第78話 戦い方(特に人体の急所)を説明するジェニファー
バーテルズ王国防衛軍とアビチェラ王国軍との戦い。
それは完全にとは行かないものの、おおよそ私が思い描いていた状況で進んでいた。
アビチェラ王国軍は我が軍(バーテルズ王国&ジェニベルム王国との連合軍)に対し、いかにも『左右から攻め込むぞ』ってな感じで軍勢を配置。
勿論、そんな事はミハエルさんやミーナさんを隊長に据えた偵察隊からの報告で承知している。
その上で、我が軍(バーテルズ王国&ジェニベルム王国との連合軍)は、敢えて自軍の左右に兵を集めている様に見せ掛けている。
そして、夜明けと共にアビチェラ王国軍は我が軍の左右から攻め込んできた。
が、それは飽くまでも見せ掛け。
左右から攻め掛かる兵の大半は、無理矢理かき集めた農民や一般人に鎧を着せて武器を持たせただけの〝見せ掛けの兵〟なのは明らか。
統率も取れてないし、闇雲に武器を振るって駆け込んで来るだけ。
私が『プロの兵士じゃない連中は戦闘能力を奪うだけに留め、決して殺さない様に』『自身の命が危険に及んだ場合は別として、敵兵士が素人だと知りつつ殺した事が判明した場合、その兵士は問答無用で私が公開処刑する』と伝えておいたので、特に問題なく左右から攻め込んできた敵軍は殲滅。
更にミハエルさんやミーナさん達から、敵軍に偽情報を流しておいた。
曰く、
『ジェニベルム王国の左翼軍は、我が軍の右翼の攻撃を食い止めるのに精一杯の様子!』
とか、
『ジェニベルム王国軍の右翼軍、我が左翼軍の攻撃に対して右往左往しているとの事!』
との情報を完全に信じ込んでいるらしい。
アホやろ……
自身の目や耳、あるいは絶対的に信用出来る側近の意見より、自身が見た事もない偵察兵の言葉を簡単に信じるなよ……
私だったら、そんな初見の偵察兵の報告なんざ、聞くだけは聞くけど無視してミハエルさんやミーナさんに確認するわ!
とにかくアビチェラ王国軍の指令部は、偽の報告を素直に信じていた。
そして、本命のアビチェラ王国中央軍は、手薄になっていると思い込んでいる我が軍の正面からほぼ全軍で攻め込んでくる。
しかし……
「何故だ!? 何故、敵軍の中央の守りがこんなにも厚い!? 左右に散らす事に成功したのではないのかっ!?」
アビチェラ王国軍の司令官が叫ぶ。
しかし、現実は残酷である。
戦局を完全に見誤った司令官が率いる軍は、私の敵どころか我が軍の雑兵の敵ですらない。
次々と腕や脚の腱、あるいは筋を斬られ、戦闘不能に。
その上で私達は、敵兵を(殆ど)殺す事なく放置して陣地へ撤収。
敵軍は、死んだ兵は別として負傷兵を見捨てる事も出来ず(そもそも我が軍に対して兵数が足りない)、懸命に負傷兵を回収して治療。
何とかして前線、あるいは指令部の守衛として使おうと思っていた様だが……
そんな簡単に事が運ばないのが戦場の常。
負傷兵は、何もしなくても怪我が治るワケじゃない。
適切な治療を施さないと、傷が治っても兵士として役に立たなかったりする場合が多い。
更には食事。
怪我が治るまで、充分な食事を与える必要がある。
充分な栄養が摂れていないと怪我の治りが遅くなったり、治っても(怪我に依っては)戦線に復帰する為の体力が回復してなかったりする。
どこの国にも医師や魔法医は存在しているが、現状ジェニベルム王国以外の国では、前のアンドレア帝国との全面戦争の影響で、全国的に不足している。
町医者ですら不足している状況で、戦場に連れて来れる医師や魔法医の数など、たかが知れている。
そんな中、〝敵を殺す〟事を前提として猪突猛進的に攻め込む兵士(アビチェラ王国側)と、〝敵の戦闘能力を奪う〟事を前提にしている兵士(ジェニベルム王国側)とでは、兵士が負傷する確率が大きく異なる。
当然ながら〝敵を殺す〟には、敵兵に(かなり)近付かなくては致命傷を与えるのは難しい。
逆に〝敵の戦闘能力を奪うだけ〟なら、手持ちの武器が当たる距離まで近付くだけで充分と言える。
まぁ、手持ち武器の有効攻撃範囲次第だが……
それでも〝敵を殺す〟事ばかり考えさせられているアビチェラ王国軍兵士に比べれば遥かにマシと言える。
敵に致命傷を与えようと思ったら、主に狙うのは3ヶ所。
まずは首。
頸動脈を斬れば、一気に血が吹き出し数瞬もしない内に意識を失い、そのまま脳への血流が不足して死に至る。
更に言えば、兜で守られてる頭や鎧で守られてる胴と違い、周囲を見渡す為に首を上下左右に動かす必要があるからか、窮屈で硬い防備が使われない傾向にある。
その為、腕に覚えのある兵士からすれば、狙い易い急所と言える。
ちなみにだが、ジェニベルム王国の兵士が被る兜には鎖帷子の様な保護具が付いており、首を斬り付けられても頸動脈は無事な仕様になっている。
まぁ、衝撃に依るダメージは受けるけどね……
次に頭。
脳を斬れば、間違いなく敵は死ぬ。
しかし、その為には兜を斬らねばならない。
腕の良い兵士なら、兜なんか物ともせずに敵の頭を斬ってしまう。
だが、そんな兵士は数える程しか居ない。
鉄で出来た兜ごと敵の頭を斬るなんて芸当(?)、ジェニベルム王国でも私は勿論、ジュリア姉様、ランディさん、レイチェルさんを含め、他に10人も居ないんじゃないかな?
とにかく、それだけ難しいって事だ。
最後は心臓。
ある意味では、一番簡単かも知れない。
鎧さえ無ければ、一直線に突けば良い。
〝突き〟ってのは、単純な動きのワリに避け難いし、動きが単純なので連続で出し易い、攻撃側に有利な技と言える。
単純に〝敵との距離〟も短いし。
しかし、問題なのは防具。
剣道なら、基本的に高校生以上は突き技が認められているが、突きを入れられるのは面の突き垂部分のみ。
胴を突く〝胸突き〟が認められているのは二刀流のみ。
なので、私は相手の胸を突く(反則)と見せ掛けて喉の面の突き垂を突いたり、胸突き(反則)と見せ掛けて面打ち、胴打ち、小手打ちに切り替えて勝っていたのだ。
姑息と言うなかれ。
競技で勝つならば、相手の裏を欠く為に反則スレスレ(ただし、本当に反則を犯しては本末転倒)の行動も、実際に反則を犯さなければ許されるのだ。
……まぁ、異論はあるだろうが、異世界では地球での常識は通用しないのだから仕方無いだろう。
いずれにせよ、動きの大きい上半身。
心臓を狙って確実に突き刺せるワケも無いのだが、敵兵は素人が多いだけに隙が多く、簡単に倒せていった。
まぁ、敵に教える必要は無いんだけど、腹部も急所なんだよね。
腸は傷付けば数時間で腐り始めるので、すぐに治療しないと確実に命を落とす。
ついでに言えば、腹部は身体の中心にある為に大きく動かず、狙いが付け易い。
だから、我が軍の兵士には『腕や脚が斬り難いなら 下腹(腸の部分)を突き刺せ』と命じてある。
とにもかくにも、私達の軍はアビチェラ王国兵士の戦闘能力を奪う事にのみ注力したからか、多少の怪我人は出たものの死者は0。
対するアビチェラ王国軍は、腕や脚を斬られて戦線離脱する者が多数。
腕や脚を斬られなくても、腹(下腹)を刺され、即死には至らないものの数日間苦しんで死んでいっった。
勿論、少ないものの食料は死ぬまでに消費する。
しかし、胃や腸の内部に達する傷が付いていれば、食べた物が漏れ出して腹膜炎を引き起こす。
「よくもまぁ、ここまで人体の急所を知り尽くしてるモンだって感心するわよ……」
「まったくだぜ。俺がジュリアさ…… じゃなくて、ジュリアと結婚したから同い歳ながら義妹って事になるんだけど…… 時々ジュリアや2人の義兄上がジェニファー…… って言って良いのか?」
ジュリア姉様やに続いてランディさんが発言するが、最後まで言い切らずジュリア姉様に確認する。
なるほど……
私は義理とは言え妹になるワケだから、呼び捨てにして良いのか姉様に確認したんだな?
昔、私がベルムート王国の王女だった時、私を呼び捨てにしようとしてレイチェルさんに叩かれた事でも思い出したんだろう。
「う~~~ん…… 確かにランディはジュリア様と結婚して、ジェニファー様の義兄って事ですけど…… 私達、元の身分に戻ってますわよね? ジェニファー様は王族、ランディは侯爵家の嫡男。で、ジュリア様は侯爵家に降嫁されたワケですから…… やっぱりジェニファー様を呼び捨てにするのは不敬なのでは?」
レイチェルさんに言われ、ランディさんは……
「やっぱ、そうなるよなぁ~……」
と、苦笑していた。




