言、感嘆の言葉が溢れる。


「陛下、聖魔法による治療は以上にて終了となります。後は体に良い食べ物を食べ、十分な睡眠を取るように心掛けください」

「こ、これが、聖女の奇跡か…… 」

「奇跡ではなく、ただの聖魔法で御座います」

「謙遜しなくとも良い。これを聖女の奇跡と呼ばずして、何を奇跡と呼べば良いのか。サリーローレンス嬢がこの国に生まれてくれた。ただそれだけで我々は幸せな事だと思わなければならない」

「ありがとう存じます」


 サリーは、淑女らしくスカートの両端を摘み、軽く身体を沈めお礼を述べた。


「サリーローレンス嬢、私は今でもランドブルの正室には其方をと思っておる。だが、次期国王となるランドブルの言葉を、無下にもできない。側室じゃなく第二正室と命名して、其方を迎えたいと思う。どうか、分かってほしい」

「陛下の思うがままに…… 」

「礼を言う」


 陛下の治療を終え寝室を後にすると、次は王妃様の寝室に向かうが、その足取りは重い。陛下から第二正室と言う側室を、ハッキリと言い渡されたからで、王妃様にも似たような事を言い渡されると思うと面倒だった。


(何が、第二正室よ! 側室とどこが違うって言うのよ! あの国王、バカじゃない。まったく、サリー様も頭がハゲる呪いでもかけたら良いのよ)


 不敬罪が無縁となったエルシーは言いたい放題で、遂に陛下をバカ呼ばわりしている。エルシーの念話に思わず笑いが込み上げるが、周囲には王妃様の側近のもいるので、不謹慎極まりなく必死に我慢する。


(頭がハゲる呪いね。想像しただけどで楽しいわね)

(かけちゃえ、かけちゃえ。頭の天辺に一本だけ残して、それ以外はハゲる呪いってないの?)

(一本だけって、うふふふふふ。ダメ笑ちゃう)


 常におでんを持った、チ◯太みたいに頭の天辺に一本だけがツボだったらしく、サリーは必死に笑いをこらえる。ここは王城で、周囲は疫病で苦しむ人ばかり、流石に笑うことはできない。


(前歯を三本だけ残して、後は抜け落ちる呪いとかは?)

(後は、全部ないの? 噛めないでしょ。うふふふふふ)


 雪の◯王と一緒に暮らしてそえなオ◯フみたいに前歯が残る事が、やはりツボらしくサリーは必死に笑いを堪える。


(どっちでも良いから、バカ国王に呪いをかけてよ、わたくしが許す)

(だから、それは人としてダメですよ)

(わたくし、幽霊ですから)

(開き直った。うふふふ)


 エルシーと話してたら、すっかり楽しい気分になったサリーは、足取りも軽く王妃の寝室に向かった。


 王妃の寝室は陛下の寝室より少し離れていて、両陛下が本当に中が良いのかと、つい疑うほどの距離があった。もしかしたら、本当は仲が悪いのかもと考えると、更に足取りが軽くなった。


 人の不幸は蜜の味、サリーはそんな気分で王妃の寝室に向かった。まさか、そこに第一王子がいるとも知らずに。





 最初に、沢山の方に読んで頂きありがとう御座います。

 勝手ながら、聖女転生は、36話をもって完結とさせて頂きます。

 後僅かで完結ですが、きっちり書き上げたつもりですので、最後まで読んでいたけたら嬉しく思います。


 この作品を愛してくださった皆様には、感謝しか御座いません。

 本当にありがとう御座いました。

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