24、ジルの思い 2
業魔の森に到着して、ジルとサラサは騎士団の後をついていく。二番隊の隊長の名前はギルクと言い、隊長らしからぬ細身の男だった。
少し湿った森の中を、大勢の男性に囲まれて歩いていく。男性が苦手なジルは、サラサの後ろを離れまいと必死に歩くだけだ。
「気をつけろ、魔物だ」
誰かの声が聞こえてきて、皆に緊張が走る。当然ジルにも聞こえたので、彼女は不安でサラサの服の端を摘んでいた。
騎士団の怒声とも思えるやり取りを聞きながら、男は乱暴で野蛮な人だと勝手に妄想を膨らませていた。やがて、騎士団の声が聞こえなくなり、戦闘が終了したことを知る。
「すまない、彼の怪我を治してくれ」
「分かりました」
腕に大怪我を負った男性を、サラサが聖魔法を使って治療する。今回は魔物討伐が初めてのジルに、サラサが気を使ってくれていた。次回からはジルも、自ら進んで行動しなければならない。
ジルは少し怖いけど、今度は頑張ってみようと思ったが、残念なことに魔物はその後現れなかった。
二番隊は適当に開けた場所を拠点と決め、魔除光を周囲に設置して昼食を取ると、再び魔物討伐に出かけていく。だが、いくら森の中を歩き回っても、魔物は見つからなく、空振りに終わってしまう。
その日は魔物討伐は諦めて、すこし早いが体を休ませ、明日の魔物討伐に備えようとなった。ジルもサラサも設置したテントに入ると、歩き疲れた両足をマッサージしてから、そのまま眠りにつく。
真夜中に突然の大声で、ジルとサラサは同時に目が覚める。二人は慌ててテントから飛び出ると、騎士団が魔物と戦っているところだった。
「サラサ、これはどういうこと?」
「私も知らない! でも、兎に角騎士団の所に行くわよ。怪我人が出たら困るからね」
「分かりました。行きましょう」
急いで騎士団を見つけ、駆け寄った二人は愕然とする。数えられない程の魔物が、今にも拠点に押し入ろうしていたからだ。
「ジル、これはヤバい状況だけど、取り敢えず二手に別れて騎士団を手伝うわよ」
「そうね、わたくしはこっちに行くわ」
「ええ、お願い」
サラサと分かれたジルは、ギルクの側にできるだけ近寄り、声をかける。
「隊長、ジルですけど、何か手伝うことはありますか?」
「今は良い、だが、悪いが聖魔法を使うことを制限してほしい。この魔物の数では、君の魔力がすぐに尽きてしまう。だから俺の命令があるまで制限してほしい。分かったな」
「はい、分かりました」
ギルクはジルとの会話を急いで終えると、団員に忙しく命令していく。幸いなことに魔物は一斉に入ってこれないので、なんとか拠点の前線で抑え込むことができていた。
「ジル、こいつの腕を頼む」
「はい」
ジルが、男の治療を終えると、男は再び魔物に向かっていく。さっきから同じ事を何回か繰り返しているが、一向に魔物の数は減る様子がない。
昼間に魔物と遭遇しなかったことで、ジルの魔力は十分残っていたが、既に半分近く使っている。このまま戦いが続けばと考えただけで、背筋が凍る思いがした。
「隊長、こっちからも魔物が入ってきます。応援してください」
「分かった、おい、お前ら五人は、あいつのところに行け!」
「「「分かった」」」
魔物との戦いは混迷を極めていき、誰もが先の見えない戦いに不安になりながらも、必死に戦っている。隊長に治療は大怪我だけと言われているため、多少の怪我は無視して魔物と戦っているが、小さな傷でも数が増えれば体が動けなくなっていく。
それ故、ある程度時間が経つと、大怪我を負う人が出てきた。ジルは聖魔法を駆使して懸命に治療をするが、彼女の魔力にも限界がある。
「ダメだ! 魔物が入った、なんとかしてくれ」
「分かった、俺が倒す」
遂に、魔物が拠点の中に入ってきたが二体だけなので、なんとか倒すことができた。
だが、もう騎士団も聖法師も、既に限界に近づいていた。
倒しても倒しても、続々魔物が押し寄せてくる。誰もが死を覚悟するには十分な状況だった。
(もうダメ、魔力が、もう無い!)
必死に怪我人を治してきたジルの魔力が、底をつきかけていた。
「ダメだ! 抑えきれない!」
「がんばれ! 俺が今行く!」
「こっちにも、誰かきてくれぇえ!」
そこら中から団員の悲鳴に似た叫び声が、ジルの耳にも聞こえてくる。もう限界は目の前だ。
(サリー様、わたくしは、ここまでです。もう一度、お会いしたかったです…… そうだ、サリー様が…… )
サリーから預かった四角い箱を思い出し、慌ててポーチから取り出す。
この箱を開けたからといって、今の状況が変わるとは思えないが、サリーとの思い出を胸に秘めたまま、死ぬのも良いかなと考えていた。
「ジル! 魔物がそっちに!」
箱の蓋を開けようとしたタイミングで、魔物がジルに襲ってくる。ジルは慌てて魔物を避けようとしたが、背中に衝撃を受けて吹っ飛んでしまった。
ジルを吹き飛ばした魔物は、大きな口から涎を垂らすと、ジルに向かって突っ込んでくる。
(サリー様、大好きでした)
ジルが死ぬ覚悟をしたとき、箱の中から旋風が飛び出した。旋風は、目の前の魔物を滅多切りにしながら、次々に近くの魔物を切り刻んでいく。
不思議なことに旋風は、魔物だけを切り刻み、人間には一切攻撃を加えない。
(あれは、やはりサリー様が…… )
学院でサリー様と、チェリーナ達との騒動に巻き込まれたときも、今と同じように旋風が守ってくれた。
(守ってくれてるのだから、わたくしも頑張らないと…… )
そう思って、手近な木の根を掴み立ち上がろうとしたとき、空を巨大な火の鳥が飛んでいた。
(こ、これも、サリー様が…… サリー様、貴女はいったい…… )
巨大な火の鳥に恐怖を覚えたが、火の鳥は拠点の周囲にいる魔物を全て燃やしていく。だが、不思議なことに、目の前で魔物の大群が燃やされているのに、ジルは熱さを感じていなかった。
拠点の外では火の鳥が魔物を殲滅していて、拠点の中は旋風が魔物を切り刻んでくれる。
(サリー様…… )
ジルの記憶は、ここで一旦消えてしまう。そして、再びジルが目覚めた時は、なぜかサリーにお姫様抱っこされていた。
(これは、夢? でも、でも、目の前にはサリー様が…… )
夢でも良いからサリーに抱きつこうと思い、薄っすらと目を開けようとしたとき、サリーが知らない女の名前を呼んだ。
「カレン、彼女をお願いします」
「は、はい。分かりました」
(カレンって、誰よ!)
ジルの苦難は、まだまだ続く。
もう一つの作品、
『勇者召喚の失敗例、運び屋。〜俺は運び屋のスキルを使い、異世界に日本の商品と技術を持ち込み、異世界中に巨大な流通網を作り上げ、莫大な富を得て国王よりも権力を持ちます。〜』
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