26、親子
★ ★ ★ 王妃の間
王城の謁見の間の次に豪華な部屋は、アルフレード王国では王妃の間となる。各国や貴族、豪族、大商会などからの貢物は最初に王妃が目を通し、王妃の間に飾られる。
国の最高権力者は国王に間違いないが、国王も一人の人間であり愛した女性には頭が上がらない。故に、影の最高権力者は、アルフレード・サルラーン・ソールソフィア王妃となる。
暗黙の事実とは上手く言ったもので、彼女もまた公然と影の支配者として君臨する、絶対的な権力者だ。
「母上、お話があってきました」
「あら、良く来ましたわね、ランドブル」
影の支配者も二男二女の親であり、平民の親と何ら変わりはなく、実の我が子には愛情を惜しまない。特に長子であるランドブルには惜しみない愛情を注ぎ、彼女の半身と思えるほどの寵愛を受けていた。
「それで、母上」
「まぁまぁ、まずは、お座りになったらいかがですか?」
早々に話を終えたい息子の思いとは裏腹に、久しぶりの我が子を留めておきたい王妃は、席を勧め側近にお茶の準備をさせる。
季節の景観を味わえる窓際のテーブルに、息子の腕を取ると自らの腕を絡ませ、微笑みながら案内する。息子に席を勧め、自らは反対側に座り、愛しそうに我が子の顔を見つめる王妃の顔は、優しさに溢れていた。
「それで、母上」
「なにかしら?」
「わたくしは、本気でカローナローレン嬢と結婚したいのです」
「また、その話ね」
親とは不思議なもので、自身が認めた相手なら喜んで送り出すが、息子が選んだ相手は簡単には納得できない。勝手な嫉妬だと分かっていても、愛情をかけて育てた息子が、別の女に愛情をかけるのは、存外淋しいものだ。
愛する我が子が己以外の誰かを愛することは、恋人に裏切られる行為に等しいのかもしれない。特に王妃の場合はそうだった。
「どうして、分かってくださらないのですか?」
「貴女には、サリーローレンス嬢がいるではないですか」
「わたくしは、政略結婚は致しかねます」
「貴方は、次期国王となられる第一王子なのですよ。その重さがお分かりにならないのですか?」
「母上こそ、どうして分かってくださらないのですか」
前回と同じように親子の会話は平行線を辿り、解決の糸口は見つからない。お互いの思いの丈が強ければ強いほど、その距離は簡単には縮まらない。
「ランドブル。陛下は、何と仰ってるのですか?」
「それは、ーーー諦めろと」
「陛下の言う通りにしなさい」
「それが、諦められないから、母上にお願いしてるのです」
「お願いする順番を、間違えているのです。どうして、前もって話してくれないのですか?」
「あの時は、あれが一番良い判断だと思ったからだ」
フランシスク第三王子の誕生祭での出来事を、一番良い判断だと言ってのける息子に呆れる王妃だが、残念な事に親とはバカな子供ほど可愛いものだ。
賢い子供は問題を起こさないが、バカな子供は問題を起こして親を頼る。親が頼ってくる子供が可愛くて仕方ないのは、頼ってもらえるという承認欲求を満たしてくれるからで、正に栄養剤か、もしくは麻薬みたいなものだ。
それ故、息子のためと言いながら、本当は自分のために馬鹿な息子を可愛がる。
王妃も同じで、承認欲求を満たしてくれる王子の力になりたいと思ってしまう。後は、裏切られた気持ちと、承認欲求のどちらが勝つかだが、頼られると裏切られた気持ちは薄らいでしまう。
「カローナローレン嬢のことが、そんなに好きなのですか?」
「好きです。ですから、父上を説得してください」
「それなら、側室にしなさい」
「側室は、彼女が嫌だと言うのです」
アルフレード王国は貴族以上の爵位持ちには、一夫多妻制が認められており現国王も二人の側室がいる。王族や貴族は子孫を残す義務があるからと、率先して側室を作る者も多い。
「正室を求めているのですか?」
「だから、あの場で話したのです。本気の気持ちを、知ってほしかったのです」
「本気、本気と言いますけど…… 」
「本気だよ、王位継承権も放棄しても良いと思っている」
「ーッ! な、なに言うのですか」
ランドブルの王位継承権を放棄するという言葉に王妃は焦る。愛する長子を次期国王にと今まで頑張ってきたのに、全てを吹き飛ばす彼の言葉に、王妃は目の前が真っ暗になった。
一時の気の迷いなら問題ないが、誕生祭での出来事もある。あの時と同じように公の場で王位継承権を放棄すると口にしたら、彼が次期国王になる芽を完全に摘むことになる
たとえ、その場だけの言葉だと後で撤回しても、女のために軽々しく王位継承権を放棄する王子など、誰も信用しない。
万が一そうなったら、第三王子を次期国王に据えなければならないが、第三王子は公爵の婿入りが決まっていて、王妃と言えども簡単には解消できない。公爵は王族派の最大勢力で、立場は違えど同じ王族だからだ。
愛する長子ランドブルを、次期国王にするために準備した道筋が仇となり、次期国王には側室のカリーム・ローレンス・ジュリアーナの息子、アルフレード・カリーム・オーウェン第二王子が即位する可能性が出てくる。
王妃は、それだけは絶対に許さない。
「わたくしは、本気です。どうしても反対するなら、王位など要りません」
「………… 」
「母上、父上を説得していただけませんか」
息子の真剣な眼差しを受けながら王妃は、いつの間にかカローナローレンを王妃に据える方法を考えていた。
王位継承権を放棄するというランドブルの言葉は、王妃の考えを引っ繰り返すには十分な力を持っていた。我が息子ランドブルの願いは、自身の願いに繋がるからだ。
「分かりました。陛下を説得してみます」
「ありがとう存じます、母上」
「多少時間の時間はかかりますから、その間、迂闊な事をなさってはいけませんよ」
「勿論です、母上」
ランドブルは勝ち誇った顔で王妃の間にを出ていき、部屋に残った王妃は、我が息子を次期国王にするための策略を考え始める。
新作です。
勇者召喚の失敗例、運び屋。~俺は異世界でも日本でも、大金持ちになって幸せに暮らすぞ~
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