第76話 やられたらやり返しますよ
まさか、私の実力が〝人知を超える〟程に突出していたとは……
ちょっと人より優れてるだけだと思ってたんだけどなぁ……
「何が〝ちょっと〟よ…… 私達3人(ジュリア、ランディ、レイチェル)は、それぞれが100人を相手にしてギリギリだけど勝てる実力を持ってんのよ? ジェニファーはその3人を同時に相手して、ほんの数分で全員を倒したのよ? しかも、ランディとレイチェルに至っては、気絶させられたんだからね?」
ジュリア姉様がクレームを入れるが、そのジュリア姉様ですら片足を引き摺り、ヒョコヒョコした歩き方になっている。
「……この歩き方だって、ジェニファーの振るった木剣が膝を横から直撃…… 魔法医の話だと、膝の半月板ってのが損傷してるらしいんだからね!? ……ったく、少しは手加減しなさいよね、実力差は明らかなんだから……!」
言ってジュリア姉様は診察と治療の為、魔法医の居る野戦病院へと向かったのだった。
私はジュリア姉様から好き放題言われた鬱憤を晴らすが如く、ストレイフ王国の兵士の腕や脚を斬って斬って斬り捲って戦闘不能にしてやった。
勿論、殺してはいない。
以前にも説明したと思うが(誰に?)、負傷した兵士は死んだ兵士より厄介なのだ。
戦えないのに食料や水は消費する。
その上、治療費も必要で高額になる。
なにしろ私の斬り方は、斬った瞬間に手首を捻り、筋肉や靭帯を真っ直ぐには斬っていないのだ。
ほんの僅かな捻りだが、その捻りの所為で切断された筋肉組織や靭帯を元通りに修復出来なくしているのだから。
「それを事も無げにやっちゃうってのが、ジェニファーの異常な戦闘能力なのよね……」
ジュリア姉様の言葉に、脳震盪の気絶から復活したランディさんとレイチェルさんは、真剣な表情で大きく頷いていた。
ど~ゆ~意味だ、テメー等…?
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「もうストレイフ王国は虫の息だと言うのか!? だとすると数ヶ月…… いや、数週間以内にジェニベルム王国がアビチェラ王国に矛先を向けるのは明らかではないかっ!」
アビチェラ国王は、対ジェニベルム王国ともの前線から届く報告を聞き、手に持っていたグラスを報告に来た伝令兵に向かって投げ付けながら怒鳴る。
伝令兵は萎縮し、平伏したまま震えている。
「陛下…… 伝令兵を怒鳴っても、何も好転しませんぞ? やはり…あのアンドレア帝国を倒したジェニベルム王国に対し、反旗を翻す事は無謀だったのでは? ジェニベルム王国の一地方として忠誠を誓い、静かにしていた方が賢明だったのでは? この考えは私だけでなく、多くの貴族や大臣も同意しております……」
謁見の間で伝令兵の報告を聞いた貴族や大臣の殆どは、沈痛な面持ちで顔を伏せていた。
しかし、アビチェラ王国の国王であるイーヴァン・アビゲイルは、そんな様子を見て逆に激昂。
「そんな弱気でどうする! ジェニベルム王国は確かに大きな国だが、前のアンドレア帝国との戦やストレイフ王国との戦で疲弊しておろう! 逆にストレイフ王国は、アンドレア帝国との戦では後方支援に徹していたから兵力も物資も充分な筈だ! 一気呵成に攻め込めば、完全勝利とは行かずとも、ある程度の領地は得られるだろう! 全力を持って攻めよ! 怖気付く者は、この場で粛清する!」
イーヴァン・アビゲイル国王の一喝で、会議に参加していた貴族や大臣達は渋々ながら従い、会議室を後にした。
(これでは噂に聞いていたアンドレア帝国皇帝と同じではないか……)
そんな思いを胸に抱きながら……
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「……てな感じで、ストレイフ王国の貴族達や大臣達は、かつてのアンドレア帝国皇帝に対する貴族達や大臣達と似た様な感情をアビチェラ国王に抱いてる様子ですね」
「正直言って、アビチェラ国王に対する貴族達や大臣達の忠誠心は地に墜ちてるって感じですねぇ…… 適当に相手して、ジェニベルム王国との戦力差を見せ付ける…… と言うか、ジェニファー様、ジュリア様、ランディ殿、レイチェル殿の軍で蹴散らせば、すぐに戦意喪失するんじゃありませんか?」
アビチェラ王国に潜入し、内情を探っていたミハエルさんとミーナさんからの報告を聞き、私は決意を固めた。
「……全力を持って叩き潰します。ジュリア姉様、ランディさん、レイチェルさん、覚悟は出来てますね…?」
私は3人に視線を向け、更に彼等の背後に控える〝軍の指揮官達〟にも睨みを効かせる。
「ま、ジェニファーの決意は固いみたいだし、やるしかないでしょ?」
「俺は最後までジェニファー様と共に戦うって決めたからな。今さら否も応も無いぜ?」
「私もですわ。まぁ、私に出来る最大限はの事はするつもりですわよ?」
ジュリア姉様、ランディさん、レイチェルさんが言うと、彼等の背後に控える〝軍の指揮官達〟も、胸に手を当てながら声を揃えて言う。
「「「「「我々もジェニファー様と命運を共にする覚悟です!」」」」」
全員の言葉に私は満足し、決意を伝える。
「ならば、今すぐ準備に掛かって下さい! アビチェラ王国の準備が整う前に攻め込みますよ! 既にアビチェラ王国と対峙している前線部隊には早馬で連絡! アビチェラ王国の侵攻を食い止める為、遅延作戦を徹底する様、伝えて下さい!」
ジェニファーの命を受け、3人の伝令兵(万が一捕えられた場合を考え、複数人数を派遣)は、それぞれ違うルートで前線へと馬を駆けさせたのだった。
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「なるほど…… では、我々は積極的に戦うのではなく、消耗を抑えつつ敵の足止めに徹すれば良いと?」
「はい、戦意の高い兵は不満に思うでしょうが……」
アビチェラ王国軍と対峙している軍の指揮官達は、伝令兵からの指示を聞いて肩を落とした。
「やはり、我々の戦力ではアビチェラ王国軍を押し返すだけの力は無いと言う事か…… まぁ、薄々そうではないかと思ってはいたが…… それでもだ! ジェニファー様の期待に完全に応える事は出来なかったが、新たな指示である〝遅延作戦〟は成功させようではないかっ! 皆の者! ジェニファー様は、我等の戦力・戦術ならばアビチェラ王国軍を足止め可能だと信頼して下さっているのだ! ならば、その期待に応えようではないかっ!」
対アビチェラ王国軍総司令官の檄に、兵士達は
「「「「「おぉおおおおおおおっ!!!!」」」」」
と士気を上げ、死に物狂いと言っても良い必死さでアビチェラ王国軍の侵攻を食い止めていた。
そんな状態が2週間ばかり続いた頃、ジェニファー達の軍が到着したのだった。
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「お待ちしておりました、ジェニファー様。そしてジュリア様、ランディ殿、レイチェル殿。ご指示の通り、アビチェラ王国軍は国境を越える事は出来ず、足踏み状態です」
うん、それは想定の範囲内だな。
「ただ、アビチェラ王国側は、何とかして我等の防衛網を突破しようと躍起になっている様ですな」
なるほど……
てか、それを利用すれば簡単に(一部の軍とは言え)殲滅出来るだろ……
「では、アビチェラ王国軍が突破したがってる部分の防衛網を手薄にしましょう」
私の提案に、国境の防衛戦を担っているバーテルズ王国の『ミケーレ・バーテルズ国王』は難色を示す。
まぁ、気持ちは解らなくもない。
国境の防衛を手薄にすれば、敵は手薄になった部分に集中して攻撃を仕掛けてくるだろうしな。
しかし、それこそが私の作戦。
私が作戦を説明すると、バーテルズ国王は勿論、集まっていたバーテルズ王国貴族や大臣達も納得し、行動を開始したのだった。




