第77話 ジュリア姉様とランディさんの様子には、女性指揮官達が興味津々……
バーテルズ王国防衛軍への指示。
それは単純だった。
対峙しているアビチェラ王国の軍は、バーテルズ王国を強引に正面から突破するのではなく、防衛戦力を左右に分散させ、その隙を突いて中央突破する事らしい。
更にはその勢いに乗ってバーテルズ王国の王都まで攻め込み、バーテルズ王国を呑み込むつもりなのだとか。
アホかい……
そんな簡単に事が運ぶと本気で思ってんのか?
私はアビチェラ王国の作戦通り、中央の防衛戦力を左右に振り分けておいた。
そして、残った中央の防衛戦力には、適当に戦ったら即座に撤退する事を命じておいた。
勿論、その後は私達(正確にはジュリア姉様とランディさんの軍)が足止めする。
「そうやってアビチェラ王国軍を中央で釘付けにしておいて、左右からジェニファー、レイチェルの軍で攻め込む…… しかも、狙いは食料庫や野戦病院って…… やっぱりジェニファーって悪魔だわ……」
私の作戦指示に、ジュリア姉様はドン引きしながら言う。
「何を言ってんですか!? そもそも敵国の王都まで攻め込むなんて夢物語に決まってるでしょう!? 現実的なのは〝食料を焼くか強奪して敵を飢えさせる〟か、〝病院を破壊して治療出来なくする〟でしょうが! 『食べられない』『怪我も治せない』軍隊が、満足に戦えると思いますか!? 出来ませんよね!? 敵国の王都まで攻め込んで陥落させるのと、敵軍の後方支援部隊をブッ潰すのと、どっちが現実的だと思ってるんですか!?」
私が捲し立てると、一番冷静なレイチェルさんが最初に頷きながら言う。
「確かにジェニファー様の仰る通りですわね…… 国境を越え、途中の街を抑え、王都まで攻め込む時間や労力を考えれば…… 敵軍の食料庫を焼くなり抑えるなり、野戦病院を破壊する方が遥かに効率的ですわね」
そしてレイチェルさんの軍は敵の右翼から、私の軍は敵の左翼から攻め込み、ジュリア姉様とランディさんの軍が正面から攻め込む事にしたのだが……
「なんで私とランディの軍が、一番防衛網が厚い正面を突破しなけりゃいけないのよっ! そこは戦力的に見ても、ジェニファーの軍が突破すべきじゃないの!?」
捲し立てるジュリア姉様に、私は呆れながら言う。
「ハッキリ言いますけど、現在のアビチェラ王国軍で一番戦力が少ないのは正面の軍ですよ? そうなる様に仕向けた事を忘れたんですか?」
私が言うと、ランディさんは思い出した様に言う。
「そう言えば…… 敵の戦力が左右に分散する様に、俺達の軍やレイチェルの軍で散々撹乱したっけな…… ジェニファー様は、正面の軍を適当にあしらってただけだったか? そのお陰かアビチェラ王国の連中、俺達の狙いが〝左右からの後方部隊の壊滅〟だとでも思ったのか、戦力を右翼と左翼に集中し過ぎって言うぐらい、正面…… てか中央の防御が目に見えて薄くなってるモンな♪」
私はランディさんの意見に頷きつつも、ランディさんとジュリア姉様を見る。
その視線に気付いたのか、ジュリア姉様は私を怪訝な眼で見る。
「もしかしたらと思うけどジェニファー…… ジェニファーの軍とレイチェルの軍を囮にして、私とランディの軍に正面突破させようってんじゃないでしょうね!?」
私は満面の笑みで応える。
「ピンポーン♪ まぁ、私の軍もレイチェルさんの軍も、それなりにしっかりと戦いますから正面突破は難しくないと思いますよ? だけど、手を抜いたら全滅…… とまでは言いませんが、軍の責任者であるジュリア姉様とランディさんには処罰が下されるのは確実だと思いますので、全力で戦って下さいね~♡」
言って、私とレイチェルさんは自軍の陣地へと戻ったのだった。
背後からジュリア姉様の
「全力で戦って下さいね~♡ じゃないっっ~のっ!」
と言う叫び声を聴きながら……
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「なんなのよ…… なんで私達が敵の正面から攻め込まないといけないのよ……」
「まあまあ、ジュリア様。考え様に依っちゃ、敵兵の少ない場所に攻め込むんですから、結構ラク…… てか、ジェニファー様の事だから、新婚ホヤホヤの俺達に無理をさせない様に差配してくれたんじゃないですかねぇ?」
ブツブツ文句を言うジュリアにランディが軽い調子で言うと、ジュリアはランディをギロリと睨む。
「え…… っと…… 俺、何か変な事、言いました…?」
陣の中に建てられた簡易宿所(ジュリアとランディ専用:2人は指揮官であり夫婦なので、当然と言えば当然)の中で、思わず後退るランディ。
「あのねぇ、ランディ……」
言ってジュリアは大きな溜め息を吐く。
そして一気に距離を詰め、ランディの襟首をガシッと掴む。
「私達、夫婦になったんだから、敬語は止めてって言ったでしょ!? 『様付けもいらない』『呼び捨てで構わない』とも言ったわよね!? いつまで他人行儀なのよ!? ……そりゃ、私の方が4つも歳上だし、元はベルムート王国の第1王女だけどさ…… 今はランディの、ランドルフ・カーマンの妻で、ジュリア・カーマンなんだよ…?」
ジュリアは掴んでいた襟首から手を離し、ランディの胸に顔を埋めて抱き付く。
「ジュリアさ…… いや、ジュリア……」
ランディも宙を彷徨わせていた腕でジュリアを抱き締め……
「悪い…… つい、年齢差とか身分差を考えちまってな…… 無意識に敬語を使っちまってた…… これからは気を付けるよ…… まぁ、今までの習慣もあるから敬語になっちまう事も無いとは言えねぇ…… そん時ゃ、遠慮なく言ってくれ。すぐに直るとは言えねぇけど、努力するよ。せめて、俺達の子供が生まれるまでには直してみせるさ。確約は出来ねぇけどな♪」
「ランディ…… ありがと……♡」
言って2人は熱い抱擁を交わしたのだった。
簡易宿所の外で、気配を完全に消したジェニファーが様子を窺っていたのにも気付かず……
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「……てな感じで、姉様とランディさんの関係はとても良好…… と言うか……」
「ジュリア様、ランディにベタ惚れですわね…… まったく、あんなのの何処に惚れたんだか……」
私の報告に、レイチェルさんは呆れた様に言う。
が、私の簡易宿所に集まった他の女性指揮官達は、興味津々で2人の様子を根掘り葉掘り聞いてくる。
恋バナに飢えてるんかい……




