25、お姫様抱っ
現在、一番隊は二番隊の拠点に向かい、全力で森の中を走っている。サリーのお陰で一番隊も二番隊もピンチは免れたが、未だ安心できる状態とは言えず、一刻も早く彼らの元に駆けつけなければならない。
エルシーからの念話でサリーは、二番隊が今のところ問題はないと確認は取れていたが、その事を他の人に伝える事ができないでいた。幽霊が二番隊のことを見守ってますとは、とても言えないからだ。
その結果、神様は、サリーに対して途轍もない試練を与えてしまう……
それは、お姫様抱っこという名の悲劇だ。
自業自得と言えばそれだけだが、それでも今の状況に納得するには無理がある。勿論自分が取った行動に不満があるわけではなく、今後も似たような事があれば、何度でも同じ事をするだろう。
問題は、なぜ騎士団長に、お姫様抱っこされているのかということだ。
身から出た錆びとはよく言ったもので、サリーの見事なまでの大嘘がこの結果を招いてしまった。
「あの、騎士団長。恥ずかしいので、わたくしも歩きます」
「ダメだ! 何かあれば、俺が侯爵様に顔向けできん」
さっきから、この調子で騎士団長はサリーの話を全く聞かない。彼女が大人になってから初のお姫様抱っこは、好きでもない男になってしまった。
「騎士団長様、お願いします。わたくしに、サリー様を預けててください」
「ジルメリッサ嬢、それはダメだ。貴女もお疲れでしょう、サリーローレンス嬢は私に任せてください」
「大丈夫です。わたくしなら、サリー様のお陰で全く疲れておりません。ですから、是非サリー様を運ぶお手伝いをさせてください」
「だから、ジルメリッサ嬢。何かあれば、私の責任になるから無理です」
ジルの必死の懇願を、雁として騎士団長は譲らない。彼は誰よりも責任感が強い男だ、だからこそ騎士団長にまでなったのだ。よって、サリーがお姫様だっこを免れない手段はない。
(わたくしが生きていたなら、サリー様をお姫様抱っこしてたのに…… )
(こんな時に、何を言っているのですか? エルシー)
(だって、ジルではないけど、わたくしだって、サリー様をお姫様抱っこしたいですもん)
(ですもんじゃないです。わたくしは金輪際、誰にもお姫様抱っこはさせません)
人生で一番恥ずかしい思いをしている時に、エルシーは何を考えているのかと、鈍いサリーは思っていた。なにかと最近のエルシーは、妙にジルに対抗心を持っている。サリーには、彼女達の気持ちが分からないでいた。
元々前世でも誰とも付き合った事がない彼女には、そんな感情が希薄だった。
二番隊の拠点に到着した一番隊の騎士団は、すぐに元の一番隊の拠点から持ってきた魔除光を、二番隊の壊れた魔除光と交換する。
拠点における一連の作業を終えた彼らは、サリーの事を話し合っていた。勿論、情報を絶対漏らさないという確約を、二番隊の騎士団から得るためだ。彼らも命が掛かっている以上、お互いに協力するしかない。
(サリー様、彼らは約束を守ってくれるでしょうか?)
(別に守ってくれなくても、良いのですよ)
(えっ、どうしてですか?)
(今日の事を、誰かに話しても信じてくれないでしょ。信じて貰えない話を誰かに話して、命を危険に晒すバカはいないわ)
(そうですね)
『炎上鳳凰』『雷鳴』『龍神』『人攫い地蔵』これらの話と、サリーが魔物使いで、そのうえ先天性の疾患だなんて、そんなバカげた話を誰が信じるというのか。
(エルシー、お願いがあるのです)
(お願いですか?)
(そうです。実は、他の騎士団の方達は大丈夫かと思いまして)
(分かりました. 調べてきます。ただ、前にも話した通り、わたくしはサリー様から一定以上の距離を離れることができません。だから調べても三番隊までですよ)
(それで良いです。面倒かけますけど、お願いしますね)
(それと場所が分からないので、少し時間がかかります)
(それも仕方ないことです。ありがとう、エルシー)
一番隊と二番隊だけの魔除光が、同時に壊れたとは考えられなかった。そこで他の隊の魔除光も同じように壊れているのではと考え、三番隊だけでも調べることにした。
三番隊も同じように壊れていたら、騎士団の全滅も覚悟しなければならず、これはアルフレード王国のとっても大問題だ。
「サリー様、宜しいでしょうか」
「どうしたの、ジル」
恍惚とした目つきでサリーを見つめながら、ジルが話しかけてきた。
「いえ、サリー様から預かった箱ですけど、あの力は?」
「あれは、わたくしの秘密です。いつか話しますので、待っていてもらえますか?」
「秘密…… 畏まりました。では、あの箱を頂くことはできませんか?」
「欲しいのですか? もう、不思議な力はないですよ」
「なくても良いのです。ただ、頂きたいだけです」
「宜しいですよ」
「ありがとう御座います」
別に譲っても問題ないので、そんなに欲しいのならと、サリーはジルにプレゼントする。それよりも、どんな嘘を吐けばジルが納得してくれるのかと、彼女は悩んでいた。
今回の魔物討伐は問題山積みとなったが、最大の問題を話し合ってた騎士団の結論が出たらしく、騎士団長がわざわざサリーの元まで来てくれた。
「サリーローレンス様、話をしても良いですか」
「騎士団長様、それで話し合いは終わったのですか?」
「はい、結論から言うと、魔除光の壊れた問題は国と教会に報告しますが、大量の魔物を討伐した件は、数を少なく見積もって報告します」
「それで、宜しいと存じます。くれぐれも、例の件は内密にお願いします」
「分かりました」
悪代官みたいな物言いで、サリーは見事に危機的状況を乗り越えた。これで一先ず王国から逃げなくて済むと、彼女はホッと溜息を一つ吐いた。
騎士団の話し合いの中で、彼女が一番気になってた事は、彼女自身が討伐した魔物の数の多さにある。あれだけの数の魔物を討伐したと言う事は、魔物の数が異常に多かったと言う事だ。
つまり、国や教会に全ての報告を取りやめれば、今後の安全に確実に問題が残るし、報告すればサリーの事も話さなくてはならないからだ。
結果、騎士団の方が、上手いこと処理してくれるので、サリーにとっては万々歳と言える。魔物の討伐数は彼らの手柄にもなるので、余計に秘密にしてくれるだろう。
「ところで、他の騎士団の事はどうなさるつもりですか?」
「気になりますが、聖法師の魔力が戻らないので、今動くことはできません」
「畏まりました。確かに仰る通りです。現状、動くのは危険ですからね」
「その通りです」
騎士団長は賢明な判断を下した。騎士団も、今回の魔除光の件は問題にしてるようで、それが一番隊と二番隊だけと考える事は、危機感の欠如と言えよう。
ただ、いくら他の騎士団が心配だからといって、現状を確かめに行くのは死にに行くようなものだ。
騎士団長は仲間の事が心配で仕方ないのだろう、話してる間もずっと拳を握りしめていた。
(サリー様、三番隊は無事です。何も起こっていません)
(良かった。ありがとう。エルシー)
サリーは、ホッと胸を撫で下ろした。
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